Cover Artist | 東京スカパラダイスオーケストラ -後編-
最終的にストラトに行き当たりました
東京スカパラダイスオーケストラの新作「GLORIOUS」は、ラテン&J-ROCKというボーダーレスなミクスチャーサウンドを見事に料理した傑作だ。そのサウンドの要、リズム隊番長の川上つよしと、バンド内最年少でありながら多くのフォロワーを持つ加藤隆志(Gt)にべース論、ギター論を語ってもらった。
― インタビューの前編ではニューアルバム「GLORIOUS」について聞きました。そこで”ラテンオルタナ”というキーワードが出ましたが、演奏面では具体的にどこが変わりましたか?
加藤隆志(以下:加藤) ギターで言うと大きな変化はなかったです。それよりもビートやリズムですね。これからのワールドミュージックでキーワードになるのは、ビートやリズムなんだと思います。
― そうなると川上さんですね。川上さんと言うとフェンダーのPrecision BassとJazz Bassです。
川上つよし(以下:川上) はい。というか僕はフェンダー以外のベースをほとんど使ったことがないんですよ。正直、他のメーカーのベースは、どうやって弾いたらいいかわからないくらいです。好きで聴いていた音楽が、60年代のモータウンを筆頭にしたソウルだったんです。あの手の音楽のベースはほぼ100%フェンダーなんです。だから自然とベース=フェンダーだと思って、フェンダーベースの音を嗜好するようになって今に至っています。
― ジャズベとプレベの使い分けはどんな風に?
川上 何となくですが、ジャズベのほうがオールマイティな感じです。ちょっとロックっぽいアグレッシヴな感じが欲しい時にプレベを使っています。
― 基本、指弾きですよね?
川上 そうですね。指弾きで覚えたので、逆にピックは上手く弾けないです(笑)。
― 指弾きは誰の影響だったんですか?
川上 ロックでも指で弾いてる人がけっこう多かったんです。例えばレッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズは指弾きでした。あとはモータウンも指弾きです。もちろん、ジェームス・ジェマーソンといった黒人系のベースプレイヤーは基本的に全員指弾きでしたよね。
加藤 あと、スカとレゲエもですよね?
川上 スカ、レゲエでピックで弾いている人はまずいないです(笑)。
― 確かに(笑)。今回のアルバム「GLORIOUS」でのプレベとジャズベの使い分けは?
川上 今回のアルバムで言うと、1曲だけエレクトリックアップライトを使っていますけど、他はプレベ率が高いですね。
― 一方、加藤さんと言えば64年製のStratocasterですね。
加藤 あのストラトを買ったのは99年です。ちょうどスカパラに加入する前夜のサポートの頃で、それ以来弾いていますね。
― どこで出会ったのですか?
加藤 大久保の楽器屋です。あの時期の僕は、70年代のニューヨークパンクを掘り下げていたんですけど、シングルコイルの60年代のストラトが欲しいと思って探していたところ、一番ピタッときたのがそのストラトだったんです。ストラトを弾く前までは、どちらかと言うとTelecasterのほうが自分には合うイメージだったんですけど、自分の好きな音をずっと聴き込んでいくと最終的にストラトに行き当たりましたね。
― ここ2年ほどはAmerican Professionalシリーズ(以下、アメプロ)のストラトを弾いていますね。
加藤 アメプロを弾くようになったきっかけは、海外で演奏するのにヴィンテージの楽器を持っていくとワシントン条約の関係で没収される可能性が高いらしく。それで困っていたところにアメプロと出会って。実際、海外のフェスでアメプロを弾いたらすごく良かったんですよ。正直、僕も川上さんもヴィンテージ以外はあまり弾いたことがなかったんです。そこでアメプロを弾いて、”今のフェンダーってすげぇいいんだ”って知りました。
― 楽器としては、モダンなアメプロとヴィンテージは真逆な感じがしますが。
加藤 2000年代初頭以降のフェンダーは、ヴィンテージの良さを現代に昇華させる発想だったと思うんです。弾いているとそれがわかります。
川上 確かにそうだね。
加藤 川上さんも僕も、自分の音の中心にあるのは60年代のヴィンテージなんですけど、そういう僕らが弾いてもアメプロは違和感がないんです。そういう作りになっていることがすごく衝撃的だけど、単純に”いい”と思える楽器だなと。つまり、今のフェンダーが作っているサウンドはすごくいいという結論になってきてますね。
― スカパラのみなさんはヴィンテージにしか興味がないイメージだったので、アメプロを弾くのは正直意外でした。
加藤 むしろアメプロやアメオリ(American Originalシリーズ)のほうが、楽器の音の出し方としてはヴィンテージよりもヴィンテージっぽく鳴らせる気がします。つまり、セッティングも含めて守備範囲がすごく広いので、その中で確実にヴィンテージっぽく出せるんです。実際、去年のサウス・バイ・サウスウエストでアメプロを持っていったんですけど、”これイケるな”と思いながら弾いていたんです。本当に大活躍でした。
― 川上さんはいかがですか?
川上 俺はヴィンテージじゃないと嫌とかは全然ないですよ。強いて言えばヴィンテージのほうがルックスは好きかもしれないですけど。
加藤 確かにルックスは萌える、萌えないがありますからね。
― 音で言えばヴィンテージでなくても問題ないと。
川上 ないですね。さっき加藤も言っていましたが、アメプロでもアメオリでもヴィンテージっぽい音は出せるので。ヴィンテージの要素を内包しているので、要はヴィンテージの部分も使えるしヴィンテージではない部分も使えるのでとても実用的です。
― なるほど。
川上 ヴィンテージがいいのはラクな点です。少々雑に扱っても、気候の変化とかでもそんなに状態が変わらないので、ズボラな人にはいいのかもしれません(笑)。
― (笑)。時代の荒波を越えて来たものには価値があると思うんですけど、新しいものにしかない価値もあると思うんです。
加藤 もちろんそうですね。”いい音楽とは?”という話に置き換えて言えば、昔の音楽にはいいものがたくさんあるんですけど、それってその時代にマッチして売れた音楽なんですよね。今も同じことが言えると思っていて。だから時代を無視することは絶対にできないし、例えばモーツァルトはいい音楽だと言われている一方で、今配信でナンバー1になる音楽も今の時代のいい音楽なわけで。この2つを比べた場合、”いい”の概念が全然違いますよね。大事なのは、モーツァルトもその時代で一番時代に呼応していた音楽だったということだと思います。
― それで言うと、スカパラの存在がそうですよね。スカという民族的で伝統的な音楽に現代の息吹を吹き込んでいる。きちんと時代に呼応しています。しかも多くのフォロワーを生んでいます。
加藤 恐れ多いです。でも今回、ユニゾンの斎藤くんとiLeとTOSHI-LOW(BRAHMAN)というメンツがひとつのアルバムに並んでいるのがすごく気持ちいいというか嬉しいし、本当に”いいな”と思うんです。スカパラにしかできない、国籍もジャンルもごちゃ混ぜのアルバムに仕上がったなと思います。
› 前編はこちら
American Professional Stratocaster® HSS Shawbucker
ピックアップデザイナーの巨匠、Tim Shawによって設計されたV-Modシングルコイルを2基、ShawBuckerハムバッカーを1基搭載。現代のプレイヤーにマッチする、モダンCとUの中間である新ネック形状“ディープC”を採用。
American Professional Precision Bass®
ピックアップデザイナーの名匠、Michael Bumpによって設計されたV-Modピックアップを搭載。ネック形状は63年製Precision Bassのものを採用。
東京スカパラダイスオーケストラ
ジャマイカ生まれのスカという音楽を、自ら演奏する楽曲は”トーキョースカ”と称して独自のジャンルを築き上げ、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、南米と世界を股にかけ活躍する大所帯スカバンド。アメリカ最大のフェスティバル、Coachella Music Festivalでは日本人バンド初となるメインステージの出演を果たした。オーセンティックなSKAからジャズ、ロックまでをも提示できるミュージカルパフォーマンスで世界中のSKAバンドの中でも特筆すべき存在であり、海外のアーティスト、音楽関係者も来日の際にはスカパラの音源を手に入れるためレコード店に足を運ぶなど、世界中のSKA愛好家たちにとってその名は憧れの対象であり続けている。89年、インディーズデビュー。幾度となるメンバーチェンジを乗り越え、現在のメンバーは合計9人。今なお常に最前線で走り続けている。
› http://www.tokyoska.net