My Original Playlist | 美濃隆章(toe)
日本のポストロックを牽引するtoe。そのギタリストであり、エンジニアとしても活躍する美濃隆章が登場。深淵なるtoeサウンドの要でもある美濃のプレイリストは、音楽の深淵なる世界に誘ってくれるディープな曲たちばかりです。
最後にグワっときた時のゾクゾク感がたまらなかった
― プレイリストの曲がプログレ、エモ、ポストロックという内容で流石はtoeだなぁと。まずは70年代プログレとの出会いから。
美濃隆章(以下:美濃) 中2くらいの時に、ピンク・フロイドやイエスを聴くようになったんですけど、きっかけはたまたまプログレとか古い音楽が好きな友達がいたからです。
― プログレの何が中2の美濃少年の琴線に触れたんですか?
美濃 とにかくカッコいいという一言ですね。歌が少ししか出てこないんですけど、僕の中では歌がなくても成立していた。あとは長い曲が多く、サビとか山がすぐに来ないわけで、ずっと待って待って最後にグワっときた時のゾクゾク感がたまらなかったです。10分という長い曲の中に、好きなところが30秒しかなかったりするのにもヤラレました。
― 逆にプログレが苦手な人は、そこが退屈だというので不思議です。プログレに出会う前はどういう音楽を聴いていたんですか?
美濃 中1くらいからギターを始めて、BOØWYとかを聴いていました。中2くらいでメタリカにハマって、その時に友達の影響でプログレも聴いたんですが、その後は高校生でパンク、ハードコアのほうへ行き、ポストロック的なものに出会って、またプログレに戻りました。僕の音楽遺伝子の話をするとそんな感じです。
― プレイリストの最初に挙げてくださったのが、イエスの72年の名盤「Close To The Edge(危機)」。
美濃 レコードだと、アルバムのA面には18分ほどのタイトルチューン1曲しか入っていないんです。そんなの普通に考えたら売れないはずなのに、不思議なことにビルボードの上位に入ったんです。1曲目からリフがガツンとくるし、僕からしたら普通にカッコいいんです。
― 2曲目はピンク・フロイドの「The dark side of the moon(狂気)」。これはコンセプチュアルアルバムの最高峰と言われていますが、toeへの影響は…。
美濃 そこはぜんぜん意識していないです(笑)。自分が音楽を作る時は、“カッコいい”とか“きたね”といった感覚だけでしかやってないんです。だから、聴き手に“こう感じてほしい”とか、そういうのは求めていないですし、聴き手が勝手に解釈をしてくれればいいと思っているんです。
― アルティ・エ・メスティエリとリブラと、2つのイタリアのプログレッシブバンドがリストに挙がっていますが、イタプロの魅力は?
美濃 ぶっ飛んでいるところですね。ただ、オペラ調が入ってくると僕は受け入れられないんですけど。イエスやピンク・フロイドとかキング・クリムゾンの陰に隠れていながらも、すごいことをやってる人がいたんだなっていうのが衝撃でした。あと、情緒的なんですけどすごく緻密ですよね、イタプロは。
― イタプロにとどまらず、カルティヴェイター「Höga Hästar」はスウェーデンのプログレバンドですね。
美濃 このバンドは結成が79年で、アルバム「Höga Hästar」のリリースは81年なんですけど、現代のアレンジなんじゃないか?と思ってしまうサウンドです。しかも1曲目のリズムからして本当にカッコイイんです。
― ギタリストなのにリズム推しっていう(笑)。
美濃 むしろ音楽を聴く時って、リズムしか聴いていないかもしれないです(笑)。そのリズムに、どういう風にギターを乗せていくかが僕のギタープレイの発想なんです。だから、特に影響されたギタリストがいないんですよ。僕はまずはリズムに耳がいって、それに呼ばれるギターを被せていく感じなんです。なので、楽曲全体の関連を無視したミニマルっぽいフレーズを弾くとか、そういうことに興味あります。メロディーのアクセントに合わせてギターを弾くというよりは、メロディーとは別次元のことを淡々と組み合わせるとカッコいいな、とか考えています。
― そうした美濃さんのギタープレイのルーツが、プログレ全般なんですね?
美濃 発想法の根本はプログレから来ているかもしれません。ただ、そうした発想法の直接的なきっかけはマイルス・(デイヴィス)を聴いたことも多少あると思います。マイルスの楽曲から管楽器を全部抜いてリズムだけにして、そこに主線ぽくない和音の美しさとか、アルペジオを乗せたらカッコいいんだろうな、とか考えてみたんです。ただ、うわ物じゃなくてリズムに惹かれるのは、高校の時からでしたけど、変拍子が自然に受け入れられるのはプログレを通っているからなんでしょうね。
Jazzmasterが僕の音楽を支えてきてくれました
― 美濃さんがいわゆるポップミュージックではない音楽をやりたいと思ったのはいつ頃ですか?
美濃 たぶん20代前半くらいですね。その時から変な響きが気持ちいいと思っていて、それを無理に修正してみんなに届くようにしなくても、自分が聴いて“いいな”と思うものだけをやればいいと思うようになったんです。まず自分の音楽を一番好きって思えなかったら嘘だなと思うんです。音楽をやる上で、自分たちが気持ちいいって思う感覚が大事なはずなので。
― 7曲目はエモの元祖と言われているミネラルの「February」。ミネラルは2014年の再結成のタイミングで、一緒にライヴをやっていましたよね。
美濃 はい、最高でしたね。サインももらいました(笑)。この曲が収録された7インチは、悪い音質も込みで好きです。すごくいい音だったら、そんなに響かなかったかもしれないです。音がいいからいいわけじゃないんだなと、当時これを聴いて思いました。
― ちなみにtoeの音質におけるこだわりは?
美濃 特にはないんです。toeは全部僕が録音しているのですが、もう感覚でしかないですね。人のプロデュースをする時は、“いい音にしなきゃ”ってエンジニアモードに入ってちゃんとやりますけど(笑)。toeは自分でも演奏をするので、判断基準は“カッコいいと思えるか”だけです。良い音か悪い音かでいうと、万人が悪い音って思うかもしれなくても、自分たちがいいと思う感覚を最優先します。
― 感覚優先な故か、toeの曲を聴くと心が揺さぶられます。ある人が“芸術表現とは、人の胸ぐらをつかむものであるべきだ”と言っていたのですが、インスト音楽でもプログレやポストロックは胸ぐらをつかまれますよね。
美濃 そうですね。プログレもエモもポストロックもここに挙げた音楽は、聴いていると心がえぐられるような感じがします。そして、僕が今、音楽を続けている理由もそれだけと言ってもいいかもしれません。つまり、自分自身演奏中に心をえぐられたいからです。
― プレイリスト最後はポストロックの雄、トータス「TNT」。
美濃 アルバム「TNT」が出た時に初めてトータスのレコードを聴いたんです。最初、ドラムの音だけでなかなか始まらないなって思っていたら、ギターが入って、その後のベースが入った瞬間がすごく良かったんですよ。これも理屈抜きで単純に“くる”んですよね。
― ところで、今回撮影で使ったギターは60年代のJazzmasterのリイシューAmerican Original ’60s Jazzmasterです。美濃さんと言えばJazzmasterですが、その魅力を最後に教えてください。
美濃 Jazzmasterを弾くようになって20年くらいで、それ以前はいいギターを買ったことがなかったので、初めてJazzmasterを弾いた時、どこを弾いても同じ音量でバランス良く鳴ってくれてびっくりしました。廉価のギターって、高音のほうに行くとどこかしら音が小さくなったりキーンってなる場所があるんです。でも今使っているJazzmasterは全部のフレットで完璧に弾けるんです。そんなJazzmasterが僕の音楽を支えてきてくれました。この説明は論理的にちゃんと合ってますかね(笑)?
【美濃隆章のMy Original Playlist】
- 1.Yes / Close To The Edge
- 2.Pink Floyd / The dark side of the moon
- 3.Arti + Mestieri / Nove lune dopo
- 4.KULTIVATOR / Höga Hästar
- 5.801 Live / Third Uncle
- 6.LIBRA / NAT OGGI
- 7.Mineral / February
- 8.Tortoise / TNT
toe
2000年結成。山嵜廣和(Gt)、美濃隆章(Gt)、山根さとし(Ba)、柏倉隆史(Dr)からなる日本を代表するインストゥルメンタルバンド。多幸感溢れるリズムアプローチとエモーショナルな楽曲群は海外からの評価も高く、唯一無二の存在感を放っている。2018年1月24日には他のアーティストとのコラボレーション曲、提供曲、CM曲、カバー曲などを収録した「That’s Another Story」をリリース。
› toe | http://www.toe.st/