Cover Artist | Char -後編-

カスタムショップでものを作れるなんて、俺にとってはグラミー賞以上の栄誉

Char

インタビュー後半は、Charizma以来続くカスタムショップとの信頼関係について主に語ってもらった。ギターを作る工程にはあまり興味がないというCharが、実際に工場に足を運んでみて触れた職人の気構えには感慨深いものがあったという。人間を知ることでギターをまた知る。そういういい関係を築いているようだ。Char自身も新しいギターが生まれるのを心待ちにしている。


初めてフェンダーのショールームに見に行って
これは美しいもんだなと思った
 

―  2011年にフェンダーカスタムショップでCharizmaを作り、そのあとにFree SpiritsとPinkloudを作りました。今回は第3弾(CHAR 1959 STRATOCASTER® BURGUNDY, JOURNEYMAN RELIC)となるわけですが、振り返っていかがですか?

Char   レリック加工と言われるヴィンテージと、まったく同じような風合いを出す加工があるじゃん。最初はバカじゃないのと思ってたの。新しいギターに傷つけるなんてと。でも、初めてフェンダーのショールームに見に行って、これは美しいもんだな、欲しい人はいるだろうなと思った。そこからフェンダーさんと一緒に何かやろうという話に少しずつなっていって、まずはオリジナルのCharizmaから始めようかと。それの元になってるのがあいつ(バーガンディ)なんだよ。

―  Charizmaは、バーガンディとマスターグレードストラトのいいところを取って作るというコンセプトでしたもんね。

Char   そうそう。基本はあれにして。カラーリングにしても、銀煤竹なんていう無理な注文を出した。いつも言うように、色でしかギター見ないから(笑)。ギター少年だった頃に、山野楽器のショーウィンドウのフェンダーをよだれ垂らして見てた子供が、USAのカスタムショップでものを作れるなんてさ、俺にとってはグラミー賞以上の栄誉じゃない。それでとんとんとね。当時の責任者とか、エグゼクティヴの人にも会えてウェルカムしてくれて。最終的にはフェンダーの工場まで行くことになって。

―  工場を見学したんですね。

Char   うん、行って良かった。行かないとわかんないよね。特に俺なんかギターができる工程に興味ないじゃん。まったくとは言わないけど。

―  気が進まなかったんですか?

Char   そんなことないよ。そういうわけじゃないけど、俺行ってもわかんないじゃん。だってパーツの名称すらよくわかってないから。最近ボーヤに、ブリッジとナットは違うんですよってことを教えてもらって(笑)。

―  楽しかったですか?

Char   そりゃ楽しいよ。すべてのところに連れて行かれて、途中でランチの時にさすがに時差ボケもあって、半分寝ながら弾いてたの。パッて目が覚めたら拍手が起こって、みんなそこでランチ食ってた(笑)。うわ、すみません、みたいな。そこで自然にみんなもギター弾いてセッションになった。すごくナチュラルに、 発送係の人なんかもうすごくウェルカムしてくれて。普通のやつは来ないでしょ、あそこまで。 そういう意味では、小学校の時に初めて、川崎にある明治製菓に遠足で行った時みたいな感じ。ちょうどCharizmaを作る時にフェンダーの工場に行ったんだけど、それの塗料を作ってたんだよね。もともと和の色で、本物の銀煤竹の色を俺も見たことないし、イメージでこんな感じっていうのがあったから、じゃあこれでいこうと。


息子に何かを託しているような部分もあった
 

―  Charizmaを担当したポール・ウォーラーは、当時マスタービルダーになったばかりの若手だったそうですね。

Char   うん。でも、そういう人のほうが新しいものを作ってくれるだろうなと思った。彼の音をね。任せるわけだから、若い人のほうが丁寧にやってくれるんじゃないかなと。誰でも良かったと言えば良かったんだけども、決め手はこれから育っていく職人さんがやったことは、このあともずっとやってってくれるだろうということ。俺と同い年の人だったら、いなくなっちゃうかもしれないじゃん。俺だって初めてやることだし、カスタムショップで。

―  ポールさんとCharさんが直接コミュニケーションする機会はあったんですか?

Char   もちろん事前に一回、日本でも会ってるし。俺はこういう人間だよ、弾くだけしか能がないからねって説明した。

―  どんな印象でした?

Char   真面目そうな人。先入観はなかったけど、JESSEと同い年だってわかると、息子に何かを託してるみたいな部分もあるし。でも、フェンダーカスタムショップの10本の指に入る1人だから、きっと優れた技能であったりセンスを持ってるに違いないと思ったから。

―  そのポールさんが今回、バーガンディも担当するわけですが、すでに固い信頼関係があるんですね。

Char   医者と弁護士とビルダーは一回信じたらそのまま。俺が何かいじれるわけじゃないし、信頼する以外ないでしょ。だって、フェンダーUSAのカスタムショップなんだよ。コツコツやる職人の集まり。そこは日本人だったらわかるじゃん。ものを作るために必死こいてるし。それは工場に行ったから言えるんだと思う。俺もプロフェッショナルなギタリストとして弾くしかないから、逆に今度は自分がフェンダーさんに何かアイディアを提供して、この先付き合っていければいいなって思ってる。

―  これで3企画目のシグネイチャーモデルですね。前の2モデルと比べてどんな感触ですか?

Char   まず今までのMustangとCharizmaに関しては、配線も変えたりとかいろんなことをいじくってる部分もあるけども、今回に関してはこの子のそっくりさんを作るというわけだから、今までの付き合いとちょっと違うっていうか。自分の女が双子だったみたいな(笑)。

―  色に関しては満足してるんですね。

Char   うん。でもそれが一番でしょ。これを購入したいと思ってくれる人にとっても。音がどんだけ良くても、色だと思うよ。

―  フェンダーのシグネイチャーモデルが3つになって、これからどう使いこなしていきます?

Char   全部肩に掛けて千手観音みたいに弾く(笑)。ギターってやっぱりスタジオに入った時とかの気分だったりするんで、その日に着てる洋服とかで合うギターも決まったりする。音は二の次で。昔、実はこのバーガンディミストを持った時に、そっくりな色のスウェードの革ジャンを持ってたんだよ。よくそれと合わせてステージやってた。そんなもんだよ。格好だけ。

―  それも大事だと思うんですけど(笑)、自分の音楽を作っていく上でどうですか?

Char   Charizmaを持ったらCharizmaに弾かされるフレーズが出るし、ギターに引き出されるものは多いよ。だいたい家ではアコギを弾いてたりするんだけども、アコギで作ったものをエレキで置き換えた時に、これはMustangのほうがいいなとか、バーガンディのほうがいいなとか。特にスタジオでデモテープを作る時に使い分けてるかな。逆にずっとあれ1本を使ってると、弾かされるものの蓄積がなくなってきちゃって、出し切っちゃたりする。で、別のギターを弾いてまた戻ると、いいなと思ったりする。浮気もんなんだよ。双子座のABだから(笑)。今、フェンダーのいい音を出してるのはジェフ・ベックぐらいしかいないと思うんだよね。本当にストレートにアンプとギターで6本(の弦)×22フレットなりで、ストラトを表現してるのは。ある種、ジミヘンがやったことはもうできないと思ってる中で、ジェフだけはインストだし、フェンダーを歌わしてるよね。先輩としてはジェフはそこはすごいから。1フレーズ聴いてジェフだってわかるし。俺だったらそういうギタリストになりたいな。

―  新しいモデルをステージで使うのを見るのが楽しみです。

Char   (オリジナルかリイシューか)どっちを使ってるのか、見てる人がわかんなくなったら面白いよね。俺がわかんなくなっちゃったりして。やっぱり古いほうがいいやって使ってたら、Charさんそれ新しいほうですよ、ってそんなオチがありそうで怖い(笑)。違いは俺しかわからないと思うんだよ。見ただけではわからないくらい、すごく精密なものを作ってくるはずだから。

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Char

CHAR’S ‘59 STRATOCASTER BURGUNDY JOURNYMAN RELIC
Charが使い始めた当時の外見をイメージして作られるソフトなレリック。程よい使用感が魅力だ。アルダーボディ、メイプルネック、ローズウッド指板、21フレットといった基本仕様で、ピックアップはポールウォーラーのデザインによるもの。

PROFILE


Char(チャー)
55年6月16日東京生まれ。本名・竹中尚人(たけなか ひさと)。8歳でギターをはじめ、10代からバックギタリストのキャリアを重ねる。76年、シングル「Navy Blue」でデビュー以降、「Smoky」「気絶するほど悩ましい」「闘牛士」等を発表。JOHNNY, LOUIS & CHAR結成翌年、79年に日比谷野外大音楽堂にてフリーコンサート「Free Spirit」を行う。

88年、江戸屋設立以降、ソロと並行してPhychedelix、BAHOでの活動を行う。2009年にはWEBを主体としたインディペンデントレーベル「ZICCA RECORDS」を設立し、自身が影響を受けたギタリスト(エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ベンチャーズ、ジミ・ヘンドリックス等)のカヴァーであるTRADROCKシリーズ(DVD/CD)全7タイトルを発表。

2015年5月、十二支のアーティストによる書き下ろしアニヴァーサリーアルバム「ROCK+」を発表 (子:泉谷しげる、丑:佐橋佳幸、寅:布袋寅泰、卯:ムッシュかまやつ、辰:石田長生、巳:奥田民生、午:松任谷由実、未:佐藤タイジ、申:JESSE、酉:福山雅治、戌:宮藤官九郎、亥:山崎まさよし)。6月15日、生れ還る暦を迎える前夜に、13組のアルバム参加アーティストをシークレットゲストに迎え、日本武道館公演を開催。7月、日比谷野外大音楽堂にて、フリーコンサート「Rock Free」を開催。11月には、武道館公演を完全収録した「ROCK十 EVE -Live at Nippon Budokan-」(Blu-ray/DVD+CD)を発表。

2016年、デビュー40年を記念した全国28カ所のツアー「1976+40」を敢行。2017年には、ZICCA創設以来初となる、WEBコンテンツを主体としたOfficial “Fun”club「ZICCA ICCA」を開設。また、ギターマガジン誌による、プロギタリストを中心とした音楽関係者へのアンケート投票「ニッポンの偉大なギタリスト100」にて、1位に選ばれる。年末にかけて、自身初となるアコースティックツアーを開催。

› Website: http://top.zicca.net/

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