ERIC CLAPTON LIVE AT BUDOKAN 2023

ブロンドのStratocasterで奏でる必殺のスローハンド――日本武道館でエリックの「今」を観た

1974年の初来日以来、1~4年ごとに日本を訪れてきたエリック・クラプトン。コロナ禍を挟んでの4年ぶり、実に23度目となる来日公演は4月15日から6回に渡って行われ 、21日は日本武道館において通算100回を数える記念すべき夜となった。今回は第3夜の19日、そして第4夜21日の2回のショーに足を運んで、エリックの「今」をじっくり堪能した。

ドイル・ブラムホールII(Gt)、ネイザン・イースト(Ba)、クリス・ステイントン(Piano,Syn)、ポール・キャラック(Org)、ソニー・エモリー(Dr)、ケイティ・キッスーン(Cho)、シャロン・ホワイト(Cho)という前回2019年の来日公演と全く同じ7人がバックを務める。今回エリックが手にしたギターは名匠トッド・クラウスによって2016年に作られたAged White BlondeのFender Custom Shop™製Eric Clapton Stratocaster®。57年スタイルをベースにしたメイプル・ワンピース・ネックに、ノイズレスピックアップやミッドレンジ・ブースターを搭載した仕様は長年変わっていないが、本モデルはボディ材がアルダーに代わりアッシュなのがポイント。最近はMercedes Blue、EC Gray、前回のAlmond Greenなど、ダークな色味のものが多かったので、それもなかなかに新鮮。アンプも今やトレードマークである’57 Bandmaster™で、ペダル類はワウ・ペダルとレスリー・スピーカーのon/offスイッチのみ。歪みエフェクトは使用せず、ストラト内蔵のブースターと手元のボリューム・コントロールを駆使して多彩な音色を作り出すエリックならではのスタイルだ。

セットリストは基本的に固定で、3日目の19日までは全く同じ選曲。筆者が観た両日も1曲を除いて(これについては後述)同じだったが、新曲のインストゥルメンタル「Blue Rainbow」による幕開けには意表を突かれた。今年1月10日に急逝した旧友のジェフ・ベックに捧げたとも言われるもの。エリックがおもむろに鳴らし始めるEmとCのコード弾きに導かれ、重厚な三連のリズムに突入するマイナーバラードで、ロイ・ブキャナン「メシアが再び」やゲイリー・ムーア「パリの散歩道」あたりを思わせるが、伸びやかでタメの効いたギターメロディがよく映える。続く「Pretending」ではブースターとワウ・ペダルを併用し、吠えるようなソロで熱気を生み出して行く。声が良く出ているのも78歳という年齢を思えば驚異的なことだと思う。時折聴かせる唸るようなシャウトは、90年代前半あたりに顕著だった無理矢理ガナるような唱法ではなく、力は抜けているのにワイルドに響く効率的な声の出し方を会得しているように聴こえた。デレク・アンド・ザ・ドミノズ時代に取り上げて以来の愛唱歌である「Key To The Highway」、ウィリー・ディクソン作でマディ・ウォーターズが広めたブルースの古典「Hoochie Coochie Man」でも長年磨いてきたエリックならではのブルース表現が冴えた。

74年に開始したソロ活動の大きな推進力となったボブ・マーリーの「I Shot The Sheriff」は、マーリーが75年に出したライヴヴァージョンのグルーヴに寄せた近年のアレンジ。3番の後のブレイク部分で”If I am guilty I will pay!”と叫ぶところも盛り上がるポイントだが、これは74年のエリック版にはなく、マーリーのオリジナルにあったフレーズ。このあたりもエリックの「ただ漫然とヒット曲をやってるわけじゃないよ」という心の声が聞こえるよう。そしてこの曲は後半が長いギターソロになるのが毎回の呼び物。エリックはセンターピックアップを多用しているようだったが、シーンによってセンターとリアのハーフポジションに切り替えたり、クリーンでフロントを使ったり、どのポジションでもキレのいいトーン。またヴォリュームも常時10ではなく、7,8くらいの状態を基本にミッドブースターのノブも繊細に調整し、まるで身体の一部のようにコントロールしていたのも印象に残った。今回はステージサイドに巨大なモニターが二つ設置されていて手元のアップも多く、そんな様子を細かく視認できたのも良かった。

中盤のシットダウンセットはアコースティックを手にロバート・ジョンソン「Kind Hearted Woman」の弾き語りでスタート。ネイザン・イーストが影のようにプッシュするウッドベースが太い音圧を加える。19日の演奏では間奏でエリックが1拍増やす気まぐれを見せ、2&4拍目を叩いていた観客の手拍子が頭打ちになってしまう場面があったが、21日はそんなフェイントもなくきっちり演奏。定番の「Nobody Knows You When You’re Down And Out」を経て、J.Jケイルの「Call Me The Breeze」が登場。そしてクリス・ステイントンのキーボードがバグパイプ風の音色を奏でるアイルランド民謡「Sam Hall」は“ジェフ・ベックに捧げる”というエリックのMCがあったが(21日はこのMCはなし)、これは今年2月11日にロンドンで行われたトランスアトランティック・セッションズ・コンサートでジェリー・ダグラスのパートにゲスト出演したエリックがジェフ・ベックのトリビュートとして演奏したもの。次の「Tears In Heaven」の間奏では81年にエリックのバンドメンバーとして来日したこともあるゲイリー・ブルッカー(22年2月19日に逝去)を偲んで、ポール・キャラックのハモンドオルガンがプロコル・ハルム「青い影」のメロディを奏でる。続くインストゥルメンタル「Kelly」が長年エリックのツアーのモニターエンジニアを務めた故ケリー・ルイスに捧げる曲であったりと、この世を去った友人達への思いのこもったアコースティックコーナーになった。

Eric Clapton Stratocasterに戻った第3パートは「Badge」でスタート。最小ギリギリに絞った音量も使って緩急をつけていく。レスリー・スピーカーを通したアルペジオもエリックならではのトーンだが、もちろん「Wonderful Tonight」でもこの音色が使われた。「Crossroads」「Little Queen Of Spades」と続く終盤のロバート・ジョンソン・コーナーも定番ではあるがいつもに増して力のこもった聴き応えのあるパフォーマンス。セミアコのエレクトリックをメインに弾いていたドイル・ブラムホールIIが、21日にはここで初めて塗装の剥げた1960年代の3-Color Sunburst&ローズウッド指板のレフティStratocasterに持ち替え、地元テキサスのフィーリングに溢れたプレイで会場を湧かせた。そして19日の本編ラストは勿論「Layla」。体力的なことも考慮してかアコースティックでやることが増え、エレクトリック版の頻度は減っていたが、当然ながら観客は大興奮だった。そういえば今回は「Cocaine」がないな…と思っていたら、21日には「Layla」と入れ替わる形で登場したのにも驚かされた。共演企画やブルースオンリーだった95年を除くと、演奏しなかったのは体調不良でカットした1981年12月7日と2016年の5日間の武道館公演だけ。非常に稀なことだったと言える。

21日のアンコール前には100回目の公演を記念した花束贈呈セレモニーが行われた。エリックも満面の笑みを浮かべ、長年日本公演を開催してきたウドー音楽事務所のスタッフを呼び込むと肩を組み合って喜びを分かち合った。エンディングはここ数年定番のポール・キャラックの見事なヴォーカルをフィーチャーした「High Time We Went」。最後に主役が歌わないことに不満を覚える向きもあるようだが、ジョー・コッカーと長年エリック親方をサポートし続けるクリス・ステイントンの共作でもあり、実は必然性のある選曲。メンバーのソロリレーやいちギタリストとして気持ち良さそうにリズムを刻む親方の姿も楽しめ、フィナーレに相応しいナンバーだと個人的には思う。一時は引退も取り沙汰されたエリック・クラプトン、歳はとったがまだまだやれるという確信を本人も、また周囲も得た実り多いショーだったのではないだろうか。

Photo by Masanori Doi


【SET LIST】
2023年4月19日(水)
1. Blue Rainbow
2. Pretending
3. Key To The Highway
4. Hoochie Coochie Man
5. I Shot the Sheriff
6. Kind Hearted Woman Blues
7. Nobody Knows You When You’re Down and Out
8. Call Me The Breeze
9. Sam Hall
10. Tears In Heaven
11. Kerry
12. Badge
13. Wonderful Tonight
14. Crossroads
15. Little Queen Of Spades
16. Layla
EN. High Time We Went

2023年4月21日(金)
1. Blue Rainbow
2. Pretending
3. Key To The Highway
4. Hoochie Coochie Man
5. I Shot the Sheriff
6. Kind Hearted Woman Blues
7. Nobody Knows You When You’re Down and Out
8. Call Me The Breeze
9. Sam Hall
10. Tears In Heaven
11. Kerry
12. Badge
13. Wonderful Tonight
14. Crossroads
15. Little Queen Of Spades
16. Cocaine
EN. High Time We Went

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