山本彩 × デヴィッド・ブラウン | Fender Experience 2025

ジャンルや世代を超えた注目アーティストによるライヴ、名器たちとの出会い、音楽と触れ合うワークショップ。音楽、クリエイティビティ、そして人とのつながりが交錯する体験型イベント〈FENDER EXPERIENCE 2025〉が、10月11日(土)〜13日(月・祝)の3日間にわたり原宿・表参道エリアの3会場にて開催された。ここでは、13日にラフォーレミュージアム原宿で行われた山本彩とFender Custom Shopのマスタービルダー、デヴィッド・ブラウンによる公開カスタムオーダー企画の模様をお届けする。


未知の音へ、手を伸ばす。山本彩が挑む“運命のJazzmaster”

アーティストが夢の1本をマスタービルダーとともに製作する公開カスタムオーダー企画「MEET THE MASTERBUILDERS」に、幅広い音楽性と確かな演奏力で多くのファンを魅了するシンガーソングライター、山本彩がオンステージ。

今回、彼女のギターを製作するマスタービルダーはデヴィッド・ブラウンだ。幼い頃から木工と音楽に情熱を持ち、ギター製作に自然に惹かれていったというデヴィッドは2000年にフェンダーに加わり、以来、数多くのニューモデルの開発やアーティストギターの製作に携わってきた。俳優兼ミュージシャンのキアヌ・リーブスのPrecision Bassもデヴィッドの作品なのだとか。彼が作るギターの特徴は、ヴィンテージの味わいと現代的なプレイアビリティ。ギターやベースを単なる楽器ではなく、プレイヤーと心を通わせるパートナーと考えているという。

「このステージを通して音楽の楽しさ、面白さをお届けしたい」と挨拶した山本に「その準備は100%できています」とデヴィッドが答え、トークがスタート。まずは山本のギター歴を振り返っていく。

「小学生の時、母からカッコいいアーティストがいるとアヴリル・ラヴィーンを教えてもらったことがきっかけでした。アヴリルを見たり聴いたりしているうちに自分もこうなりたいという思いが芽生えてきて、当時、バンドをやっていた兄と一緒にギターを買いに行きました。そこで買ってもらったのが、当時、アヴリルが使っていたギターのイメージに近いフェンダーの赤いStratocaster。それからすぐにバンドを始めました。ギターを始めた頃は、バンドスコアを買ってきて一人で練習していました。アヴリルはもちろん、アコースティックギターを弾き始めてからは、YUIさんの曲も弾いていました」(山本)

「私もAC/DCのアンガス・ヤングに影響を受けました(笑)。彩さんが音楽にインスパイアされてきたと知れて嬉しいです」(デヴィッド)

そして、山本は現在のメインギターであるMiami BlueのAmerican Professional II Stratocasterを観客に披露。「とても気に入っています」とその魅力を語る。

「ポップロックが多い私の楽曲にはまるし、何よりもビジュアルがかわいい。ボディが軽いから長時間弾いていても疲れるということがないんです」(山本)

となれば、Stratocasterの魅力をさらに追求するような1本をオーダーするのだろうと思いきや、彼女が今回、デヴィッドにオーダーしたのはJazzmasterだった。客席から“おぉ~”という声が上がる。

「見た目を気に入っていることももちろんですが、ふくよかなサウンドを出せるギターが欲しかったんです。ボディサイズがStratocasterよりちょっと大きいので、Jaguarにしようか迷いましたが、Jazzmasterはいつか弾きたいと思っていたので、弾きづらさを気にするよりは弾きたいという気持ちを優先しました」(山本)

「正しい選択だと思います。ボディが大きいとは言え、スケール長はStratocasterと変わらないので、Stratocasterを弾いてきた山本さんなら弾きこなせるはずです」(デヴィッド)

ボディシェイプが決まると、細かい仕様をオーダーしていく。ボディはアルダー材とフレイムメイプルトップを組合せ、ローズウッド指板のネックはStratocasterと同じDeep“C”シェイプを使い、エッジに丸みを持たせ、マッチングヘッドにする等々、山本が考える理想のギターが次第に具体的になっていく。ボディのカラーリングについて、「大人っぽくて、でも、カッコ良さとキレイさもある落ち着いたトーン」を希望。しかし、色をまだ決めきれていないという山本にデヴィッドはグレーのトランスペアレント(シースルー)カラーやサンバースト柄にもできると提案。

今回の山本のオーダーの中で、彼女の個性がひと際表れていたのがインレイだった。山本はインレイの12フレットにだけパールブロックを入れ、他はドットの代わりに羽根をデザインしたロゴを入れ、「遊びの要素を加えたい」とリクエスト。また、「ボディを落ち着いた色にしたぶん、キラッとさせたい」とピックガードをパーロイドにすることも希望した。

ギターの心臓とも言えるピックアップは、「爽やかで高音域がキラッと鳴るStratocasterとはキャラクターを変えて、低音を響かせたい」とリクエスト。1958年製のJazzmasterを試奏しながら、「ゲインは高めにしつつ、厚みもこれくらいあったほうが楽しい」と山本がインプレッションを語ると、「わかりました。これに近いピックアップを作りましょう。(フェンダーが誇る伝説のピックアップ職人の)ホセフィーナ・カンポスに理想のピックアップを作ってもらうこともできます」とデヴィッドが答える。かなりロックなギターになりそうな予感。

「ロックなギターにしたいですね!オルタナっぽい1本にしたいです」(山本)

山本のオーダーを元に作った完成予想図がLEDビジョンに映し出されると、客席から「おぉ~」「カッコいい」という声が上がり、「今、持っている中にはないタイプのギターなので、めちゃくちゃいいです!」と山本は目を輝かせた。完成はおおよそ1年後だという。理想のギターが完成したら、どんな楽曲で使ってみたいと山本は考えているのだろうか?

「ギターが出来上がる時には今とはまた違った感覚の私がいるはずです。きっとギターを持った瞬間、湧き上がるものがあると思うので、それを素直に音にしたいし、曲として表現したい。未知な部分もあるけど、その時の自分に期待しているところがあるので楽しみです」(山本)

「山本さんの音楽の旅の1日目が今日なんです。ここから始まるすべての過程が楽しみです」(デヴィッド)

どんなギターが出来上がるのか。参加した観客にとっても楽しみが一つ増えたはずだ。イベントを締めくくったのは、山本の挨拶だ。

「ギターや音楽をやっている人なら、誰もがオリジナルギターを作りたいという夢を持っていると思います。それをこういう形で叶えていただけてとても光栄です。1年後に出来上がる楽しみがあると思うと、これから日々過ごしていくのも楽しくなります。それを音楽で形にできる未来を考えるだけでワクワクしてくるので、皆さんにも次の山本彩はどんな音楽を奏でるのか楽しみしてもらえればと思います」

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