Fender Flagship Tokyo Special Event with Jack White

現代のロックアイコン、ジャック・ホワイトがフェンダーとともに開発したJack White Collectionについて、開発秘話をたっぷりと語る公開取材イベント〈Fender Flagship Tokyo Special Event with Jack White〉が3月16日(日)、Fender Flagship Tokyoで開催された。FenderNewsでは、音楽に対する並々ならぬこだわりがうかがえるジャックの言葉とともにイベントの模様をお届けする。


ミステイクがないと面白くないよ。そういう遊び心を感じてほしい

原点回帰を思わせるロック作品となった最新アルバム『No Name』をひっさげた初の単独ジャパンツアーの真っ最中、ジャック・ホワイトがFender Flagship Tokyoに降臨した。

現代のロックアイコンによる公開取材イベントに立ち会える幸運を手に入れたファンに迎えられ、「久しぶりのジャパンツアー、とても楽しんでいるよ!」と挨拶したジャックはFender Flagship Tokyoの印象を尋ねられ、「そうだな。もっと良くできたんじゃないかな」と早速ジョークを飛ばす。ジャパンツアーに手応えを感じているからなのか、Fender Flagship Tokyoが気に入ったのか、イベントに集まった観客の興奮が伝わったのか、ジャックがすこぶる上機嫌であることはその饒舌ぶりからも伝わってきた。


「いや、素晴らしいよ。なぜ、アメリカでこういう店を作れなかったのかってちょっと悔しいくらいさ(笑)! ここに来たら、誰だって”うわっ、カッコいい。自分もギターを弾いてみたい”って思うだろうね。そういう刺激を与えられる場所だと思う。俺のサードマンもそういう存在にしたいんだ。レーベルやレコードショップだけじゃなくて、本を出版したり、アナログ盤のプレス工場をやったり、いろいろやっているのは、みんなの創作意欲に火を点けたいからなんだよ」

早速、質疑応答が始まった。MCがまず楽器を始めた少年時代のことを尋ねると、ジャックにとって最初の楽器はドラムだったという。現代のギターヒーローとしてはちょっと意外な答えが返ってきた。

「兄たちがいつも楽器を演奏していたから、ギターは常に身近にはあったけどね。ティーンエイジャーになってから、ギターを含めいろいろな楽器を使ってレコーディングするようになったけど、それはあくまでもドラムを叩くためにやっていたんだ。ギターにハマったわけではなかったけど、やっていくうちにドラムを叩きながら詩を語るよりもギターを弾きながら歌うほうが自分には合っていると思うようになった。当時の練習方法? タブ譜なんて簡単に手に入れられなかったから、レコードをかけてわからないなりにそれに合わせて弾いていたよ」

主にクリスチャンデスメタルとジャズのレコードを聴きながら弾いていたそうだが、そんなジャックが初めて手にしたフェンダーギターは72年製のTelecaster Thinlineだった。

「でも兄のギターだったから、兄がいない時にこっそり弾いていただけなんだ。そのあと、高校生になってから自分でメキシコ製のStratocasterを買った。275ドルだったかな。その頃の自分には大金だったから、半年ぐらい頑張ってお金を貯めてやっと手に入れたんだ。初めて、自分が価値のあるものを手にしたという誇らしさを、そのStratocasterには感じたよ。音楽を奏でる楽器であると同時に、それは自分に自信を持たせてくれるものでもあったんだ」

観客たちは感心しきりといった様子で、含蓄あるジャックの言葉に耳を傾けている。続いてフェンダーブランドのイメージを尋ねると、“アメリカを象徴するものだね”と即答。

「フェンダー以前にソリッドボディのギターはなかったんだからね。しかも、フェンダーを作ったレオ・フェンダーはギタープレイヤーじゃなかった。それにもかかわらず、革新的な楽器を作り続けてきたことは尊敬に値するよ」

そのフェンダーとジャックがチームを組んで開発したのが、昨年に発表されたLimited Edition Jack White Triplecaster Telecaster、Jack White Pano Verb、Limited Edition Jack White Triplesonic AcoustasonicのJack White Collectionだ。

イベントの後半では、すでに発売中のJack White Triplecaster TelecasterとJack White Pano Verbの開発秘話と魅力を、フェンダージャパンのプロダクトマネジャー、藤本真人氏の質問に答える形でジャック自ら嬉々として語ってくれた。


「エフェクターを作っている自分の工房、サードマンハードウェアで理想のアンプを作りたいと思ったんだけど、どうやって作ったらいいのかわからなかったんだ。そしたらフェンダーの熟練エンジニア、チップ・エリスが手伝えるかもしれないと言ってくれた。これまでエンドースメントを含め、案件みたいなものは引き受けてこなかったけど、最初から一緒に作れるならやってもいいと思えたんだ。ただ、俺の頭の中にあるアンプはめちゃめちゃクレイジーな仕様だから、本当にできるのかと思ったけど、チップが見事に形にしてくれたよ」

それがJack White Pano Verb。フェンダーには珍しい外観を持つこのアンプは、まさにジャックによるこだわりの結晶と言ってもいい。

「サードマンのテーマカラーである黒・白・黄色を踏襲しているんだけど、フェンダーのアンプで黄色のロゴと黄色のランプは初めてだって聞いている。それと、サードマンハードウェアのロゴがコラボレーションという形で付いているのもね」

さらにもう一つ、3という数字に対するこだわりを藤川が指摘するとジャックがニヤリと笑った。

「そう! 3は昔から俺のマジックナンバーなんだ。物作りの一番ミニマムな形が3なんだ。イスだって3本脚が一番安定するだろ? だから、このアンプも三つのセクションから構成されている。アンプセクションが一番左にあって、次にリバーブセクションがあって、トレモロセクションが一番右にある」

しかも、インプット端子は一つしか付いていないのに、なぜかその上には3の文字が!

「バカげているだろう(笑)? 完璧じゃつまらない。ミステイクがないと面白くないよ。そういう遊び心を感じてほしい」

ロードテストには4〜5年かかったそうだ。

「ライヴが終わると、プロトタイプのアンプをフェンダーのスタッフが持って帰るんだけど、車に積んでドアをバタンと閉めるたび、もう二度と会えないかもしれないと思ってた。もし戻ってこなかったら、あのアンプは良かったって一生言い続けたんじゃないかな(笑)」


もちろん、ジャックのこだわりは外観のデザインだけにとどまらない。サウンド面でもフェンダー初という15インチと10インチのスピーカーの組み合わせをはじめ、ジャックらしい工夫が施されている。

「フェンダーのTwin Reverbって12インチのスピーカーが二つ付いているだろ? 昔、それを使ってレコーディングした時、エンジニアがマイクを1本しか立てなかったから、何で2本立てないんだって聞いたら、どうせ両方のスピーカーからは同じ音が出てるから関係ないって答えたんだ。だったら、違う音が鳴るスピーカーを組み合わせたらいいじゃないかって思ったんだ。しかも、このアンプはフル/スプリットスイッチの切り替えで、リバーヴを両スピーカーから出したり、10インチスピーカーだけから出したりできるんだ。それによって音作りの幅が格段に広がった。トレモロもステレオ/モノスイッチを切り替えることでハーモニックトレモロをステレオまたはモノラルで使えるんだ。ステレオで二つのスピーカーを使って、交互に鳴らして、音に広がりを持たせると、とても不思議な音になるんだよ」

そんなサウンド面のこだわりを、実際にJack White Pano Verbを鳴らしながら、説明するジャックが手にしているのは、もちろんJack White Triplecaster Telecasterだ。ジャックの妻であるオリヴィア・ジーンがジャックにプレゼントしたB Bender Telecasterのピックアップをいじることから開発が始まったというJack White Triplecaster Telecasterもまた、Jack White Pano Verbと同様、ジャックのこだわりの結晶だ。その名前からもわかる通り、このギターにもジャックのマジックナンバーである3にまつわるこだわりがいくつもある。

「キャラクターがそれぞれに違うピックアップが三つ付いている。リアにはオリヴィアがフェンダーのカスタムショップで作ったMaverick Doradoと同じハムバッカー、センターにはJW-90シングルコイル、フロントには72年製のTelecaster Thinlineのハムバッカーを載せた。ピックアップのセレクタースイッチが3か所でセレクトできる。ノブも三つ付いている。でも、三つ目はトグルスイッチになっていて、キルスイッチとして機能させることもできるんだ。これもフェンダー初だ。白と黒とネックのナチュラルの3色。あと、結局は採用しなかったけど、元々はブリッジにアッシュトレイカバーが付いていて、それも3種類あったんだ」

三つあるピックアップの音の違いをブルース調のリフを奏でながら実演するジャックに、観客が拍手喝采する。

「フロントにすると、クリーミーでブルージーな音になる。センターはパンクなガリッとしたサウンドだ。リアは音にバイトがある」

6~7本のプロトタイプを経て、ようやく完成したこのギターを、ジャックはJack White Pano Verbとともに『No Name』の全曲のレコーディングで使ったそうだ。ちなみに、レコーディングが半分くらい終わったところでJack White Pano Verbが完成したため、すでにレコーディングした曲も録り直したのだそうだが、そんなエピソードからも今回のシグネイチャーコレクションに対して、ジャックがかなり満足していることがうかがえる。

最後に、このギターをどんな人に使ってほしいかと尋ねられると、ジャックは自信たっぷりに答えた。

「オールジャンルに対応しているんだ。ジャック・ホワイトの音ではなく、幅広いサウンドを出せる、万人が使えるようなギターを目指した。いろいろなジャンルの人に使ってほしいね。ルイス・ケイトー(ジャズ/R&B系のマルチプレイヤー/プロデューサー/シンガーソングライター)が使ってくれたら最高だ。あるいは、ナッシュビルのブロードウェイで誰かが弾いているところを見つけたら嬉しいな!」

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