アッシュ材とアルダー材の違い

ギターのボディに使用される素材の秘密

フェンダーのエレクトリックギターやベースのスペックを比較する時、ボディに使用されている木材の種類をまずチェックする人も多いでしょう。フェンダーはその歴史を通じ、主として「アルダー」と「アッシュ」という2種類の木材をエレクトリックギター&ベースのボディに採用してきました。

なぜこの2種類なのでしょうか? そしてどのような特徴を持つ素材でしょうか? また、これら木材の原産国はどこでしょうか? フェンダーのエレクトリックギター&ベースのほとんどに、この2種類の木材が長年に渡り採用されている理由は?

以下に、それぞれの木材の概要を説明し、疑問にお答えします。

アッシュ

フェンダーは1950年〜1956年の中頃まで、エレクトリックギター&ベースの主力ボディ材としてアッシュを採用してきました。さらに現在もアッシュを使用していますが、相対的に数は減っています。ブロンドフィニッシュのギター&ベースは、ほとんどがアッシュボディだといえます。なぜならアッシュ材には、特にブロンドフィニッシュが映えるのです。

アッシュの木にはいくつかの種類があります。ギターのボディに使用しているのは、アメリカンアッシュ(ホワイトアッシュ、アメリカトネリコ)です。北米原産のハードウッドで、北はノバスコシア州から南はフロリダ州まで、さらに西はミネソタ州からテキサス東部まで、北米大陸の東半分の地域でよく見られます。堅く密度が高く、木目がまっすぐで、ライトカラーのアメリカンアッシュは、フローリング、家具、野球のバットなどの日用品によく使われています。ギターのボディには、ノーザンアッシュとサウザンアッシュ(スワンプアッシュ)の2種類が使用されます。スワンプアッシュの方がポピュラーで、レオ・フェンダーはEsquire、Broadcaster、Telecasterの最初のギターに採用しました。

米国南部の湿地帯に多く見られるスワンプアッシュは、北部のアッシュと比較して開気孔が大きく軽量です。特に共鳴が素晴らしく、ハイトーンはクリアでミッドレンジは抑えめ、さらにローエンドは力強く、甘いサウンドが特徴です。2つまたは3つのピースを接着してひとつのボディに仕上げますが、シングルピースのボディも存在します。トレブルとサスティーンが素晴らしく、他の木材と比較してウォーム感が抑えられたサウンドを実現する素材です。

扱いにくいのもアッシュの特徴で、気孔はフィニッシュの前に埋めておく必要があります。後述のアルダー材と比較して、アッシュ材のボディには個体差が大きいといえます。アルダー材の木目はよりタイトで一定しています。

概してスワンプアッシュは見た目が美しく、ブライトなサウンドとウォームなサウンドの中間で素晴らしいバランスがとれた、アーティキュレーションとプレゼンスを実現します。アッシュボディの外観を見て、サウンドを聴いてみれば、50年代のフェンダー・ギターの多くにアッシュボディが採用された理由がわかるでしょう。

アルダー

フェンダーは、1956年の中頃よりエレクトリックギター&ベースにアルダー材を使い始めました。アッシュ材よりも入手しやすく安価だったから、という単純な理由からだと思われます。それ以来アルダーは、フェンダーギター&ベースの主力素材として採用されています。アルダーは昔も今も変わらず、逸品です。

カバノキ科に属するアルダーは、北回帰線から北極圏に至る広い北温帯全域に生育しています。生育地域がバラエティに富むアルダーは、ブラックアルダー(ヨーロッパハンノキ)とレッドアルダーの大きく2つのタイプに分けられます。ブラックアルダーはヨーロッパ全域と南西アジアで見られ、一方のレッドアルダーは、主に北米の西海岸に生育しています。

おそらくお察しのとおり、フェンダーギターをはじめとする多くのギターに、レッドアルダーが使用されています。東南アラスカから中央カリフォルニアの太平洋岸から約200km以内の場所に多く生育しているため、安く大量に供給できます。フェンダーのバックヤードにも多くストックされています。

アルダーの木は約30種類あり、高級家具を含む調度品によく使われています。成長の早いレッドアルダーは世界最大級の樹木で、高さ30mにも達します。ギターやベースのボディは、通常2〜4ピースのアルダー材を接着して作られます。

レッドアルダーは、サウンド的アドバンテージが大きな素材です。密度の高さは取り立てて際立つ訳ではありませんが、気孔の狭い軽量な木材で、アッパー・ミッドレンジがやや強調され、他のハードウッドと比較してバランスと共鳴に優れた明るいトーンを実現します。素晴らしいサスティーンとシャープなアタックが特徴的です。また、接着しやすく扱いやすい素材でもあり、特にアルダーはフィニッシュが定着しやすい素材です。ライトブラウンカラーにタイトな木目がうっすらと見える感じが美しく、アッシュ材のように透過性の高いフィニッシュよりも、ソリッドカラーの方が向いています。


フェンダーの歴史の中で、その他のさまざまな木材がエレクトリックギター&ベースのボディに使用されてきました。マホガニー材を使ったギターやベースは1963年と1964年に少量生産され、現在でもいくつかのモデルで採用されています。1980年代と90年代の日本製フェンダーモデルは、多くがバスウッドボディでした。現在でもMade in Japa Traditional の一部でバスウッドを採用しています。またフェンダーは、ポプラ材、パイン材、コト材も使用していますが、採用されているモデルは限定的です。

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