くるり 『感覚は道標』発売記念ツアー ハードにキマる!つやなし無造作ハッピージェル

くるりが2023年12月に東名阪ツアー〈『感覚は道標』発売記念ツアー「ハードにキマる!つやなし無造作ハッピージェル」〉を開催。バリエーション豊富な楽曲をさまざまなギター/ベースを用いて表現した岸田繁(Vo,Gt)と佐藤征史(Ba)。今回は2Daysで行われたZepp DiverCity(TOKYO)公演のうち初日12月22日をレポート。フェンダーのギター/ベースが活躍した場面を中心にレポートする。

コード感が明瞭なStratocasterの音色、Jazz Bassの深みのある低音…三人とは思えない彩り豊かなアンサンブル

SEで「LV69」が流れると、観客のクラップに合わせてオリジナルメンバーの森信行(Dr)、近年のライヴを支える松本大樹(Gt)、野崎泰弘(Key)、加藤哉子(Cho)、そして岸田と佐藤が登場。定位置につき、そのまま「LV69」の演奏に突入する。

前半は10月に発表した14thアルバム『感覚は道標』の楽曲を次々と披露。「doraneco」で岸田はお馴染みのメインギター、1961年製のTelecasterを手にする。ブリッジミュートによって引き立つパワフルで豊かな鳴りが、松本のアンビエントなギターサウンドと融合して会場中に広まっていく。

ここでおもむろに、こよりを取り出し鼻をいじくる岸田、佐藤、森。「happy turn」冒頭の“くしゃみ”を実演しようという狙いだ。森のくしゃみから演奏が始まると、岸田がFender Custom Shop製の1968 Telecaster Thinline Journeyman Relic Lake Placid Blue Masterbuilt By Greg Fessler(以下:1968 Telecaster Thinline)をかき鳴らし、メリハリのあるサウンドが響く。本機の豊かな倍音は、続く「I’m really sleepy」でもアンサンブルを鮮やかに彩っていた。1961年製Telecasterのしなやかなサウンドで魅了した「朝顔」ののち、「California coconuts」では一昨年入手したというAmerican Vintage II 1972 Telecaster Thinline(Aged Natural、以下:American Vintage II)を使用。きらびやかな中にも柔らかさを備えた音色が、観客の心を優しく包み込んだ。

“皆さんこんばんは、くるりです”と挨拶し、メンバー紹介を行う岸田。森の名が呼ばれると温かな拍手と共に“もっくん!”という歓声が飛ぶ。森は“これはなかなかない経験ですね…。感無量だ!”と喜んだ。「In Your Life」では佐藤の1969年製Jazz Bassの力強い低音が、タイトなドラムと合わさってグルーヴを生み出す。素直な音ながらも存在感を放ち、バンドサウンド全体を躍動させる。佐藤のJazz Bassはいぶし銀のような音色を備えた一本だ。

ここで約4年ぶりの参加となるクリフ・アーモンド(Dr)が登場し、森とバトンタッチ。「The Veranda」を皮切りにさまざまな年代の楽曲を披露する。「ナイロン」「watituti」で岸田はハムバッカーを後付けしたCustom Stratocasterを使用し、アームを駆使して激しいソロをプレイ。「watituti」の間奏中、watitutiとはテキトーに歌ったフレーズであり特に意味はないと明かした岸田。“どんな意味だと思う?”と問いかけると、佐藤が咄嗟に“腹が減った(という意味)”と回答する。“腹が減ったと君が言うなら、今日はwatituti記念日ですね”という岸田の一言から、佐藤、松本、野崎、クリフがソロ回しを行い、最後に岸田が“どん兵衛食べたい!きつねうどん食べたい!”と歌い上げる。内容こそユーモアに溢れていたが、各々の技量が冴え渡る演奏は会場を大いに沸かせた。

さらに、雄大なアンサンブルで見せた「Morning Paper」、ロックンロールチューン「お祭りわっしょい」、岸田の1968 Telecaster Thinlineによる歯切れの良いバッキングで魅せた「さっきの女の子」「虹色の天使」と畳み掛けていく。MCを挟んで、UKロックの空気を湛えた「冬の亡霊」、風刺の効いた歌詞をポップに歌い上げる「益荒男さん」、ダンサブルな「琥珀色の街、上海蟹の朝」と幅広い曲調を展開した。

終盤にかけて演奏はさらにドラマティックになり、「There is (always light)」では賛美歌のような希望溢れるバンドサウンドの中で岸田のAmerican Vintage IIの澄んだ音色が響く。ライヴではレアなナンバー「地下鉄」を演奏後、岸田は“クリフは明日(ツアーファイナル)が終わったら帰っちゃうから寂しいよね。まあ、たくさん寿司とか肉とか食ったでしょう(笑)。そんな彼と初めて一緒にやった曲で締めたいと思います”と述べ、本編ラストの「HOW TO GO」を披露。US製の1957 Reissue StratocasterのエネルギッシュなサウンドやJazz Bassのふくよか音色が、岸田の熱のこもった歌を後押しした。

アンコールで再び1961年製Telecasterを手にした岸田は“せっかくこんなに素敵で個性的なドラマー2名がドラムセットを鎮座させておりますので、二人の音圧を浴びながら小粋な曲をやりたいなと思います”と「お化けのピーナッツ」「世界はこのまま変わらない」を披露。時に粘りがあり、時に鋭いキレを見せ…と、個性はそのままに楽曲ごとに異なるサウンドに変化していた1961年製Telecaster。まるでギターが生きているかのように多様な音の表情を見せられるのは、細かなピッキングのニュアンスを表現できる本機のポテンシャルと岸田の軽やかなプレイがあってこそだろう。「ロックンロール」では、岸田がステージ前方に出てきて1957 Reissue Stratocasterを用いたギターソロを行う。長年くるりのステージで弾き込まれ熟成された力強いギターサウンドだった。

ダブルアンコールでは、岸田が1957 Reissue Stratocasterでロックやファンクなどのバッキングを弾き、佐藤がアドリブで歌いながらグッズ紹介する場面も。そして岸田、佐藤、森の三人だけでメジャーデビューシングル収録曲「尼崎の魚」「東京」を披露。歪ませても粒立ちがよく、コード感が明瞭なStratocasterの音色、Jazz Bassの深みのある低音、ダイナミックなドラム。三人とは思えない彩り豊かなアンサンブルは、終演後も温かな余韻を残した。

All photos by 三田村亮

【SET LIST】
1. LV69
2. doraneco
3. happy turn
4. I’m really sleepy
5. 朝顔
6. California coconuts
7. In Your Life
8. The Veranda
9. ナイロン
10. watituti
11. Morning Paper
12. お祭りわっしょい
13. さっきの女の子
14. 虹色の天使
15. 冬の亡霊
16. 益荒男さん
17. 琥珀色の街、上海蟹の朝
18. There is (always light)
19. 地下鉄
20. HOW TO GO

ENCORE
1. お化けのピーナッツ
2. 世界はこのまま変わらない
3. ロックンロール
4. 尼崎の魚
5. 東京


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