SESSIONS in TOKYO | Duff McKagan

デビューから間もなく40年経とうとする現在もなお、ロックシーンの最前線で活躍するガンズ・アンド・ローゼズのベーシスト、ダフ・マッケイガンがFender Flagship Tokyoに登場。2019年に発表した自身のシグネイチャーベース、Duff McKagan Deluxe Precision Bassの開発秘話を語ると同時にガンズ・アンド・ローゼズの新ドラマ―、アイザック・カーペンターとセッションも披露したイベントの模様をレポートする。


呼吸するように音楽を奏でてほしい。嘘を交えず、真実をプレイするんだ

Kアリーナ横浜で開催されるガンズ・アンド・ローゼズによる来日公演を2日後に控えた5月3日(土)、東京・原宿にあるFender Flagship Tokyoに同バンドのベーシスト、ダフ・マッケイガンを迎え、FenderNews公開取材イベント〈Fender Flagship Tokyo Special Event with Duff McKagan〉が開催された。

2016年にアクセル・ローズ、スラッシュ、ダフといういわゆるクラシックラインナップの3人のリユニオンが実現して以来3度目となる今回の来日公演は、前述の横浜公演のみということでチケットの入手は困難を極めたと思われるが、世界中で累計1億枚を超えるセールスを誇る超人気バンドのベーシストのトークや演奏を至近距離で見られるのだから、抽選で入場できるこのイベントの当選倍率もかなり高い。


そんなラッキーな観客に歓迎され、オンステージしたダフは開口一番、「オハヨウゴザイマス!」と日本語で挨拶すると、「2日前に初めて(新加入のドラマー)アイザック(・カーペンター)とガンズ・アンド・ローゼズとしてライヴをしたんだ。素晴らしかったよ。その素晴らしさを日本のみんなに届けたくてうずうずしている」と最新ツアー〈Because What You Want & What You Get Are Two Completely Different Things〉のスタートとなった5月1日の韓国公演の手応えを伝え、客席を沸かせる。そして「長年、フェンダーのベースを弾き続けてきたけど、こんな店はここ以外、世界中のどこにもない。超クールだ」とFender Flagship Tokyoの印象を語ってから、早速、ガンズ・アンド・ローゼンズ以前のアマチュア時代を振り返る質問からインタビューがスタートした。


「12歳の時に楽器を始めたんだけど、最初からベーシストになろうと思ったわけじゃなかった。ベースはもちろんだけど、ドラムもギターもやっていた。そのうちパンクバンドでプレイするようになって、ベース、ドラム、ギターでそれぞれに参加したバンドを同時にやっていたんだ。その後、19歳の時にプロを目指してシアトルからロサンゼルスに行って、そこで知り合ったスラッシュと(初代ドラマーの)スティーヴン(・アドラー)からベーシストを探していると言われてベーシストになろうと決めたよ。そして、その数ヶ月後にガンズ・アンド・ローゼズが始まったんだ」

そんなダフが影響を受けたベーシストというのが興味深い。真っ先に挙げたクラッシュのポール・シムノンに加え、モーターヘッドのレミー・キルミスターやレッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズは大いに頷けるラインナップだが、そこに付け加えたジェイムズ・ジェマーソンとプリンスはちょっと、いや、かなり意外だった。

「ハハハ。彼らからの影響が混ざり合って、俺のスタイルになっているんだ。信じられないかもしれないけど、プリンスからは計り知れない影響を受けている。プリンスの最初の3枚のアルバムは、すべての楽器を彼がひとりで演奏しているんだけど、特にドラムとベースのグルーヴが完璧なんだ。グルーヴが重要だということを、プリンスからは教わった。ジャンルは関係ない。音楽に感動させられるという意味では、パンクだろうと、ロックだろうと、ファンクだろうと、ディスコだろうとどれも一緒なんだ」

ベースはどんなふうに練習してきたのかと尋ねると、グルーヴが重要だと考える生粋のバンドマンらしい答えが返ってきた。

「とにかくドラマーと一緒に演奏することが大事なんだ。ガンズを始めた時もスティーヴンと家の地下室でひたすら自分たちの曲を演奏した。スケールを練習することもけっこうなんだけど、自分の曲を自分がどう弾くのか完璧に体に叩き込まないと、いいプレイはできない。自分のベースのネックを知ることも大事だ。ここを握ったら、こういう音が出る。それを体に覚えさせるんだ。ちなみに、アイザックが加入した時も週に5日、7週間かけてリハーサルを繰り返した。もっともアイザックは初日から完璧に叩いていたけどね(笑)」

フェンダーのベースにずっと憧れていたというダフが、初めてフェンダーのベースを自分のものにしたのは23歳の時だったという。

「ガンズはずっとハリウッドのギターセンターの裏にあるスタジオで練習していたんだけど、練習に行くたびギターセンターに吊るしてあるフェンダーのベースを弾きまくった。その後、ゲフィン・レコードと契約が決まった時、ギターセンターで日本製フェンダーのJazz Bass Specialを買った。見たことがある人もいるかもしれない。赤いドクロが描かれているやつだ。『Appetite for Destruction』と『Use Your Illusion』ではそれを弾いた」

その日本製のJazz Bassは、今も持っているのかと尋ねられると、「もちろん。壊れないように大事に保管してある」と茶目っけたっぷりに答えたが、よほど愛着があるのだろう。それは自身のシグネイチャーベースを作る際、サウンドにパンチのあるアタックを求めながら、そのJazz Bassを基にしたことからもうかがえる。シグネイチャーベースのこだわりをもっと聞いてみよう。

「ウォーキング・ペーパーズというバンドをやっている時、レジー・ハミルトンに弾かせてもらったフェンダーのGeddy Lee Jazz Bassに4弦をEからDに瞬時に変えることができるヒップショットのベースエクステンダーキーが付いていて、これはいいと思ったから自分のシグネイチャーベースに採用した。ガンズはもちろん、ヴェルヴェット・リヴォルヴァーもウォーキング・ペーパーズもドロップDチューニングの曲がけっこうあるけど、このベース1本あれば、2本持っていかなくていいだろ? PJタイプのピックアップはJazz Bass Specialを踏襲している。リアにセイモアダンカンのSTKJ2Bを搭載しているのは、いろいろな会場で演奏する時、問題になるノイズに対応するため。ハムバッカーだからノイズをキャンセルしてくれるんだ」

そう語りながら、ダフはおもむろにシグネイチャーベースを手に取り、ソリッドなビートを奏でてみせる。


「出音にうねりがあるんだ。なおかつ高音も出る。そこが気に入っている。演奏する時はアタックが重要だから、ボリュームは常にフルテンだ。普段使っているベースはピックアップのセレクタースイッチをどちらもオンにしたまま接着剤で固定している。トーンも常に全開だ。今度発表するガンズの新曲『Nothing』とか(ソロの)『Tenderness』とか、アコースティックな曲をやる時はさすがに絞るけどね(笑)」

ダフはこのベースを、どんな人に使ってほしいと考えているのだろうか?

「弾き倒したい人はもちろんだけど、Jazz Bass Specialを踏襲した薄いネックはビギナーでも弾きやすいと思う。男女問わず、特に若い子に使ってほしい。スラッシュの義理の娘にこのベースをプレゼントしたんだ。彼女はきっとこれ1本でベーシストとしてのキャリアを貫き通せるだろう。それぐらいのポテンシャルを持ったベースってことだ」

そして、お待ちかねのセッションタイム。ダフがフロントマンを務めるバンド、ローデッドでもプレイしたことがあるアイザックを呼び、「You Could Be Mine」をはじめ、ガンズ・アンド・ローゼズの代表曲をメドレーで披露する。客席から大きな歓声が上がる。


「It’s So Easy」「Welcome to the Jungle」…耳に残るベースフレーズの作り方のうまさを改めて感じながら、ドライヴするベースサウンドに酔いしれる。7週間みっちりリハーサルしただけあって、アイザックとのグルーヴもパーフェクトだ。

拍手喝采の中、最後は若いプレイヤーに向けたメッセージでイベントを締めくくった。

「これが自分の使命なんだという気持ちで打ち込んでほしい。そういう同じ気持ちを持ったメンバーとバンドを組んだら、すごいことになるはずだ。言いたいことを言い合いながらやることが大事なんだ。呼吸するように音楽を奏でてほしい。嘘を交えず、真実をプレイするんだ」

骨の髄までバンドマンであることを思わせる言葉に、いつまでも拍手が鳴りやまなかった。

MC&インタビュー:井手大介


Duff McKagan
ガンズ・アンド・ローゼズのベーシスト。
メジャーデビューアルバム『アペタイト・フォー・ディストラクション』はアメリカ国内のみで2,800万枚以上売り上げ、デビューアルバムとして歴代1位を記録。その後同時発売された2作目、そして3作目のスタジオアルバムとなる『ユーズ・ユア・イリュージョンⅠ&Ⅱ』はビルボードチャートのトップを独占した初のダブルアルバムとなり、バンドが2年以上もツアーをしている間、108週に渡ってチャートに入っていた。2008年11月にリリースの『チャイニーズ・デモクラシー』は13カ国で初登場1位を記録し、15カ国でプラチナアルバムを獲得している。2021年8月6日には新曲「ABSUЯD」をサプライズリリース。ガンズ・アンド・ローゼズの新曲がリリースされるのは、『チャイニーズ・デモクラシー』以来、13年ぶり。1998年に脱退したダフ・マッケイガンは本作で復帰。オリジナルメンバーと一緒に録音したオリジナルの新曲としては、1991年のアルバム『ユーズ・ユア・イリュージョン』以来、実に30年ぶりのリリースとなり、全世界を沸かせた。さらにその翌月9月24日には立て続けに新曲「Hard Skool」を再びサプライズリリースし、この新曲のリリースに合わせて、ガンズ・アンド・ローゼズはツアーを再開している。

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