SESSIONS in TOKYO | Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴ(Ovall)
いかにオリジナリティを出すか。そこにフェンダーと僕らの共通点がある
フェンダーを愛する個性的なアーティストたちが繰り広げる、セッションにフィーチャーした「Fender SESSIONS in TOKYO」。ギター/ベースを通してさまざまなスタイルで対話するアーティストの魅力を、彼らが語る機材のインプレッションとともにお楽しみください。第2回目は、メンバー全員がソロアーティスト、ミュージシャン、プロデューサーとしても活動するマルチプレイヤー集団“Ovall”がこの3月に発表されたばかりのPlayer Plus Meteora®を持って登場。
初めてフェンダーの音を知ったのはジェフ・ベックの来日公演
― 楽器を始めたきっかけは?
Shingo Suzuki(以下:Shingo) ベースは大学生から始めたんですよ。その前にずっとギターをやっていて、ギターは中学生から始めました。中学校時代の家庭教師が、ザ・ビートルズ、ジョン・レノンが好きだったんです。その家庭教師からアコースティックギターをもらったのがきっかけです。彼から音楽を教えてもらったんですけど、ジョン・レノン、X JAPAN、岡村靖幸、ユニコーン、BOØWYをやって、ほどなくしてエレクトリックギターをお年玉で買いました。それでバンド譜を買って、エレキを始めました。大学に入ってジャズをやりたかったんですけど、ジャズギターってすごく難しそうだったんですよ。しかも天邪鬼なので、ベースは弦が少ないし、何かカッコ良さそうだなと思ったんですね。単純にそういう理由で。大学生になってから上京して、フェンダーのJazz Bass®︎を買いました。で、ウッドベースとエレクトリックベースの両方で弾き始めたのがきっかけですね。
― 関口さんは?
関口シンゴ(以下:関口) 中学2年生の時に、友達が“学園祭に出たい”って言い出したんですね。ギターをやっていた友達で、何かやってくれと言われて、最初はキーボードをやろうと思ったのですが、それまで楽器は何ひとつやったことがなくて。独学でキーボードはできないし、しかも弾きたい曲がX JAPANだったのでツインギターなんですよ。誘ってくれた友達がギターだったので、“この人に教えてもらえばいいや”って感じでギターを始めました。
― X JAPANのコピーから始まったんですね。今の音楽性にシフトしたきっかけは?
関口 高校生の時に『BANDやろうぜ』という音楽雑誌をよく読んでいたんですけど、名盤100選みたいな記事の中にスティーヴィー・レイ・ヴォーンがいたんです。“ジャケットがカッコいいな”と思って聴いてみたら「スカットル・バッティン」が収録されたアルバム(『テキサス・ハリケーン』)がすごくカッコ良くて。それで、フェンダーのStratocaster®️に楽器屋さんオリジナルのリップスティック型ピックアップが載ったモデルを買ったんです。そのあとにスティーヴィー・レイ・ヴォーン・モデルに買い換えて、バークリー音楽大学のトモ藤田さんのレッスンを2年くらい受けて、そのあたりからブルースやブラックミュージック寄りにガラッと変わりました。
― mabanuaさんはそもそもドラムから楽器を始めたんですか?
mabanua 僕もギターから始めました。中学1年生の時にMr.Childrenとザ・ビートルズにハマって、アコギを買ってもらったのが最初ですね。ちなみに、初めてフェンダーの音を知ったのがジェフ・ベックの99年の来日公演だったんです。ギターがジェニファー・バトゥンかな。その時に“フェンダーのストラトってこんな音するんだ”と思って。それがフェンダーとの出会いです。
Guitar: Player Plus Meteora®︎ HH
間を行く、それを意識的にやっています
― 皆さん楽器を始めた初期からフェンダーを使っていただいているようですが、フェンダーの印象を教えてください。
Shingo あらゆるベースの中央に位置していますね。例えば、ジーンズだとリーバイスの501、スニーカーだとコンバース、ブーツならドクターマーチンのような存在です。基本の“キ”みたいな感じですね。僕自身、他のブランドも使うんですけど9割以上がフェンダーです。
mabanua Shingoのフェンダー愛はすごいんですよ。Ovallを結成した頃、バンドマンってお金がない時期があると思うんですけど、うちらもなくて。Shingoはオールドのジャズベを持っていたので、最後はそれを売れば死ぬことはないだろうと。みんなでギャグで突っ込んでたんですけど、それだけは絶対に売らなかったですね。
Shingo 66年製のJazz Bass、丸ペグ(パドルペグ)ってやつなんですけど、考えたらOvallではずっとフェンダーですね。
― 関口さんのフェンダー歴は?
関口 さっき話したスティーヴィー・レイ・ヴォーン・モデルはずっと使っていて、初期のOvallではそれを使っていたと思います。そのあとにTelecaster®︎ Thinlineを買いました。真っ赤な72年モデルのリイシューで、ピックアップもめちゃくちゃ良かったんですよ。ハムバッカーだけどシングルコイルっぽい歯切れもあって、それもずっと使っています。ここ最近は“間のような音”が好きで、そういうギターを探していたんです。で、このPlayer Plus Meteora®︎ HH、めちゃくちゃそういう感じだったので、今後Ovallで使わせてもらいたいと思いました。
― 求めているものがMeteoraにあったと。
関口 そうです。もちろんストラトはストラトです。(他メーカーの)ストラトっぽいものはストラトを越えられない。自分のプレイスタイルもそうだと思うんですよね。確立されたギタリストって周りにいすぎて、“あ、こういう感じではこの人に勝てない”とか、そういう感じで生きてきたので(笑)。ニッチを、間を狙って生きてきた、そういうプレイスタイルですね。そういう意味でもMeteoraと共鳴する部分があります。それにしても、フェンダーは時代に合ったものを作るのが本当に上手です。毎回、バッチリなのがくる。
Shingo 撮影でMeteoraをパッと持った瞬間に、スッと体に馴染む感じがありました。こういうのがフェンダーの不思議なところなんですよね。形としては、スタンダードなものからエッヂの効いたものもあるんですけど、そのすべてがそれぞれの人に、音楽にハマっていく感じが不思議なんですよね。
関口 Meteoraは見た目で“これ馴染むのかな?”と思ったんですけど、持った瞬間にネックのグリップなのかすごく馴染んだんですよ。そこは一番大事なところだよね?
Shingo うん。本当に握りやすいよね。
関口 こういうタイプのギターで、がっつりとブルースを弾こうという気にならない気がしていたんです。でも、Meteoraは持った瞬間からいつものストラトでブルースを弾いてる感じで弾けましたね。そこが一番びっくりした点です。でも、納得したというか。どういう形でもフェンダーなんだなって。
Shingo さっき関口がプレイの話をしていたけど、バンドとしてもそうかもしれないですね。“Ovallってジャンルは何なの?”ってよく聞かれるんですけど、僕らもよくわからないし、“間です”って答えているんです。雑誌でも、ヒップホップの雑誌にもハマらないしJ-POPの雑誌にもハマらない。
関口 どこにいてもハマらない(笑)。
Shingo フェスに行っても“どこなんだろう?”って(笑)。
関口 “何ステージなの?”って。
Shingo 間を行く、それを意識的にやっています。誰かの真似をしても面白くないし、やるからには新しい面白いことしようぜって。そういうちょっとした情熱みたいなものが、そもそもどのバンドにもあると思いますが、それを続けていくとこういう風になってくる(笑)。単純にジャムセッションでどファンクをやるとか、ジェームス・ブラウンをやるとかも面白いんだけど、ジェームス・ブラウンの曲をやって、それが自分たちのアイデンティティになるか?と言うと、バンドとしてはならないと思うんです。ファンクをやって楽しんでいるお兄ちゃんたちで終わるから、いかにオリジナリティを出すか。そこにフェンダーと僕らの共通点があるなって、Meteoraを見て思いました。新しくて攻めているけど、古き良きところも使っている。あぁ、いいなって感じました。
― Meteoraに自らのバンドのアイデンティティを見たと。
Shingo はい。Jazz Bassだったらジャコパス(ジャコ・パストリアス)とか、ストラトだったらジョン・メイヤーとか。今はまだ“Meteoraと言えば誰?”っていないから、そのポジションをゲットする(笑)。“Meteoraと言えばあの人ですよね?”みたいな。で、ベースマガジン、ギターマガジンに呼ばれる(笑)。
Bass: Player Plus Active Meteora Bass®
競争の世界から抜け出せるものとして、楽器ってすごく大切なんです
― さて、新年度に楽器を始める人も多いと思うので、楽器選びのポイントを教えていただけますか?
Shingo 店員さんとウマが合う楽器屋をまず探す! 萎縮しないで、ハッピーに行けるかが大事。何なら俺が一緒に行ってあげます(笑)。あと、楽器屋の店員さんに、逆に試奏してもらうのはアリだと思うんです。自分はあまり弾けないけれど、ある程度上手くなったらこういう音がするんだっていうのが客観的にわかる。それはひとつの手かなと思います。
mabanua 音も大事ですけど、持って鏡で一回見たほうがいいですよ。似合っているかどうかは大事。ファッションとしても重要なんです。僕の場合、最初に買った別メーカーのギターは今見たら似合っていなくて。やっぱり、憧れている人と自分は違うので(笑)。ちなみに僕の固定観念だと、女の子がプレベを低く持って弾いているとすごくときめくんですよ。そういう、ファッションとしての楽器の見方をしたらけっこういいと思います。
Shingo それはそうかも。まずは楽しくないとね。
mabanua 楽器屋さんはぜひ鏡を置いておくべきだと思います。
Shingo 試着室みたいに(笑)。カーテンを閉めて思う存分好きなポージングを!
― 関口さんの楽器選びのポイントは?
関口 “これが欲しいな”っていう気持ちも大事なのかなと思いますね。高い買い物だし、何年かは自分が好きで使うわけだから。部屋に置いてあって、朝起きて“あ、ある!”みたいな喜びがある楽器を選んでほしいなと思いますね。好きじゃないと、持たなくなっちゃうので。
― 楽器を買うのを躊躇している人の背中を押すとしたら?
Shingo それは機会損失ですね(笑)。買いたい時が買う時です。時間は待ってくれないし、時間は過ぎるから。今そこにある楽器も、来週にはなくなっているかもしれない。気に入ったものはガチッと両手で掴んでほしいなと思いますね。
関口 楽器を買うのは、すごく楽しいことだと知ってほしいですね。なので、楽器を始めたけど辞めそうな人には、新しい楽器を買おうって言いたいです。新しい楽器がきたら、自動的にテンションが上がると思うので。個人的には、ケースから出した時の匂いとか、そういう新品の匂いが好きで。フィジカルな楽器と、DTMとかパソコンの中の音源との違いは五感の部分で、そこは大事にしたいです。そういう部分をまだ楽器を持っていない人にも体験してほしいし、楽器熱が冷めた人にはもう一回思い出してもらうために新たに楽器を買ってほしい。絶対に違う扉が開くと思います。
mabanua 楽器とはそもそもどういう役割なのか?って考え直す必要があると思うんです。やっぱり楽器は、人を幸せにするためのツール、というのが大前提なんですよね。冴えない学校生活を送っていた子が、楽器を弾いて披露したら、翌朝から友達からの扱いが変わったり。僕もそうだったんですよ。最終的に楽器の先に待っているものは何か、どうしたいかを一回想像してみると、途端にモチベーションが上がってきたりする。あと、例えば学校生活の中で言うと、テストって50点とか数字の世界ですよね。だけど、音楽や楽器の世界は0とか1の世界じゃないんですよ。数字で計れないところが音楽や楽器の良さだったりするんです。競争の世界から抜け出せるものとして、楽器ってすごく大切なんですよね。
Shingo そうだ! 思い出した。みんなと会えたのも楽器があったからなんだ。
mabanua 楽器がなかったら機会損失(笑)!?
― Ovallというクリエイティブ集団のインタビューで、ビジネス用語の“機会損失”連発ですね(笑)
Shingo (笑)。やっぱり、チャンスってその瞬間ですよね。そこはこれからも大事にしたいです。だから、まずは初めの一歩、勇気を出して楽器を買ってください。
Ovall
Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴによるトリオバンド。2006年から現メンバーでの活動を本格化、現在に至るまでジャンルよりもミュージシャンシップを軸に置く姿勢を貫く。ジャズ、ソウル、ヒップホップ、ロックを同列に並べ、生演奏もサンプリングもシームレスに往復し、楕円(オーバル)のグルーヴの中に音を投げ込む。その斬新なスタイルと唯一無二のサウンドは徐々に時代を吸い寄せ、国内外の映像作家、映画監督、そしてさまざまなアーティストからプロデュースやコラボレーションの依頼が殺到。
それぞれがソロ活動を活発化させるが、個々が多忙を極めたことが諸刃の剣となり2013年にバンド活動を休止、それぞれの表現を追い求め始める。しかし「この3人ならではのアンサンブルが聴きたい」という要望が絶えず、メンバーもその思いに応える形で、4年の歳月を経て2017年に再始動。
直後よりFUJI ROCKなど国内の大型フェスに出演、そして世界中のアーティストとのコラボレーションや海外でのライヴツアーも行う。ソロ活動で培ったスキルやノウハウをお互いに持ち寄り、今日もバンドは楕円を描きながら転がり続ける。