Signature Model Interview | 弓木英梨乃 -前編-

どんな現場でも“これ一本があったら大丈夫”。そう思える頼れるギターを目指しました

ギタリスト/シンガーソングライター/作曲家/編曲家として、幅広く活動する弓木英梨乃。アーティストとしての活動はもちろん、さまざまなミュージシャンのサポートやKIRINJIのメンバーとしてもキャリアを重ねてきた。そんな彼女の音楽人生を語るうえで欠かせないのが、ストラトキャスターだ。2023年には“フェンダーアーティスト”としてパートナーシップ契約を結び、ついに今年2026年には初のシグネイチャーモデル「Erino Yumiki Stratocaster®」が完成。今回は、その開発秘話について語るインタビューを敢行した。前編では、弓木にとってストラトキャスターとはどんな存在なのか、そしてシグネイチャーモデルに込めた想いを掘り下げていく。


ジェフ・ベックモデルは私のストラトの原点かもしれない

──まず、ストラトキャスターの原体験を伺いたいのですが、弓木さんはビギナー時代からストラトを弾いていたんですよね。

弓木英梨乃(以下:弓木) 父がたくさん持っていたギターの中に黒いエリック・クラプトンモデルがあって、それが生まれて初めて弾いたストラトだったと思います。中学生の頃は派手なギターが好きだったから、オレンジ色に塗ってシールをいっぱい貼って使ってました(笑)。次にずっと弾いていたのは、17歳の誕生日に父からもらったジェフ・ベックモデル。そこに載っていたノイズレスのピックアップの音が好きでした。いわゆるシングルコイルのキラキラした感じじゃなくて、ちょうどいい太さのある音というか。そういったサウンドは今でも好きなんですけど、それを初めて経験したギターでしたね。デビューの時にも使っていて、すごく気に入っていたので、ジェフ・ベックモデルは私のストラトの原点かもしれないです。

──ストラトはずっと身近な存在だったんですね。一方で、キャリアの中ではさまざまなギターを使っていた印象もあります。

弓木 ストラトの音は好きだし、何本も持ってたんですけど、常にメインで使える“これだ!”っていう一本になかなか出会えなかったんですよね。持っていたのがシングルコイル3基のタイプだったので、たとえばヘヴィに歪ませたい時にはハムバッキングピックアップのギターを使っていました。でも本当はそういう場面も含めて、一本ですべて賄えるギターが欲しかったんです。

──そういった気持ちを抱く中で出会ったのが、ハムバッカーを搭載したAmerican Ultra Stratocaster HSS?

弓木 はい。2019年に使い始めた時、生まれて初めて“こんなに自分にフィットするストラトがあるんだ”と思って。運命の出会いだなって思うぐらい、ネックの握り心地や演奏性が自分に合っていました。2021年~2022年には、仕事を休んでマレーシアの音楽大学に留学したんですけど、(現地で)仕事とか関係なく自由にギターを弾きたいと思った時に選ぶギターが、いつもAmerican Ultraで。そこで“こんなにこのギターが好きなんだな”って気が付きました。

──弓木さんのプレイを見ていると、ギターを弾く喜びや感情が滲み出ていると感じます。音に感情を乗せる上で、大切にしていることはありますか?

弓木 精神論になってしまうんですけど、“このギターが大好き”って思うと、気持ちがこもるんですよね。やっぱり人が弾くものだから、自分の気持ちが音になると信じていて。自分がカッコいいなと思うギタリストも、そういう感情や生き様が音になっている気がします。 American Ultraと出会った時も、新しい扉を開いてくれた感じがしたんです。自分が今できるテクニックを最大限引き出してくれるだけじゃなくて、“今まで弾けなかったものも、このギターだったら弾ける気がする”と思わせてくれる。いいギターとの出会いって、そうやって新しいことにチャレンジしたいと思わせてくれるんですよね。もともと“ギターは弾きやすくてそこそこ音が良ければなんでもいい”って思っていたけど、自分に合う楽器を持つことってミュージシャンとして大事なんだなって、このギターが思わせてくれた感じです。だから、American Ultraとの出会いはギタリストとしての転機になりましたし、このモデルが今回のシグネイチャーを作る土台にもなりました。


3年かけた一本は、理想のAmerican Ultraより“もっと好きだな”と思える

──シグネイチャーモデル制作のオファーを受けた時は、どんな気持ちでしたか?

弓木 2023年にフェンダーアーティストとして契約させてもらう時に、シグネイチャーを作るお話も同時にあって、ギターを続けてきた人間として夢みたいだなと思いました。私は派手な活躍をしたアーティストではないと思うんですよね。でも、デビューしてから15年以上、ギターの仕事なら何でもチャレンジしてきました。ギターに対して貪欲に、常に“うまくなりたい”という気持ちで続けてきたなって。その積み重ねが自分にしかできないキャリアにつながったと思いますし、その結果として、今回シグネイチャーを出せたのかなって。やめずに続けてきて良かったですし、それを誇りに思います。

──今回のシグネイチャーモデルは、どのようなギターを目指しましたか?

弓木 とにかく実用的で実践向きというか、自分がどんな現場に行っても、これ一本があったら大丈夫って思える頼れるギター。土台となったAmerican Ultraもそういうギターなんですけど、Erino Yumiki Stratocasterも同じように頼れるものにしたいなって思いました。

──細部のこだわりはインタビュー後編(近日公開)で詳しく伺いますが、シグネイチャーモデル制作にあたり、“こんなことまでできるんだ”と思ったところはありますか?

弓木 全部ですね(笑)。本当にすべての希望を叶えてくださったというか。アメリカ製のAmerican Ultraという理想とするギターがまずあって、それを超えるものを日本製で作ってくださったことに、本当に感謝しています。あと、実は完成まで時間がかかったんですよね。最初にお話をいただいてから“これもいいし、あれもいいし…”と悩んでいたら、3年も経っちゃいました(笑)。そんな自分に根気強く付き合ってくださってありがたかったですし、逆に言うと3年かけているので、本当にこだわり抜いたギターになりました。

──ちなみに、モデル名がシンプルなのは、何か意図があるのでしょうか。

弓木 別のモデル名をつけることも考えたんですよね。KAIHO RECORDSというレーベルを作ったばかりなので、“KAIHO”という名前もいいな、とか。でも、本当にいいギターができたからこそ、シグネイチャーとか関係なく、一本のギターとして長く弾き続けてほしいという気持ちがあって。だから長く愛されるようにモデル名もシンプルにしたいなと思ったし、自分のロゴも(正面からは見えにくい)ネックプレートに入れていただきました。

──完成したギターに初めて触れた時、どんなふうに感じましたか。

弓木 もう、パーフェクトだなって思いました! まず見た目が完璧ですし、自分がまさに求めていたボディカラーだと思って。弾いてみたら弾き心地も最高だし、音にも感動しましたね。クリーントーンをアンプで鳴らした時の音が、いい音なんですよ。私は、クリーントーンが気持ちいいギターは絶対いいギターだと思うんです。それに、ピックアップを切り替えた時に、各ピックアップの個性がしっかりと出て、そこにもすごく感動したというか。やっぱり、理想であるAmerican Ultraと比べちゃうじゃないですか。でも、“このギターのほうがもっと好きだな”と思えるシグネイチャーモデルになりましたね。

>> 後編に続く(近日公開)


弓木英梨乃
ギタリスト/シンガーソングライター/作曲家/編曲家。2013年から2020年までKIRINJIのメンバーとして活動し、ソロ活動のほかさまざまなアーティストのサポートを務めるなど、キャリアは多岐にわたる。2023年にフェンダーアーティストとしてパートナーシップ契約を締結し、3年をかけて開発した初のシグネイチャーモデルErino Yumiki Stratocasterを2026年に発表。同年6月には自主レーベル『KAIHO RECORDS』を設立し、1stシングル『Kaiho』、9月には2ndシングル『sayonara』を配信リリース。11月24日には〈KAIHO RECORDS Opening Showcase〉として下北沢シェルターでのワンマンライヴを開催する。
https://twitter.com/yumikierino
https://www.instagram.com/erino_yumiki/

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