Holiday Special Interview | Char × アンディ・ムーニー -2-

Holiday Special Interview

ホリデーシーズンを迎えた我々フェンダーミュージックに、サプライズともいえる超ビッグなクリスマスプレゼントが届いた。フェンダーブランドをグローバルに統括するフェンダー ミュージカル インスツルメンツ コーポレーションCEOのアンディ・ムーニー氏と、日本を代表するギタリストであり、自他共に認めるフェンダー・ラバーでもあるChar氏とのトークセッションが実現したのだ。ナビゲーターはブロードキャスターのピーター・バラカン氏。ともに1955年生まれ・62歳であるアンディ&Char両氏が、音楽との出合い・キャリアの歩み・そして音楽の未来について語り尽くすスペシャル対談を全3回でお届けする。音楽の世界が前に進むためのヒントがたくさん詰まった本セッション、ギタープレイヤーや音楽関係者はもちろん、プレイヤーに憧れる人もぜひ五感を研ぎ澄まして、彼らの熱きグルーヴを共に体感してほしい。

ISSUE 2: THE PROSPECTIVE NEW ERA(デジタルストリーミング時代における音楽そしてギターの未来)

 

ピーター・バラカン(以下:ピーター)   Charさん、ギタープレイ以外に何か新たなチャレンジに挑む予定はありますか? それとも今後も、ギター一本で生きていきますか?

Char   とても難しい質問ですね。僕がティーンエイジャーのころは、父には「プロフェッショナルになりたいなら、音楽学校へ進んでクラシックピアノを学ぶ以外はない。この地球上にロックギタリストのプロフェッショナルなんていない!」と言われていました(笑)。さらに「エレクトリックギターなんてダッコちゃんやフラフープのように一時の流行でしかなく、遅かれ早かれいつか消えゆくものだ」とまでも。そして時が経ち、1980年代半ばごろから音楽シーンはデジタルへとシフトし始め、シンセサイザーが多用されるようになって、ある日突然「ああ、これが父の言っていたリアル・ギターサウンド・ワールドの終焉か」と感じたのです。

ピーター   世界的にも、レコードからギターのサウンドが消え、シンセサイザーとドラムマシン中心のサウンドが主流となった“ニューウェイブ”の時代でしたね。

Char   それでも僕は音楽を辞めたくなかったので、この状況をどうにかして変えなきゃと思っていました。そこで1985年、30歳のときにひと夏の数ヶ月間、ロンドンに滞在することにしました。なぜなら、そこがまさにサンプリングやハウスミュージックが生まれた街だったから。ロンドンの音楽シーンをこの目で見てリアルに体感すべきだと思ったのです。そこでハイレベルなプロフェッショナル・ミュージシャンたちと出会い、コヴェント・ガーデンでストリートミュージシャンたちを観たり、BBCラジオを聴いたりして過ごしていました。 最初の1か月は酒を飲み食べ歩きながらフラフラしていましたが、ふとラジオから、ノッティングヒルで夏に開催されるレゲエフェスティバルの情報が流れてきて、行ってみることにしました。そこではストリートのコーナーごとにいろいろなミュージシャンがいて、盛り上がりの中心へ進むにつれて演奏レベルも上がり、それにあの“いい香り”もだんだん強くなっていくわけですよ!

アンディ・ムーニー(以下:アンディ)&ピーター   (爆笑)

Char   メインの広場ではすごくいいバンドがプレイしていて、そこでアナログのリアルな音楽がまだ残っていることを実感できたんです。

ピーター   演奏されていたのはレゲエですか?

Char   ジャマイカのレゲエが中心でしたが、それだけでなく、アフリカやブラジルをはじめとする南米から参加しているバンドもいました。その日を境に酒を止め、代わりにジョギングを始めたんですよ(笑)。現地で安いギターを買って、さらに、あるパーティで知り合ったキーボーディストにシンセサイザーを譲り受けることになって。“宿敵”であるシンセとアコースティックギターを使って作曲を始めたんです…結果的に、僕は音楽を止めなくて済んだのですが(笑)。

ピーター   音楽に対するアプローチを変えたことで進化したのですね。

Char   ロンドンへはCharとしてではなく、一人の日本人として行きました。「あれをしなさい」「これはやっちゃダメ」と誰からも指図されることなく、自由気ままにやりたいことができた。僕自身も、何か新しいものを探さなければならない時期だったんです。

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ピーター   1960〜70年代半ばにかけて、世界中で本当に素晴らしい、沢山のギター・ヒーローが生まれましたが、今の時代は「もうギターヒーローは存在しない」といわれていますね。

アンディ&Char    …そうですね…。

ピーター   フェンダーのような会社を経営していくうえでも、この状況は問題ですよね?

アンディ   ちょうど最近、ワシントン・ポスト紙が「エレクトリックギターの終焉」について取り上げた記事を掲載しましたが、私が最初に「エレクトリックギターの終焉」という言葉を耳にしたのは、John Travoltaが映画『Saturday Night Fever』の中で踊っていたころです。世界中どこのディスコでも、シンセサイザーでつくられたダンス・ミュージックが流れていました。しかし“ギターの巨匠”といわれるヘンドリックス、クラプトン、ペイジらが、最初の“ギターヒーロー”時代を築いたのも同時代なんです。彼らは誰も真似のできないプレイで人々を惹きつけ、当時はもちろん、後世の音楽シーンにまでとてつもない影響を及ぼしました。そして1970年代には、エネルギッシュな3コードのパンク・ミュージックが出現しました。私はある意味、パンクの影響力は今でも持続していると思っています。パンクをきっかけに、普通の人々がギターやそのほかの楽器に興味を持つようになったのです。

ピーター   特にUKではそうでしたね。

アンディ   パンクは世界的に大きな影響を与え、バンドで活躍する巨匠たちに対する人々の見解を180℃変えました。「私も楽器を弾きたい!」「私も作曲してみたい!」とか「私もステージに立ちたい!」という人々のニーズをかきたてたのです。とくにギターは、以前にも増してあらゆるジャンル&場所で、より多くの人々に広まっていきます。私はエレクトリックギターを含むギター全般の未来に関しては、とてもポジティブに考えています。

ピーター   「ストリーミングが普及したせいで音源が売れなくなり、やがては業界の破綻につながる」といわれて久しいですが…

アンディ   いえ、私としては逆に配信が救世主となり得ると思っています。音楽業界では、2014年にデジタル配信がCDの売上を逆転しましたが、2016年、1億人もの人々が何らかのデジタルストリーミングサービスに登録し、さらに2017年にはユーザー人口が1,600万人も増えているんです。しかもレコーディングされた音楽やライヴ音源、とくにフェスティバルにおける売上は史上最高を記録しています。不思議なことにそれに比例するように、エレクトリックギター、アコースティックギター、さらにウクレレの売上も上昇しているのです。

Char   興味深い現象ですね。

アンディ   確かに今、世界的にブームであるEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)はギターを排除するような電子音楽です。しかし、2016年にデジタル配信されたアルバム&シングルランキング年間トップ10の半数以上はギター中心のバンドの作品でした。しかも、配信されているすべての音楽の55%がビリー・ホリデイ、バディー・ホリー、The Venturesなどギター中心のいわゆる“懐メロ”で、いわば過去の作品がマーケットの拡張に貢献し、業界全体を成長させています。

ピーター   それはとても面白い。ストリーミングがあれば、CDなどを買いに行かなくても、どこでも音楽が聴けます。そして好きなバンドがあるミュージシャンの影響を受けていることを知ればそれを簡単に検索してすぐにチェックできるわけです。

アンディ   私自身、NIKEのあとDisneyで11年間働きましたが、スティーブ・ジョブズがCEOを勤めた時代のPixarとも関わりがありました。Steveは大の音楽好きでしたから、Appleで初代iPodのリリースに並々ならぬ情熱を注いで…私自身は、ソニーのWalkmanとAppleのiPod、2つのガジェットの出現が、音楽の歴史における2大事件だと思っているのですが…その結果、人々は音のクオリティと引き換えに、いつどこへでも携帯可能な音楽を手に入れました。初代iPodには約500もの曲が収録可能で世界を驚かせましたが、スティーブはそのときすでに「そのうち世界中すべての曲目リストが携帯電話でチェックできるようになるだろう」と予想していたんです。

ピーター   さらに先を見越していたのですね…すごい先見の明です。

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アンディ   人間の耳とは残念なもので、一度体験してしまうと、低品質な音に慣れてしまうんですが…

ピーター   Charさんは、CDとかmp3とか、どの形で音楽を聴くのが好みですか?

Char   この50年間、音楽を聴くためのテクノロジーの方向性は常に変わっていないと思います。40年前は8チャンネルか16チャンネルの録音機器しかなくて、レコード・CD・DATなどさまざまな形式のメディアが出現し、僕らも時代とリスナーのニーズに合ったものを利用するしかなかった。しかし今はもっと手軽になり、デジタル音質もアナログ並みに向上しています。1980〜90年代は、アナログの方がデジタルよりも断然音がよく、デジタルの場合、エンジニアは音作りにとても苦労していました。しかし今では、どちらがリアルなドラムサウンドか、プロでも判断しづらいほどです。また、ロンドンで活躍する有名なエンジニアの友人が「あるバンドのレコーディングで、まずドラマーだけが来て録音し、彼が帰った後にベーシストが来る。そうして次にギター、次にヴォーカル…と、個人主義で進行するのだと。大きなスタジオなのに、ちょっと不思議ですよね」

ピーター   今はそういう時代かもしれないですね…。

Char   僕自身は、そのように“あとから編集された音楽”はとても機械的でグルーヴに欠けるのではないかとちょっぴり不満を感じます。しかし現代ではコンピューターがリアルな音楽を作るし、グルーヴも生み出すことができる。試しにプロツールなど新しいマシンを使ってスタジオクラフト的な音楽を作ってみましたが、完璧なんですよ…でもライヴの演奏は、また違った独特のよさがあります。この2つは逆の、いや別々の魅力を持ったものと捉えた方がよいのかもしれません。

アンディ   今は、作曲から仕上げまですべてデジタルで行ってから、アナログでどうやってプレイしようか考えています…それは多くのアーティスティックな表現方法にも影響しています。そういえばDisney時代にPixarとアニメの製作をしているとき、髪の毛や水の流れの表現方法をどこまでリアルにするか、クリエイターたちの間で大きな問題となったことがあります。今ではリアルすぎて面白みがなく、とてもアニメーションには見えないのですがね(笑)。

Char   しかし、現代におけるコンピューターおよびインターネットの発展は、結果として世界中すべての人々によい影響をもたらしていると思いますよ。そう願いたいですね。


夢の時間はまだまだ続く。次回は、デジタルストリーミング時代におけるギターの将来について、彼らと一緒に考えてみよう。


› ISSUE 1: HEROES MET THE SOUND(音あるいは音楽との出会い、そして歩み)
› ISSUE 2: THE PROSPECTIVE NEW ERA(デジタルストリーミング時代における音楽そしてギターの未来)
› ISSUE 3: THE NEXT LEADERS’ PURSUIT(新時代の音楽カルチャーを創造するマスターたちの挑戦)

PROFILE


Char(チャー)
Artist本名・竹中尚人(たけなか ひさと)。10代からバックギタリストのキャリアを重ね、1976年『Navy Blue』でデビュー。ソロと並行してJohnny, Louis & Char、Phychedelix、BAHOなどのバンド活動も精力的に行い、2009年にインディペンデントレーベル「ZICCA RECORDS」を設立し、2017年WebメディアOfficial ”Fun”club 「ZICCA ICCA」を開設。ギターマガジン主催「ニッポンの偉大なギタリスト100」グランプリに選出されるなど、日本を代表するプレイヤーのひとり。

Artist 2017年末より自身初となるアコースティックツアーを開催中。また、ツアー全公演をレコーディングし、ライブの約3週間後にお届けする企画CD「ZICCA PICKER」も自主レーベルZICCAサイトにて好評発売中。

› Website
http://top.zicca.net/


Peter Barakan(ピーター・バラカン)
ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)など多数の番組を担当するほか、執筆業、都市型音楽フェスティバルLive Magicのキュレーションなど精力的に幅広く活動中。
› Website:http://peterbarakan.net


Andy Mooney(アンディ・ムーニー)
ナイキ、ディズニー・コンシュマー・プロダクツ、クイックシルバーといったアパレル&ライフスタイル&エンタテインメント業界のグローバルブランドでCMOやCEOを歴任したのち、2015年6月、フェンダー ミュージカル インスツルメンツ コーポレーションのCEOに就任。豊富なビジネス&マーケティングスキルを生かし、デジタル施策を含めた大胆な取り組みをグローバル展開中。プライベートでは自身でもバンドを組むほどの音楽好きで、ギターコレクターでもある。

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