
Signature Model Interview | 塩塚モエカ(羊文学) -前編-
Jaguarは繊細な感じもあって、自分の音楽にすごく合っている
2021年に次世代を担うギタリストを支援するフェンダーのアーティスト育成プログラム「Fender Next」に選出された羊文学。その後、塩塚モエカは2023年に“フェンダーアーティスト”のパートナーシップを発表している。このような布石もあり、いまや羊文学はアリーナ公演も成功させる一方で、海外にも頻繁に足を運ぶ人気バンドに成長し、塩塚モエカはそのオルタナロックサウンドの要と言える美しい轟音を奏で、ギタリストを志す若者の憧れの存在の一人となった。その彼女が待望のシグネイチャーモデル、Moeka Shiotsuka Jaguar moniを発売。インタビューの前編では、長年使ってきたAmerican Vintage ʼ65 Jaguarを基にしたという開発の裏話や、彼女なりのこだわりポイントを語ってもらった。
私のお守りをみんなにお裾分けしたいと思いました
──撮影お疲れさまでした。本日はシグネイチャーモデルを持って、ビジュアルとムービーを撮影されていましたが、その感想から聞かせていただけますか?
塩塚モエカ(以下:塩塚) このシグネイチャーモデルをもうちょっとで届けられるんだって思ってました。
──ご自分のシグネイチャーモデルが発売されるのは、どんな気持ちなんでしょうか?
塩塚 本当にいいんだろうかと思いつつ、Jaguarっていうギターをもっともっといろいろな人に使ってほしいなって思っていて。Jaguarって今、主流のギターっていうわけではないと思うんですけど、本当に広まってほしくて、それにちょっとでも貢献できるなら嬉しいです。
──Jaguarのどんなところがそんなに気に入っているんですか?
塩塚 弾きやすいところかな。私は体が大きくないので、ネックが短いJaguarは弾きやすいんですよ。もちろん音も好きです。力強い音のギターも好きなんですけど、Jaguarは繊細な感じもあって、自分の音楽にすごく合っているって思います。歪みとリバーブを踏んで演奏することが多いんですけど、その感じにもすごく合うんですよ。
──ルックスはいかがですか?
塩塚 カッコいいですよね。このスイッチの感じも好きです。今回作ったシグネイチャーモデルでも再現させてもらったんですけど、私はいつも上にあるプリセットスイッチを固定するためにギターの名前を書いたテープを貼っているんです。そんなふうにいじれるところがいっぱいあるところも気に入ってます。
──なるほど。そんなふうに今回発売されるシグネイチャーモデルには、塩塚さんのこだわりがいろいろと反映されていますが、開発するにあたってはどんなギターを作りたいと考えたのでしょうか?
塩塚 私がメインで使っているAmerican Vintage ʼ65 Jaguarが現在はもう売っていないので、それに近いものを作っていきたいなって思いました。
──そこからどんなふうに取り組んでいったんですか?
塩塚 私が使っているギターと何度も比べながら、近い音色になるように調整していただきました。買ってからずっとその1本だけを使い込んでいるので、音もちょっと柔らかくなっているんですよ。そういうところも加味しながら、ネックの握り心地も似たようにしてもらいました。見た目にもこだわったところがいくつかあって、私のギターは買ったばかりの時にヘッドにチューナーを挟んじゃって、フェンダーのロゴが剥がれちゃったんですよ。それも再現したいと思ったんですけど、さすがに最初からロゴを剥がすことはできないので、ロゴをAmerican Vintage ʼ65 Jaguarと同じ水張りデカールにしてもらいました。
──なるほど。使い方によっては、使い込んでいくうちにロゴが剥がれるかもしれないわけですね。
塩塚 使っていくうちにギターが変化していくのは面白いじゃないですか。それと、これはシグネイチャーモデルだけなんですけど、4弦のペグに私が描いた大好きな蝶々の絵を刻印していただいたんです。これはフェンダーさんでは初めてだったそうです。
──その蝶々の刻印はお守りの意味があるそうですね。
塩塚 ライヴの時ってけっこう緊張するので、このシグネイチャーモデルを使う方が弾く時にちらっと見て、緊張がほぐれたらいいなと思って入れていただきました。
──その蝶々はセルフケアテクニックのバタフライハグからの連想だとか。
塩塚 それもそうだし、一緒にグッズを作ってくれる友達が、お守り代わりに私の左の薬指の腹に蝶々を描いてくれるんですよ。それが私のお守りなので、みんなにお裾分けしたいと思いました。
──蝶々が刻印されているのが4弦のペグボタンということにも意味があるそうですね?
塩塚 私、なぜか4弦がすぐに切れちゃうんです(笑)。たぶん弾き方のクセだと思うけど、切れませんようにと思って入れました。

本番で使いたいと思える1本ができて嬉しかった
──使っていくうちにギターが変化していくのが面白いとおっしゃっていましたが、塩塚さんのAmerican Vintage ʼ65 Jaguarも色がけっこう変わってきているじゃないですか。そこも意識して、ボディの色も今回オリジナル(Aged Sonic Blue)で作ったそうですね。
塩塚 そうです。ボディの色も今使っているギターと見比べて作りました。ただ、そのまま再現したわけではなく、私のギターは黄色みが強くなってきたので、もうちょっと青色が強い感じがいいかなと思って、何種類も作っていただいた色の中から選びました。
──ブラス製のブリッジも、このシグネイチャーモデルの特徴の一つだと思います。
塩塚 買った時はスチール製のブリッジだったんですけど、それがダメになった時、いつもメンテナンスしてくれているリペアマンさんと話し合ってブラス製に交換してもらったんですよ。音がちょっと柔らかくなった印象があります。
──これまでのJaguarでブラス製のブリッジってなかったそうですね。さて、そんなシグネイチャーモデルを実際に弾いてみていかがでしたか?
塩塚 すごく弾きやすいし音もカッコ良くて、本番でもちゃんと使えるというか、使いたいと思える1本ができて嬉しかったです。
──American Vintage ʼ65 Jaguarと比べて、音に違いはありますか?
塩塚 シグネイチャーモデルのほうがちょっと力強いかもしれないですね。最初、打ち合わせをしている時に、スリーピースでギター1本だと音がちょっと弱くなっちゃうという話をしたので、それを汲んでいただいたと思うんですけど、音の立ち上がりの速さも同じくらいにしてもらって。力強い音がバッと出るので、これから活躍しそうです。
──ピックアップもオリジナルだそうですね。
塩塚 そうなんですよ。このシグネイチャーモデルのために開発していただきました。
──使い込んできたギターの音を、新品のギターで再現するために試作品をたくさん作ったそうです。オリジナルのギターよりも力強いというお話も出ましたが、今後、どんな場面、あるいはどんな曲で使いたいですか?
塩塚 ライヴだったら通しで使っても全然いけると思います。最新アルバムの『D o n’ t L a u g h I t O f f』に、「doll」というギターをガシガシ弾いてギターソロもある力強い曲があるんですけど、そういう曲で使ったらカッコいいのかな。でも、どんな曲でも大丈夫だと思います。きっとライヴで使うと思うんですけど、American Vintage ʼ65 Jaguarと見た目がすごく似ているから、どこで持ち替えたか、そこにも注目しながら見てほしいですね(笑)。


>> 後編に続く(近日公開)
塩塚モエカ
羊文学のギター&ヴォーカル。全楽曲の作詞・作曲を務める。並行して行っているソロでの音楽活動は、映画やドラマの劇伴制作、CM歌唱など多岐にわたる。また、そのアイコニックなキャラクターからファッション・カルチャーシーンからも注目を集め、モデルや文章執筆なども行っている。羊文学としては、2023年、メジャー2ndフルアルバム『our hope』が第15回CDショップ大賞2023 大賞<青>を受賞。TVアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」エンディングテーマ「more than words」が国内ストリーミング1億再生を突破し、日本レコード協会プラチナ認定作品に選定されるなど大ヒットを記録。2025年、新曲「声」がフジテレビ系月9ドラマの主題歌に抜擢。5月に日本最大規模の国際音楽賞MUSIC AWARDS JAPANにて、最優秀国内オルタナティブアーティスト賞と「more than words」が最優秀国内オルタナティブ楽曲賞の2部門で最優秀賞を受賞した。
ライブ活動においては、2024年4月に開催した、キャリア史上最大規模の横浜アリーナ単独公演〈羊文学 LIVE 2024 “III”〉のチケットは発売開始直後3分で即完。2025年4月に初のUSツアー〈Hitsujibungaku US West Coast Tour 2025〉を完走。9月より日本武道館2daysと大阪城ホールを含む過去最大規模のツアー〈Hitsujibungaku Asia Tour 2025 “いま、ここ (Right now, right here.)”〉を開催。アジアツアーは全11公演がSOLD OUTした2024年に続き、2度目の開催となる。初のUSツアー「Hitsujibungaku US West Coast Tour 2025」を4月に完走。9月より日本武道館2daysと大阪城ホールを含む過去最大規模のアジアツアー「Hitsujibungaku Asia Tour 2025 “いま、ここ(Right now, right here.)”」を開催。
また、10月からは欧州6か国7都市を回る初のヨーロッパツアー「Hitsujibungaku Europe Tour 2025」も開催し、国内外問わず、グローバルな舞台へと活躍の場を広げている。
https://www.hitsujibungaku.info/

