Special Interview | 春畑道哉 -前編-

このギターがあれば何も要らない

TUBEのギタリスト春畑道哉の新たなシグネイチャーモデル「MICHIYA HARUHATA STRATOCASTER® HEAVY RELIC® by JASON SMITH」が11月15日に発売された。構想から発売まで7年越しとなる渾身の本作は、“Heavy RelicのVintage Spec”というテーマのもと、まるで歌うかのように自由で豊かな春畑の表現を思い通りにアウトプットするため、ジェイソン・スミスの技術が集約したカスタムショップが贈る最高峰のハイブリッドギターに仕上がっている。インタビュー前編では、開発に至るまでの経緯からこだわりのスペックまで、じっくりと話を聞いた。

──まずはMICHIYA HARUHATA STRATOCASTER HEAVY RELIC by JASON SMITHの開発の経緯を教えてください。

春畑道哉(以下:春畑) ずっと前からヘヴィレリックのギターを作りたいという想いはあったのですが、自分の一本はできたとしても、みんなに持ってもらうには“ちょっと難しいかもね”という話をフェンダーの方としていたんです。何となく似ているだけじゃ、アーティストモデルとして中途半端だと。で、本当に待って待って、ようやく自分の手元に来たのが2年前のクリスマスの頃でした。足掛けで言うと7年越しのプロジェクトですね。

──そもそも、ヘヴィレリックのシグネイチャーモデルを作りたいという欲求はどこから来たのですか?

春畑 単純にカッコいいから作ってほしかったんです。サウンド面で言うと、ハムバッキングとフロイドローズの組み合わせのシグネイチャーモデルを作ってきたので、次に作るとしたら原点に戻ってストラトらしい音で作りたかった。僕のシグネイチャーモデルの1号機が3シングルコイルだったから、今度はリア(DIMARZIO DP155)だけはハムバッキングにしたくて今回の仕様になっています。

──実際に、一昨年のクリスマスに届いてからけっこう使ってくれていますよね?

春畑 もの凄く使っています(笑)。というか今のメインギターです。昔の曲でどうしてもフロイドローズが必要な時はフロイドローズを使いますけど、そうじゃなかったらTUBEのツアーもこの1本でいっちゃいます(笑)。

──各パートのこだわりを聞かせてください。まずはヘッドから。

春畑 ヘッドはやっぱりリバースですね。とにかくこのシルエットが気に入っているので、弦交換のやりづらさはもう関係ないです(笑)。

──(笑)。

春畑 それから、トーンを押すとどんな状況からもフロントのピックアップがオンになります。実は昔に、マイケル・ランドウが手放したギターを購入して使っていた時期があるんです。ランドウってジミヘンみたいな音を出したがった時期もあるのですが、買ったギターもそういう音がしました。見てもらったら、ただ単にフロントの音が足されているだけですよって。あ、そうなんだと。実際に春畑モデルで配線してもらったら、フロントがオンにされることによってバリエーションがものすごく出たんです。リア+フロントという組み合わせは普通ないんですけど。あと、3つのピックアップが全部同時に鳴るんですけど、そういうモデルもないですよね。

──手元だけでかなり音のバリエーションが出せますね。

春畑 はい。クリアなトーンでもう少し太い音が欲しいけどアンプのツマミは変えたくない時は、フロントを足すだけで独特な音が出るんですよね。

──ピックアップは何を積んでいるのですか?

春畑 フロントとセンターはVintage Noiselessですが、そう見えない(笑)。むしろノイズが発生しそうな見た目だけど、実はお利口なピックアップです。リアピックアップも、このギターを作っているマスタービルダーのジェイソン・スミスが選んでくれました。今までの春畑モデルのピックアップよりもパワーがあるそうです。そして、ピックアップもちゃんとレリックしてくれています。

──ボディのヘヴィレリックを量産するには、どういう技術を使っているのでしょうか?

春畑 量産の技術はなく完全に手作業だそうです。一度キレイに作ってから、ジェイソンが一本一本傷つけています。実は、これをみなさんに持っていただくにあたり何回もミーティングをしたのですが、僕としては手軽に持ってほしいという想いもあって国内の生産ラインも検討してもらいました。だけど、“似てはいますね”みたいなモデルは嫌だなと思って、今回は音質もルックスもプレイアビリティも、Fender Custom Shop™で完全に僕のモデルと同じものを作っていただきました。

──今回、ジェイソンさんとはどのようなやり取りがありましたか?

春畑 直接ではないのですが、本当に細かくディテールを指示させてもらいました。特にその中でこだわった点は、レリック具合を半端なくレリックに、過去最高にレリックにさせてくれと(笑)。迫力のある、何十年使い込んできたの?と思わせるものにしてほしいとお願いしました。

──見た目は50年代のストラトがベースですが、中身は最新技術を積んでいるハイブリッドなギターですよね。

春畑 はい。僕のプレイはチョーキングとビブラートがすごく多いんですが、サスティンの残り方も完璧なんです。フレットのチョイスとか指板のアールもストレスがないので、さっきも言った通りTUBEのツアーもこれ1本で廻れちゃうんです。これがマスタービルダーの技量です。しかもマスタービルダーが、フェンダー中のストックから一番の樹を選べるんです。結局、エレキギターは樹ですから。今日、日本に来たばかりのMICHIYA HARUHATA STRATOCASTER HEAVY RELIC by JASON SMITHを弾いても同じ響きがしたので驚きました

──フェンダーのギターを多く持っている中で、このギターはどんな立ち位置ですか?

春畑 TUBEのツアーでは、フェンダーのAcoustasonic®も一緒に持って行ったんです。アコースティックな曲はアコスタで、エレキの曲は全部これで廻りました。つまり、フロイドローズ系のクリケット奏法だとかそういう曲でなければ、本当に何でも弾けるギターです。その後のセッションでもレコーディングでもテレビの収録でも、何でもこれでいけたなぁ。音が太いんですよね。

──ド真ん中にして最強のギターですか?

春畑 そうですね。もし“次のシグネイチャーモデルはどうしますか?”と言われても、こんなに素晴らしいギターを準備してもらっているから、“俺はこれでいける”という感覚なんです。このギターがあれば何も要らないです(笑)。

──どんなプレイヤーにオススメしたいですか?

春畑 見た目はクレイジーなギタリスト向きと思うかもしれないけど、TUBEでも春畑ソロでもいろいろなタイプの曲を演奏するんです。ヘヴィなリフを刻んだり、ライトなグルーヴの曲だったり、ファンキーな曲もある。で、本当にすべてに対応できるから、“こんなギタリストにオススメ”というのが逆に思いつかないんです。

──全方位的におススメ?

春畑 そうなんですよね。ロックンロールもブルースも、サーフミュージックのサウンドだっていける。ノイズレスピックアップなだけあって、どんなに歪ませてヘヴィなリフを弾いてもすごく切れ味が良い。

──もちろんカッティングも?

春畑 はい。キッスみたいなスイッチング奏法もできますよ。TUBEでもソロでもこのギターでよくやっています(笑)。

>> 後編に続く(近日公開)


春畑道哉
85年、TUBEのギタリストとして「ベストセラー・サマー」でメジャーデビュー。86年、3rdシングル「シーズン・イン・ザ・サン」の大ヒットでバンドとしての地位を確立。87年、TUBEと並行してソロ活動を始め、現在までにシングル3枚とアルバム13枚をリリース。92年、シングル「J’S THEME(Jのテーマ)」が日本初のプロサッカーリーグであるJリーグのオフィシャルテーマソングとなる。93年のJリーグオープニングセレモニーでは国立競技場の約6万人の観衆を前にライブを行った。2002年5月9日、フェンダーと正式にアーティストエンドース契約を締結。日本人のギタリストとしては初めてのシグネイチャーモデルを発売。これまで、Michiya Haruhata Stratocaster 、Michiya Haruhata BWL Stratocaster、Michiya Haruhata Stratocaster IIIという3 本のシグネイチャーモデル、そしてマスタービルダー、ジェイソン・スミスの師匠であるジョン・イングリッシュが生前製作したMichiya Haruhata Stratocaster IIIプロトタイプの復刻モデルを発表している。 2019年3月リリースのソロアルバム「Continue」は、第34回 日本ゴールドディスク大賞 “インストゥルメンタル・アルバム・オブ・ザ・イヤー“を受賞。2022年4月、ソロデビュー35周年アルバム「SPRING HAS COME」をリリース。2023年2月には今年初開催し好評を博したbillboard LIVEツアーや出身地町田の町田市民ホールリニューアルオープン記念ライブの開催を予定している。
http://www.sonymusic.co.jp/artist/MichiyaHaruhata

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