Special Interview | 新井和輝(King Gnu) -後編-
シーケンスや電子音が混じり合った音像の中でも、レンジが広く芯も太く感じる
King Gnu や millennium parade のベーシストとして活躍する新井和輝が、新たなシグネイチャーモデルDeluxe Jazz Bass® V, Kazuki Arai Editionを制作。インタビュー後編では、8月22日に発売された本モデルを実際にライヴで使用してみての弾き心地、サウンド面の特徴についてなど熱く語ってもらった。
──今回のDeluxe Jazz Bass V, Kazuki Arai Editionを、どんな人に弾いてもらいたいですか?
新井和輝(以下:新井) まず、限定販売だった前回のシグネイチャーモデルに興味があったけど弾けなかった、手に取れなかった人はぜひ試してみてほしいです。価格も、当初考えていたよりは高くなってしまったけど、このクオリティにしてはかなり頑張ったので…(笑)。それこそウルトラ(American Ultra Jazz Bass V)が品薄の昨今、このモデルはウルトラよりも安くなっているし、音の傾向としては、心臓部分のピックアップも同じなので、本国のフェンダーには嫌がられるんじゃないか?というくらいお得なモデルになったと思うんですよ(笑)。ウルトラの5弦ベースよりも10万円近く安くなっているし、俺がフェンダーの人間だったら“もう少し値段上げたいよ”と言いたくなるかも。
──あははは。
新井 というくらい一つひとつの仕様にこだわり、それを組み合わせた時に“え、この値段で売っているんだ!”と驚くものには確実になっているはず。前回の限定モデルは、特にプロのミュージシャンからめちゃくちゃ褒められたんですけど、今回もその傾向を引き継ぎつつ、もう少し広く受け入れてもらえるモデルになったと思うので。
──おっしゃるように、今はAmerican Ultra Jazz Bass Vが国内で入手困難ですし、アッシュボディのウルトラもなくなってしまったんですよね。
新井 そうか、アッシュも木材としての希少価値がどんどん上がっているんですよね。僕はずっとアッシュボディを使ってきたので、その流れで今回もアッシュを使わせてもらっていますから、どう考えてもこっちを買ったほうがいいかも(笑)。実際にウルトラと弾き比べてみたのですが、マジで遜色のない音ですよ。とりあえず一度弾いてみても損はないと思いますね。プロダクトとして、めちゃくちゃお得感があると思います。ボディもウルトラよりコンパクトなので、小柄な方でも弾きやすいですし。
──もう一つ、今回は“シグネイチャーモデルという先入観を払拭したい”という新井さんご本人からの意向があり、サインなしのネックプレートを付属しているそうですね。
新井 自分自身がベースを使う上で、ヘッドの裏に誰かのサインが入っていると、ちょっと持つことを躊躇してしまうんですよね(笑)。そういう気持ちの人って、きっと僕だけじゃないと思うんです。今回、アクティヴの5弦ってすごくニッチなベースだし、特にフェンダーだと数もそんなにない。今、おっしゃったようにウルトラも国内ではほとんど見かけなくなっているじゃないですか。アクティヴの5弦への需要がより高まっている中、“スタンダードなベース”というコンセプトを押し進めた僕のこのシグネイチャーモデルを、僕の名前を知らない人にもぜひ持ってもらいたいという気持ちがあったんです。なんなら僕のサインがなくてもいいし、“サインが入っていないシグネイチャーって出せないのか”とフェンダーのスタッフさんに相談してみたこともあったのですが、“それはさすがにできない”と。
──そうでしょうね(笑)。
新井 それだけ幅広い層の方に受け入れてもらえる名機に仕上がったという自負があったので、“僕の名前で判断してほしくないな”という気持ちだったんです。そういう願いを込めて、今回はサインが入っていないネックプレートも付属されるようにしていただきました。
──今年6月に横浜・日産スタジアムで開催された〈King Gnu Stadium Live Tour 2023 CLOSING CEREMONY〉でも、このシグネイチャーモデルをアンコールの4曲(「閉会式」「白日」「McDonald Romance」「Flash!!!」)で使用されたそうですが、いかがでしたか?
新井 もちろん形は前回の限定モデルとまったく同じ形なので、弾き心地に関しては当然バッチリでした。サウンド面は、そのライヴを見てくださった方たちから外音の印象を尋ねたところ、“けっこう(限定モデルとの)違いを感じた”と言っていただきました。“太く感じた”という声が多かったのは、さっきも言ったようにポリ塗装にしたことで、重心が低くなっているのかなと。低音感がより出ているし、レンジも広くなった気がします。
やっぱり前回はパッシヴっぽいサウンドになっているぶん、レンジも少し狭かったと思うので。今回はアクティヴらしいサウンドになっているぶん、レンジが広く芯も太く感じたのかなと。King Gnuのライヴみたいな、バンドアンサンブルにさまざまなシーケンスや電子音が混じり合った音像の中でもそう感じるということは、相当太い音が出せていると思いますね。
──では最後に、新井さんの今後の予定をお聞かせください。
新井 King Gnuは、ニューアルバム完成に向けて現在絶賛制作中です。今回はエレベやシンベなど、ベースでもいろんなアプローチをとっていて、最近リリースした2曲(「雨燦々」「Stardom」)もちょうどエレベの曲、シンベの曲という感じで並んだのですが、エレベのアプローチも個人的にかなり気に入っています。
とにかく、バンドとして制作の練度がどんどん上がってきているなと。まだ制作途中なので、これからどんな曲が常田の中から出てくるか僕としても想像もつかない要素がたくさんあって。そういった意味でも非常に楽しく制作をしていますし、アルバムのリリースツアーも近いうちにアナウンスされるはずなので、そちらも楽しみにしていてください。
>> 前編はこちら
Deluxe Jazz Bass V, Kazuki Arai Edition
新井和輝
ヒップホップや黒人音楽好きの母親のもと育つ。中学生時代、友人達とのバンド結成をきっかけにベースを始めた。高校に入学すると軽音部に所属。先輩に連れられて観たジャズ・セッションのライヴでジャズに目覚め、ブラック・ミュージックに深く傾倒する。日野“JINO”賢二、河上 修に師事し、ピノ・パラディーノ、ミシェル・ンデゲオチェロ、マーカス・ミラー、レイ・ブラウンなどから影響を受ける。大学時代に西荻窪Clop Clopで出会った勢喜遊を通じ、常田大希、井口理と前身バンド、Srv. Vinciとして活動を開始。2017年4月のKing Gnu始動以降も、多種多様なアーティストのライヴやレコーディングに参加し活動の幅を広げている。
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