Interview | 野村義男
69年にUSA工場にてごくわずかに生産され、今やコレクターズアイテムとなっていたSwingerが、MADE IN JAPANラインで奇跡の復活! その監修を担当したのが野村義男氏。彼が所有するSwingerの実機を型取って製造するなど、今回のプロジェクトに大きく貢献した野村氏にSwingerの魅力、そして監修のポイントなどを語ってもらった。
みんなにも知ってもらいたい
― 野村さんは知る人ぞ知るSwingerのコレクターなんですよね?
野村 はい。今は8本持っています。この間、アメリカのサイトでSwingerを5本持っている方が、“俺が世界一のコレクターだ!”と言っていて“はー!?”って思っちゃいました。
― じゃあ、野村さんが世界一のコレクターと言っても過言ではないんですね。そもそもSwingerとの出会いは?
野村 30年くらい前に、チープ・トリックのリック・ニールセンがSwingerを持っている写真を見たんですよ。で、ヘッドにはフェンダーって書いてある。書いてあるけど、ボディのお尻は切れているしピックアップは1基だし、“どういうこと?”ってすごく興味を惹かれて。よく記事を読んだら、フェンダーが作ったことがわかって。その時はMusic Landerという名前で紹介していたんです。
― SwingerではなくMusic Landerだったんですか?
野村 そうなんです。実はこのギター、Music Lander、Arrow、そしてSwingerという3種類の呼び方があります。で、記事を読んで、現存するモデルだということはわかったのですが、Swingerが生産された年、つまり69年のフェンダーのカタログまで遡ったのですが、このギターのことがどこにも載っていない。何なんだ?ってまた振り出しに戻ってしまいました。それからさらにSwingerのことを調べたり、見つけたものは色被りをしないよう購入していきました。
― とてもミステリアスなギターですが、調べた結果、どんなギターだとわかりましたか?
野村 なぜSwingerはカタログに出ていないのか?というところから話は始まります。このSwinger、実は300本ぐらいしか生産されていないという話もあります。それはなぜかというと、69年はフェンダーが在庫をどうするか悩んでいた時期だったの。その前に発売していたモデル、StratocasterやTelecasterの売り上げは順調だけれども、スチューデントモデルや5弦ベースのBass V、Electric XIIなどは思ったよりも売れていないという話に社内でなったらしいんです。それで、余っているパーツで製造されたのがこのSwingerなんです。
― なるほど。
野村 その余ったパーツですが、ボディに関してはBass Vのボディを再利用されたと思われているんだけど、そうではない。僕が持っている8本のSwingerもバラしてみると、全部違うボディが出てくるんです。ただ、Bass Vのボディを使ったものが一番多いみたいですけど。
― 今でいうとかなりエコな発想ですよね。
野村 そうなんですよ。話していて思い出したんですけど、Swingerが作られた背景も所説あるんです。クリスマスプレゼントとかで、お父さんが買いやすいリーズナブルなギターを何本か作ってよって言われて楽器屋さんが作った説。余っているボディとネックを組み合わせて作った説。あとは、シアーズ・ローバック(アメリカにある世界最大の小売企業)が通販用に注文した説、ニューヨークのどこかの楽器屋さんが注文した説もあります。
― 確かにミステリアスですね。
野村 全部が嘘ではないし、全部が本当でもないかもしれないのが、ミステリアスギターたる所以です。
― Swingerの謎めいた歴史がわかりました。そのSwingerを野村さんの監修で復刻したわけですが、復刻に際してこだわった点は?
野村 “僕が持っているSwingerをバラバラにして調べていいよ”と1本預けて、そこから型を取ってもらうところから始まっています。自分が知っているSwingerと同じだから、僕的には違和感がないわけです。でもそうすると、ショートスケール(※22.5インチ)でピックアップが1基だから、実戦で使用せずに飾りになっちゃう場合がある。飾っておくだけでもカワイイけど、実際に使ってほしいわけです。この風変わりなフェンダーをみんなに知ってもらいたい、使ってもらいたいので、ネックのスケールを24インチ、つまりMustangと一緒にしました。使えるギターになったので、そこはやっぱりすごく大きいと思います。あと昔にライヴでSwingerを使ったことがあるんだけど、“フロントピックアップしかなくてショートスケールってどうやって使うんだよ!”と思ったことがあったの。だから今回完成したSwingerに関しては、フロント/リアピックアップのもの(Swinger)とフロントピックアップのみのもの(Limited Swinger)と2種類あります。Limited Swingerは3色×30本の計90本しか作っていないそうです。
― 野村さん的にはこのSwingerは、どんな方やどんな演奏にオススメしますか?
野村 今は女の子ギタリストも多いのですが、体の大きさに合っていないギターを持っている人も多いんです。そういう子は、このSwingerを持ったほうがバランスはいいと思っています。そういう子たちがジャカジャカ弾いてくれたら、Swinger自体のデザインもかわいいからすごくいいと思いますね。それから、このギターの存在は知っていたけどお目に掛かれなかったお兄さんたちには、写真の中でしか存在しなかったギターを今手にすることができますけど、どうします?みたいな感じです。
― 今回の復刻Swingerも、残っていたパーツを使っているんですか?
野村 違います。ちゃんと僕の持っていたSwingerから型取りして、素材を合わせて作っています。だから、みんなにも弾いてもらいたい。フェンダー史上初めてなんです。Swingerという楽器を作ったのは。
― お話を聞いていたら、すぐにでも欲しくなってきました。
野村 嬉しいなぁ。あと、復刻の際に“同じブリッジが用意できない”って言われたんですけど、“それは嫌だ!”って言ったんです。他のブリッジを代用したらカッコ悪い、絶対にコレなのよという話をしたら“作ります!”って。流石はフェンダーですよね。2ピックアップのモデルに関しては、トグルスイッチもわざわざ探してもらったものを付けています。
― かなりのこだわりですね。
野村 あと、Swingerと書かれたシールというかステッカーが付属されています。自分が楽器屋さんになった気分でヘッドに貼ってみてください。
― オススメのカラーはありますか?
野村 個人的な思いで言うと、バーガンディミストメタリックだけ持っていないんですよ。一度見かけたんですけど、買おうかどうか1日考えている間に売り切れてしまって。だからと言ってバーガンディミストメタリックがオススメというわけではなく、いろいろな色があるからこそのSwingerなんです。あなたの好きな色が選べますよ!と。で、好きな色を買ってどんどん弾いてほしいんです。重さも2.5キロ程度なのでPrecision Bassの半分です。ボディも小さいから、僕は家ではソファーに寝っ転がりながら弾いています。
― プロ中のプロの野村さんが弾いても良いギターだと?
野村 うん、完璧です。ボディのデザインも適当に切っているのではなくて、きちんと考えて切っています。当時、余ったパーツで作られたわけですが、決して適当に作られたわけじゃないのがフェンダーのすごいところです。
― Mustangと比べてどう違いますか?
野村 Mustangと言えばステューデントモデルの代表格ですけど、そのMustangとの違いはSwingerにはトレモロが付いていない点ですね。それと、Swingerのほうがもっとお手軽で小回りが利くギターですね。
― さらにお手軽となると、ビギナーの人にもオススメですね。
野村 うんうん。あと、ストラトやテレキャスだと手が小さくて指が…という人にもオススメです。それと、さっき女の子ギタリストが多いって話をしたけど、負けじと楽器を弾かなかった男子たちがギターやバンドを始めてもいいと思う。そういう子にもSwingerはピッタリだよね。スペイシーでカッコいいですから。
SWINGER
カラー:BURGUNDY MIST METALLIC(写真), BLACK, OLYMPIC WHITE, DAKOTA RED, SONIC BLUE
仕様:BASSWOOD BODY, MAPLE NECK, ROSEWOOD FINGERBOARD, C NECK SHAPE, 3-SADDLE SWINGER BRIDGE,
価格:115,000円(税抜)
LIMTED SWINGER
カラー:LAKE PLACID BLUE(写真), CANDY APPLE RED, SURF GREEN
仕様:LACQUER FINISHED BASSWOOD BODY, LACQUER FINISHED MAPLE NECK, C NECK SHAPE, 3-SADDLE SWINGER BRIDGE, SINGLE-COIL MUSTANG® PICKUP
価格:160,000円(税抜)
PROFILE
野村義男
79年、芸能界デビュー。83年にはThe Good-Byeを結成。その後、自身が中心となって三喜屋野村モーター’S BAND、三野姫、Funk Rocket、RIDER CHIPS、Sho-ta with Tenpack Riverside R&R Band、などを結成。92年、ソロアルバム「440Hz with〈Band of Joy〉」をリリース。95年、“PEGレーベル”を立ち上げる。現在は自身のバンド活動の他に、世良公則「GUILD 9」「音屋吉右衛門」、宇都宮隆、ダイアモンド☆ユカイ、田村直美、近藤真彦、など多くのアーティストのレコーディングやライブに参加している。
› Website:http://www.pegmania.com