Ultralist’s Interview | 春畑道哉
音楽仲間がたくさんいたのも、限界を超えていく大きな力になりました
さまざまな“壁”や“限界”を超えながら、常に新しいことにチャレンジし続ける表現者たち“ウルトラリスト”。フェンダーが新たに提示する“American Ultraシリーズ”の発売を記念し、そんな“ウルトラリスト”たちにスポットを当てるスペシャルコンテンツをお届けする。第1回は、TUBEのギタリストである春畑道哉。中学の頃、先輩に憧れてギターを手にしたその日から、彼はどのような“壁”を乗り越えて今のポジションを築き上げたのだろうか。
自分を許せなかった
― 春畑さんが最初に“限界”を超えたと感じたのはいつでしたか?
春畑 ギターを始めた時から、限界というか“壁”はいつもありますよね。僕は先輩のギタープレイに憧れたのが、そもそもギターを始めたきっかけで。“何であんな風に弾けないんだろう?”という悔しさがまずはありました。最初はフレットを押さえながら、音を探すところからスタートしていますからね。先輩みたいに文化祭のステージで、あんな風に自由にプレイするなんて夢のまた夢だよな…と思っていました(笑)。それからは練習の日々ですね。弾けるようになりたい曲をカセットテープに録音して、それを何度も何度も巻き戻して…文字通りテープが擦り切れるくらい繰り返し聴きながら、コピーしていました。
― 当時は今のようにYouTubeもないし、実際に本人がどう弾いているのかもわからなかったですよね?
春畑 そうなんです。友人や、さっき話した先輩と一緒にテープを聴きながら、“ここはこうやって弾いているんだと思うよ”とか“いや、ここはこっちの弦を使っているはず”なんて言いながら、みんなで情報交換をしていました。そういう音楽仲間がたくさんいたのも、限界を超えていく大きな力になりましたね。
― 負けず嫌いなところもありましたか?
春畑 ありました。“このギターソロ、カッコいいよね”ってみんなが言っている曲は絶対にコピーしてやると思っていたし、少しでも再現できていないところがあると自分を許せなくて(笑)。“これくらいでいいか”みたいなレベルでは人前で弾きたくない。厚かましいことを承知で言うと、“オリジナル以上にカッコ良く弾きたい”とすら思っていました。完コピは当然で、さらにそれを自分のものにできたらいいなと。
きっと、性格がしつこいんでしょうね(笑)。ギタリストの中には、7割くらいコピーして“あとはノリ一発で”というタイプの人もいるし、曲によってはそのほうがカッコ良く弾ける場合もあるんですけど、どうしても細かいニュアンスまで知りたくなるし、再現したくなるんです。“まだあるんじゃないか?”“まだ聴こえるんじゃないか?”って。
― その気持ちは今でも続いていますか?
春畑 続いていますね。ちょうど今、TUBEのツアーでカバーソングをたくさんやるメニューを組んでいるんですけど、そうするとまた“しつこい性格”が出てしまう(笑)。もちろん最終的には“今のTUBEらしいアレンジ”に落とし込むのですが、その前にどうしても完コピを目指しちゃうんですよね。
― TUBEは86年のシングル「シーズン・イン・ザ・サン」でいきなりの大ヒットを記録しました。だからこその壁はありましたか?
春畑 実はデビュー前からすでに壁を感じていました。初めてのレコーディングでは、自分の下手さに驚いてしまって…。プロデューサーが求めていることに応えられないのが、とにかくショックでした。一晩中レコーディングをさせてもらっても納得がいかず、明け方に泣きながら帰ったことも何度もあります(笑)。それまではずっとリードギターに重きを置いていたから、ソロは弾けても歌のバッキングが全然弾けないんですよ。歌を引き立てながら、軽く後ろで鳴っている…なんてフレーズを考えたこともなかったから。
きたのかもしれません
― そんな中、ご自身のプレイスタイルはどのように築き上げていったのですか?
春畑 当時、僕の周りのディレクターやスタッフがみんな優秀なギタリストだったんです。ブルースギターの名手もいれば、カントリーギターがやたら上手い人もいて。彼らが一様に、“こういうギターも弾いてみたら?”みたいな感じで自分のスタイルを押し付けてくるものだから(笑)、それを何でも吸収しているうちに気づけば自分のスタイルになっていたんじゃないかな。そして、それがあったからこそ壁を乗り越えることができたと思っています。自分の好きなハードロックのスタイルだけを追求していたら、絶対に届かない場所までいけたというか。TUBEはいろんなタイプの楽曲がありますからね。
― バンドとしての壁もありましたか?
春畑 やはり大きかったのは「シーズン・イン・ザ・サン」ですね。プロデューサーから、“あの曲を超えるものを作ってこい”と言われ続けたのはなかなかしんどかった(笑)。
― 何をもってして超えたのか、その基準もわかりづらいですしね。
春畑 そうなんですよ(笑)。売り上げという意味ではすでに超えた曲はあったのですが、それでも印象として“まだ超えられていない”というか。それはスタッフだけでなく、自分たちの中にもありました。今はもちろん大好きな曲ですけど、一時期は壁のように常に目の前にそびえ立つ存在になっていましたね。
結局、「シーズン・イン・ザ・サン」を超えられたと思ったのは、曲ではなくバンドそのものがひとつレベルアップしたと実感できた時でした。例えば、ライヴでお客さんとの一体感を得ることができた時、メンバー同士で達成感を味わえた時に、ようやく「シーズン・イン・ザ・サン」の呪縛が解けたというか。だからある意味では、お客さんと一緒に壁を乗り越えてきたのかもしれません。
― 春畑さんはTUBEのデビュー2年後にはすでにソロ活動を始めているんですよね?
春畑 そうなんです。やりたいことを自由にやらせてもらえる場所が、キャリアの早い段階からあったのは自分にとって本当にありがたかったですね。長く活動を続けられている理由のひとつでもあると思っています。歌モノとは違う角度から、リフやソロを考えることができたのは、TUBEでの曲作りにもいい影響を与えました。
― ちなみに、音楽以外のことで壁にぶつかったり、それを乗り越えたりした経験はありますか?
春畑 実は僕、ギタリストのゴルフ仲間が多いんですよ。L’Arc〜en〜CielのKenさんやDIMENSIONの増崎孝司さん、奥田民生さんともよくコースを回っているんですけど、壁にはしょっちゅうぶち当たっています。ギタリストのこだわりって、ゴルフでのこだわりにも反映されていて面白いですよ。“エフェクターに頼りがちなヤツは、すぐゴルフクラブのせいにするよね”なんて冗談を言い合っています(笑)。
― 楽しそうですね(笑)。いろいろな分野に興味を持ち、新しいことにチャレンジしていると、自ずと壁を超えられるということもありますか?
春畑 ありますね。今回、フェンダーの新製品American Ultra Stratocaster HSS Cobra Blueを弾かせてもらったんですけど、触っているだけで新たなアイディアがたくさん湧いてきて。早くも“新しいアルバムを作りたい”という気持ちになったんです。“このギターを弾けば、あのプレイもあのフレーズもきっと即座に弾けそうだ”って。そういう好奇心が、壁や限界を乗り越えていく原動力になるのかも知れないですね。
AMERICAN ULTRA STRATOCASTER® HSS
フェンダーのUSA製ラインナップの新しいフラッグシップとなるUltraシリーズは、卓越したプレイヤー向けのハイエンドスペックを満載しています。ミディアムジャンボフレットを装備した10〜14インチのコンパウンドラジアス指板をフィーチャーした独自Modern Dシェイプネックは、丁寧なエッジのロールオフ加工が施され、ボディとネックヒール部には新たなコンター加工を採用。まるで体の一部に溶け込むような快適な弾き心地を実現しています。
PROFILE
春畑道哉
85年、TUBEのギタリストとして「ベストセラー・サマー」でレコードデビュー。86年、3rdシングル「シーズン・イン・ザ・サン」の大ヒットでバンドとしての地位を確立。87年、TUBEと並行してソロ活動を始め、現在までにシングル3枚とアルバム12枚をリリース。92年、シングル「J’S THEME(Jのテーマ)」が日本初のプロサッカーリーグであるJリーグのオフィシャルテーマソングとなる。93年のJリーグオープニングセレモニーでは国立競技場の約6万人の観衆を前にライブを行った。2002年5月9日、フェンダーと正式にアーティストエンドース契約を締結。日本人のギタリストとしては初めてのシグネイチャーモデルを発売。これまで、Michiya Haruhata Stratocaster、Michiya Haruhata BWL Stratocaster、Michiya Haruhata III Stratocaster Masterbuilt by Jason Smithという3本のシグネイチャーモデルを発表している。ソロデビュー30周年を記念し2016年11月に発売したアルバム「Play the Life」がオリコン週間ランキング9位を獲得し、インストアルバムとして異例のヒットを記録。2019年3月には最新ソロアルバム「Continue」をリリース。
› Website:http://www.sonymusic.co.jp/artist/MichiyaHaruhata
Release Infomation
春畑道哉 New Album
『Continue』
2019年3月6日(水)発売
■ 初回生産限定盤A(CD+Blu-ray+PHOTOBOOK)
AICL-3658~9/¥4,630+税
■ 初回生産限定盤B(CD+DVD+PHOTOBOOK)
品番:AICL-3660~1/¥4,167+税
■ 通常盤(CD)
・品番:AICL-3662/¥2,778円+税
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