Cover Artist | 春畑道哉 -後編-
ますますエレクトリックギターが好きになってきた
TUBEの春畑道哉が、ソロとしてはアルバム「Play the Life」(2016年)以来の音源となる配信シングル【Re:birth】をリリースした。海外ドラマ「リーサル・ウェポン」シーズン2の日本版オリジナルエンディングテーマに採用されたこの曲は、喜怒哀楽のあるドラマのように、場面転換を幾度となく盛り込んだ展開や洗練されたギタープレイが聴き所となっているが、このシングルの曲作りやプレイについて話を聞いた。
― 1月22日に配信シングル【Re:birth】がリリースされましたが、これは海外ドラマ「リーサル・ウェポン」シーズン2の日本版オリジナルエンディングテーマに起用されていますね。どういう形で依頼があったのですか?
春畑道哉(以下:春畑) 「リーサル・ウェポン」のシーズン1が終わって、シーズン2が始まるので、書き下ろしでエンディングテーマを作ってほしいという話をいただいたんです。それで「リーサル・ウェポン」のシーズン1とか映画版も全部見返したんですよ。そうしたら、映画版ではエリック・クラプトンとかデイヴィッド・サンボーンが音楽を手掛けていて、劇中にクラプトンがオケなしでペンタトニックのフレーズを弾いているだけのものが音楽として使われていたりしていて興味深かったですね。
― 具体的には曲調に関してどういったリクエストがあったのですか?
春畑 テーマをいくつかもらいました。スピード感、ポジティヴ、バディ感…真逆の性格の2人の刑事が組んで事件を解決する相棒感ですね。
― 春畑さんはこれまで「Jaguar」など、テーマソングをいくつか手掛けていますが、テーマがあって曲を作るのは好きなほうですか?
春畑 テーマをもらって作るのは好きですね。今回は何話か観て作ろうと思ったんですけど、1話を観たら止まらなくなってノンストップで全部観てしまいました。ツアー近辺で時間がなかったんですけど、睡眠時間を削って観てましたね(笑)。スピード感が凄くて、興奮するシーンから、パッと泣かせるシーンになったり、笑わせるシーンになったり、目まぐるしく変わるんですよ。それを曲の中に詰め込みたいと思いました。
― イントロのリフは、これまでの春畑さんの曲になかったようなヘヴィなサウンドが聴けますが、チューニングはDですか?
春畑 6弦だけD(1音下げ)にしています。大体ドラマは冒頭に凶悪犯罪が起こるので、あれはドロップDだなと思ったんです(笑)。6弦だけDというのは自分ではあまりやったことがなかったんですけど、実際にやってみたらリフがものすごくたくさん出てきて、モバイルフォンに「リフ1」「リフ2」…と10個ぐらい録音しましたね。
― その中から開放弦が入ってスピーディーなリフを選んだわけですね。
春畑 そうですね。やるからにはライヴでもプレイしたいので、全編ドロップDで弾けるようにしました。
― 曲の途中から春畑さんらしい明るい展開になりますが。
春畑 そこがポジティヴなイメージですね。
― その後、スローダウンしたメロウなパートが出てきますね。
春畑 そこは友情とか家族愛とか、ドラマの中でホロっとする場面もあるので、それを入れたいと思いました。ポジティヴなところも友情とかバディ感のところも、ドラマが明るいので、あまり染みったれた感じにはしたくなかったんですよ。ちょっとカラッとなるような、ポジティヴ感のあるメロディーにしました。
― その後、ちょっとヘヴィなパートが出てきますが、これは?
春畑 リフ2の展開なんですけど、ドラムも半分のテンポにして重々しくしています。犯罪的な部分をイメージしています。
― 春畑さんはもともと1曲の中で、いろいろなパートを取り入れた曲作りを得意としていますが、そういった意味では春畑さんらしさが満載された曲になっていますね。
春畑 今回は楽しかったですね。「リーサル・ウェポン」のおかげであのような曲になったと思うんですけど、自分でも気に入っています。1人でテーマなく作っていたら、あそこまでコロコロ展開が変わるような曲にはならなかったですね。
― ギタープレイに関してはいかがですか?
春畑 この曲はフェンダーのAmerican Elite Stratocaster1本でほぼ弾いているんですけど、このギターがどんな曲調でも合うんですよ。
― 手にするギターによって出てくるプレイも変わるわけですか?
春畑 そうですね。ああいう悪そうなリフやポジティヴで速いパッセージ、泣かせるメロディなど、どれにも合うので万能だなと思いました。
― ヴィンテージギターではああいうモダンなリフは出てこないかもしれないですね。
春畑 そうですね。あのリフはキツイかも(笑)。
― ギターのフレーズはメロディアスでありながら、畳み掛けるようなプレイもあったり、緩急が特徴ですね。
春畑 緩急はできるだけつけようと思いました。テクニック的にはタッピングも入っていますし、譜割りが単調にならないように3連なのに2個ずつ音をまとめて弾いていたり、聴いた人が“あれ!?”と思ってくれるようなプレイをちょこちょこ入れています。
― 音作りに関してはいかがですか?
春畑 この1年くらいはフェンダーのBassbreakerを使っているんですけど、シンプルで迫力がある音が出るんですよ。最近はこれ1台でやっています。アンプはクリーンにしていて、ライヴの時もレコーディングの時もイメージの音がすぐに作れる。今までだと、ちょっと明るい音にしたいと思ったら、マイクの位置を変えたり、“これで行こう!”と決めるまでに時間がかかることが多かったんですけど、このアンプにしてからそれが早くなりました。補正するという時間が必要ないというか、もう少し太くするといったことがサッといけるんです。あとはベース、ミドル、トレブル、プレゼンスをその瞬間瞬間に軽く補正する程度です。アンプはまったくドライブさせていなくて、歪みはペダルを使っています。
― 2016年にソロ30周年を記念したアルバム「Play the Life」をリリースしましたが、あの作品をリリースして何か変化はありましたか?
春畑 30周年というのもあったんですけど、自分ができることは全部出し切りたいというのがあったんです。歌ったり、ピアノを弾いたり、いろいろなチャレンジをしたんですけど、あのアルバムでちょっとひと段落した感じはありましたね。でも、また新しくチャレンジしたいことがたくさん出てきているんですよ。ヴァイオリンが面白くて、レコーディングで弾いてみたり、あと今はガットギターが好きで、ベッドの横にずっと置いています。初めてガットギターのために右手の爪を伸ばしたんですけど、ピアノを弾く時、爪が当たってカチカチ音が出ちゃうので、今は全部切ってしまいましたけど…。でも、そうやっていろいろチャレンジして、またエレクトリックギターの面白さがわかって、より好きになるんですよね。
― 「Play the Life」はアコースティックからエレクトリックギターまで、幅広いプレイが聴けるアルバムでしたね。
春畑 ギターインストはいろいろなことができるので、逆に何か自分でテーマを見つけて作らないと散漫になってしまうんですよね。今、アルバムを作っているんですけど、そこは意識していますね。
― テーマとかコンセプトがあったほうがいいと。
春畑 今だったらGarageBandとかで誰でも使えるカッコいいビートが無料で使えるし、そこに合わせてギターを弾けば、誰でも高いクオリティのものがすぐに作れますよね。それをYouTubeとかでアップもできるじゃないですか。でも、その中でもCDや配信の音源を欲しいと思ってもらえる曲や演奏を、どうやったら作れるのかなとずっと探しています。
― そうした中で、春畑さんはフュージョン系のプレイやメタルっぽいプレイも得意としていますが、ご自身としてはどういったスタイルが持ち味だと考えていますか?
春畑 若い時はメタルっぽいというか速さとかトリッキーな演奏を追求していた時期もあったんですよ。高校生の時は“誰よりも速く弾ける!”みたいなのがあったんですけど、最近、得意だと思うのは曲をしっかり作って、いいアレンジをして、曲全体でメロディーをしっかり聴かせることだと思いますね。そのメロディーをどういう形でアレンジして、どういう風にギターで弾けば伝えられやすいのかなと、考えながら曲やフレーズを作っています。
› 後編に続く
春畑道哉
85年、TUBEのギタリストとして「ベストセラー・サマー」でレコードデビュー。86年、3rdシングル「シーズン・イン・ザ・サン」の大ヒットでバンドとしての地位を確立。87年、TUBEと並行してソロ活動を始め、現在までにシングル3枚とアルバム12枚をリリース。92年、シングル「J’S THEME」が日本初のプロサッカーリーグであるJリーグのオフィシャルテーマソングとなる。93年のJリーグオープニングセレモニーでは音楽を担当、国立競技場の約6万人の観衆を前にライブを行った。2002年5月9日、フェンダーと正式にアーティストエンドース契約を締結。日本人のギタリストとしては初めてのシグネイチャーモデルを発売。これまで、Michiya Haruhata Stratocaster、Michiya Haruhata BWL Stratocaster、Michiya Haruhata III Stratocaster Masterbuilt by Jason Smithという3本のシグネイチャーモデルを発表している。ソロデビュー30周年を迎え、2016年11月に発売した最新アルバム「Play the Life」がオリコン週間ランキング9位を獲得し、インストアルバムとして異例のヒットを記録した。
› http://www.sonymusic.co.jp/artist/MichiyaHaruhata