The Rock Freaks Vol.2 | 長岡亮介

ROCK FREAKS VOL.2

アーティストとフェンダーによるケミストリーを写真で切り取るエキシビジョンシリーズ「THE ROCK FREAKS」。第2回目は、3ピースバンド“ペトロールズ”でその魔法のようなギタープレイで観る者を魅了する孤高のギタリスト、長岡亮介が登場。


そこにあるギターを弾いたら、その人の音になるのが理想

若きギターヒーローだ。ただ正直、本人を目の前にしても従来のヒーロー感はない。よく言えば超自然体、ありていに言えば、のんびりとした空気感。しかし、某ギター専門誌の「ニッポンの偉大なギタリスト100」では堂々7位にランクイン。これは若手の中では最高の順位で、ファンだけではなく、専門家たちも彼のことを評価していることがよくわかる。

改めて、男の名前は長岡亮介。現在はペトロールズというバンドを率いてギター&ボーカルを担当している。また、東京事変のギタリストとしても多いに注目されたのをはじめ、星野源、野田洋次郎、大橋トリオなど、レコーディングやライブの現場にひっぱりだこだ。

そんな長岡がギターを始めたきっかけは、中学の授業でクラブの時間があり、そこで“ギター”を選択したことだそう。とは言え、本人の言葉を借りれば「他に面白そうなものがなかったのと、そう言えば家にもギターがあったので」くらいのテンションで、ギタリスト列伝にありがちな“稲妻に打たれた”ような逸話はない。それでもギターを弾き始めたら楽しかったそうで、朝起きるとギターを弾いてから学校に行き、帰宅してからもギターを弾いていたそうだ。やや消極的な理由で始めたギターのどこが長岡少年の心をつかんだのか? 「CDで鳴っていたものが自分の手の中から出る感覚…。イントロが弾けるようになると、それがもう自分のモノになるというか曲と同化できる。それと、受け身じゃなくて、自分から発するような気持ちになれたんですよね」と当時の気持ちを振り返ってくれた。

家にあったのは父親のガットギターだったのだが、これもまたひょんな理由で今や長岡の代名詞にもなっているTelecasterを手にすることに繋がる。「父がブルーグラスミュージックのバンドを組んでいたのもあって、ギターを始めた頃にフェンダーのStratocasterを買ってくれました。それで同級生とロックとかをやっていたんですが、あるとき父がブルーグラスのバンド仲間とカントリーをやることになったんですけど、周囲に誰もエレキを持っていなくて(笑)。 (注:ブルーグラスミュージックは主にアコースティック楽器による演奏が多い。)エレキを弾いてるやつがたまたま身近に…つまり俺がいて(笑)、バンド加入を条件に (笑)、カントリーミュージックの代名詞であるテレキャスを買ってもらったんです」と、愛用のテレキャスとの出会いを教えてくれた。それ以来、テレキャスだけは一線で使い続けている。

ROCK FREAKS VOL.2

Photo by Maciej Kucia (AVGVST)

「最初に弾いたとき、クセは強いし、しかも自分でもかなり改造したんです。僕は別に1本のギターだけを大事にするタイプではないけど、コレでいろいろな奏法を覚えた。父のバンドでカントリーの曲をいっぱいコピーしなきゃいけなかったので。だから構えるとふっと収まるんです」と、テレキャスはまるで身体の一部のように自然に収まっていた。

好きなギタリストにピート・アンダーソンというカントリー畑のギタリストを挙げ、その理由をこう説明してくれた。「とにかくクセが強くて、かわいげがあるお茶目なオッサンみたいなギターを弾くんです。プロデュースもするんですけど、“普通そうする?”みたいなのが多くてカッコいい。つまり、人と違うってことが大事なんでしょうし、音にその人の個性が出てるほうが好きなんですよね」。

そして、自らのギタープレイについてもこう話してくれた。「俺、エフェクターをあまり使わないタイプだから、何を弾くかがより重要で。実際にレコーディングでも同じことは弾かなくて、“こう弾いたらどうなるんだろう?”と奇跡待ちばかりしてるんですよ。そこにあるギターを弾いたら、その人の音になるのが一番理想だなと思っていますね。だから、あまりエフェクターのほうにいかないんです。録音の時にアンプのツマミにさえ触らないときがありますから(笑)」。

そんな長岡から、ギターを手にしたことがない人にメッセージをもらった。「携帯でも音楽は作れるけど、ギターって触らないとわからないものなんです。触ったときに初めて得る感覚があるから、ちょっとでも触ってみたいと思ったら触ったほうがいい。ギターのような音がするアプリケーションもあるけど、実物に触れるってことは一歩外に出ることなので」。

決して雄弁ではないが、ギターのことになると話は尽きない。インタビューの締めに「ギターをやってて良かったなと思うときはあります?」という質問をぶつけてみた。「いい質問ですね」と言ったあと、しばらく考えて「スミマセン、思い浮かびません」とあまりも正直な答えを返しさらに頭を下げた。その人間臭いありのままの答えが、長岡がつま弾くテレキャスの音とどこか重なった気がした。


長岡亮介
1978年生まれ 神出鬼没の音楽家。ギタリストとしての活動の他に楽曲提供、プロデュースなど活動は多岐にわたる。 「ペトロールズ」の歌とギター担当。
› PETROLZ:http://www.petrolz.jp/

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