Interview | Char -前編-
Mustangの不完全な感じは、青かった頃の気持ちを思い起こさせてくれる
楽器との出会いが、新しい音楽を生む。これまで世界中のミュージシャンが証明してきた事実だ。日本トップクラスのギタリスト、CharもまたフェンダーのMustangとの運命的な出会いによって、名曲「Smoky」を生み出した。今回、フェンダーとCharがコラボレーションして開発された新たな“Char Mustang”の発売を記念して、前半のインタビューでは彼にMustangの魅力についてたっぷりと語ってもらった。40年以上連れ添った気心が知れた相棒への愛情が、Charの言葉には溢れていた。
俺の体にもぴったり合うわけ
もう“これだ!”って
― 初めて手に入れたフェンダー製のギターはStratocasterでしたね。なぜStratocasterを選んだのでしょうか?
Char たまたま友達が海外から持ってきていて、それを売りたいってことでね。すごくリーズナブルな価格だったから。その頃は、特別Stratocasterに興味があったわけじゃないけど、このくらいの値段だったら買えるなって。フェンダーを手に入れる願ってもないチャンスだったから。
― フェンダーに対する憧れは?
Char 小学校の頃、シャドウズとかベンチャーズが使っていたから憧れはあったよ。銀座の楽器屋のショーウィンドウに飾られていたフェンダーのギターをよく見に行っていたし。ただ60年代後半に入ってくると、他社のギターを手にするギタリストも多かったから、そこからも影響されたね。
― 初めて手に入れたフェンダーはいかがでしたか?
Char それまで手にしていた国産のギターとは、もうまったく違うなって。それにフェンダーを手に入れるまでは、国産でも別メーカーのタイプが多かったから。そういう意味でも新鮮だったよね。
― Stratocasterはかなりアルバイトをして買ったんですよね。
Char そう。手に入れたのは18〜19歳の頃かな。その時には、スタジオでレコーディングを手伝ったりしていたから、このStratocasterのアームを使って面白いこともやっていて。だから、録音したものはけっこう残っているはず。
― アームに目覚めたのもStratocasterからですね。
Char 中3か高校1年の時に、ウッドストックの映画でジミ・ヘンドリックスの演奏を見て。当時は映像コンテンツってすごく少なくて、アームも含めたStratocasterを使った演奏と音に衝撃を受けたね。音楽だけじゃない、いろんなことをイメージして表現しているって、子供心に感じたよ。その3年後くらいにストラトを手に入れたから、やっぱり(アームを)グイングインやりたくなっちゃう(笑)。
― そのStratocasterを盗まれてしまったという衝撃たるや…。
Char もうトンデモない(笑)。最初に手に入れたフェンダーだったし。それでMustangと出会うんだけど。でも、もし盗まれていなかったらMustangを弾いていることはなかったかも。
― たしかに。極論すれば、名曲「Smoky」も生まれていなかったわけですね。
Char 本当だよ。
― Mustangと出会った経緯を教えていただけますか?
Char Stratocasterが盗まれた後すぐに、友人から話があって。アメリカに帰国する家族の兄貴が、ガレージセールでギターを売りたいって言っているって。で、“何?”って聞いたらフェンダーのMustangだった。もうフェンダーだったら何でもいいやって。それにすごく安かった(笑)。
― 当時、Mustangは知っていましたか?
Char もちろん。銀座の山野楽器のショーウィンドウに、メタリックブルーのストライプが入ったMustangが飾られていて。それを見て、ストライプがギターに入っていることがカッコいいって思っていたから。それに当時、ギター以外にスロットカーにもハマっていて。たぶん、他の子供たちもハマったと思うけど、それでフォードのマスタングも知っていたから、Mustangっていうギターの名前を見た時に、“すごく速そうなギターだな“って(笑)。それからストラトやテレキャスに比べたら、新品の値段が安かった。だから子供心に、ストラトはお年玉を200年貯めれば買えるけど、Mustangだったら180年くらい貯めれば買えるかなって(笑)。たしかストラトが20万円くらいだったと思ったけど、子供にとっては、絶対に買えない楽器だと思っていたからね。
― Mustangにはアームも付いていますからね。
Char それは大きいね。もし売ってくれた人が持っている楽器が他社のものだったら、要らないって言っていたかも。まぁ…それはないか。それくらいアームが付いていることが良かったんだよ。見ていた頃からMustangを触ってみたくて。有名なギタリストが使っているわけではないのも良くて。それでMustangを手にして鏡を見たら、ショートスケールだから俺の体にもぴったり合うわけ。もう“これだ!”って。楽器なんてそういう物だし。
― Mustangを手にしていかがでしたか?
Char 単純に嬉しかったね。ストラトとは音色も違うしタッチも異なるし。そういう違いを楽しんでいたよ。
― ただ、サステインが短かったり、やや出力が弱かったりといった弱点もありますよね。
Char 俺はスペックオタクじゃないし、もともとは兄貴のお古でギターを練習していたから、あまり気にはならなかったんだよね。とりあえずフェンダーってロゴが入っているし、音も出るから。あとはアンプとの相性と音作りさえちゃんとしていれば問題ない。
― そういうことを考えなかったのも良かったんですね。
Char そうかも。よくチューニングが狂うなって思っていたけどね。それも“しょうがねぇなぁ”って(笑)。ただ、ピックアップのスイッチで、音がなくなるポジションがあるでしょ。それが何で必要なのかなって思ってはいたけど。今だに何年かに一度は、オフにしちゃって音が出なくなって焦るね(笑)。
簡単に乗りこなせないからこそ面白い
― デビューしてからもMustangを使い続けた理由は?
Char 単純にそれしか持っていなかったから。それにアームがストラトよりも使いやすかった。たぶんストラトを使っていた時には、裏のバネをすべて付けっぱなしで使っていたから重くて。それがMustangだと、もっと自由に動いてくれて、新しいアームの奏法を自分で発見できるような充実感があったよね。まさに「Smoky」の真ん中くらいで出てくるアーミングは、Mustangのユニットじゃないと、あそこまで瞬間的にシュッと落ちない。Mustangのアームだからこそできる奏法なんだよ。
― たしかに。「Smoky」はMustangを手にしなければ、できなかった名曲ですからね。
Char そう。特にあのマイナー9thのコード。まだストラトの感覚で弾いていた頃で、ストラトよりもフレットの幅が狭いでしょ。で、9thだと思って弾いたコードの人差指が、1フレットぶん自然とずれちゃっていて、マイナー9thになっちゃっていたんだよね。それで、“あれ、このコードいい響きじゃん”って。これが「Smoky」の始まりで、これがなければできていなかったから。ストラトでマイナー9thを弾こうと思っても、フレットの幅が広いからかなりコードフォームがつらい。それがMustangだといい具合で弾けて。Mustangって俺からすると、ぴったりと体型に合った洋服を着たようなもん。
― ファンキーなカッティングも弾きやすかったのでしょうか?
Char 弾きやすかったね。要するにストラトとは鳴り方が違うから、自然と弾く場所も変わってくる。例えばストラトとかテレキャスでカッティングする場合は、1〜3弦を中心にチャカチャカするんだよ。でもMustangでそれをやろうとすると、テンションが柔らか過ぎる。だから、3〜5弦をメインに自然とコードをカッティングするようになって。逆にストラトだとそこは重いかな。
― まさにMustangとの出会いは運命ですね。
Char そうだね。「Smoky」は、Mustangで生まれた曲だから。それに当時の曲は、ピアノかMustangで作っているから。特に1stアルバム「Char」は、ほとんどMustangで書いていて、その後にあの雰囲気を出すには、Mustangを弾き続けるしかなくて、今に至っているわけで(笑)。
― 今では代名詞ですからね。長年使い続けることで、Mustangのクセにも精通していきましたか?
Char そうだね。Mustangってクセというか、弱点があるから面白い。そこをカットしてしまったら、テレキャスとか他のモデルには勝てないんだよ。音のバランスとか、音色とか、たまに俺もテレキャスを弾くけど、本当に良くできた楽器だと思うし。
― ある意味、Mustangのウィークポイントを個性に変えていくという点でも惹かれたのでしょうか?
Char どうだろうね。デビューした時のバンド(SMOKY MEDICINE/※メジャーデビューはしていない)には、佐藤準というキーボードがいて、新しい音楽を模索していた時期だったけど、しょっちゅう“チューニングが狂ってる”って指摘されていたから(笑)。調整することで、ある程度は狂いを少なくすることを知ったけど、それでも激しくアーミングした後とかは狂って。でもそこで、狂ったチューニングを直したらダメ。アームのバネや弦の伸縮の問題だったりするから、アームを少しだけ“トン”って叩いてやることで少しは戻ってくれるのがMustangにはあって、そうやって直す。個体差はあるけど、大体どのMustangでもこれでチューニングが戻ってくれる。そういうことは、Mustangを40年近く弾いているからわかっていて。Mustangって言っちゃえば“じゃじゃ馬”っていうか、簡単に乗りこなせない。だからこそ面白い。ただ、これだけ弾いているから、もうどんなMustangが来ても乗りこなせるよ。Mustangは、俺に任せてよって。
― たしか「Smoky」では、両方のピックアップをオンで弾いていたと思いますが、Mustangを使う時は基本的にそのセッティングですか?
Char Mustangっていろいろとできるけど、いろいろすると音が痩せていっちゃう。フェイズアウトもできるらしいけど、それを感じたことはあんまりないかな(笑)。曲によっては、カリカリの音がほしいこともあるから、あえてそういう音を鳴らすこともあって、それも面白いなって思っているけど。
― CharさんがMustangを長年使い続ける理由を教えていただけますか?
Char まずは過去のレコードの音を再現するためだよね。Mustangで作った曲は、できる限りその楽器で演奏したほうがいい。もちろん、そうじゃない時もあるけど。曲って、ギターに作らされているわけで、俺が作っているわけじゃないから。やっぱり作った時に使ったギターで再現するほうが、良かったりするわけで。Stratocasterを持った時、Mustangを持った時、他のギターを持った時にできる曲は違っているんだよ。ギターの鳴る場所が異なっているから。それにMustangって、苦労して弾くのが楽しいんだよ。
― 最後にMustangの魅力を教えていただけますか?
Char なんだろうねぇ…。あ、軽いよ(笑)。それにけっこう投げているけど、まず壊れない。オリジナルのMustangってビギナー用だけど、本当は難しい楽器。難しいっていうか、チューニングの狂いを少なくする調整もシビアだし。だから俺のせいでMustangを買った人は、みんな困っちゃったんじゃないかな(笑)。俺の場合は、チューニングが狂ってナンボっていうところもあるけど。それにMustangは、世界のプロが誰も使っていなかったから。それも選んで正解だったなって思っているよ。そのおかげで、FENDER CUSTOM SHOPでシグネイチャーのムスタング(Free Spirits & Pinkloud)も作ってもらえたし。それからMustangを持って演奏すると、ティーンエイジャーに戻れる感覚があるんだよ。Mustangの不完全な感じは、たぶん男の子でも女の子でも、そういう青かった頃の気持ちを思い起こさせてくれると思うよ。
CHAR MUSTANG®
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PROFILE
Char
本名・竹中尚人(たけなか ひさと)。10代からバックギタリストのキャリアを重ね、76年にシングル「Navy Blue」でデビュー。ソロと平行してJohnny, Louis & Char、Phychedelix、BAHOなどのバンド活動も積極的に行い、2009年にインディペンデントレーベル「ZICCA RECORDS」を設立し、2017年にWebメディアOfficial ”Fun”club「ZICCA ICCA」を開設。ギターマガジン主催の「ニッポンの偉大なギタリスト100」でグランプリに選出されるなど、日本を代表するプレイヤーのひとり。
› Website:https://www.zicca.net