Inside the Made in Japan Heritage | Vintage Tones
「伝統と、終わりなき探求 」1982年に始まった日本製フェンダーは、2020年に「MADE IN JAPAN HERITAGE」シリーズとして新たに生まれ変わりました。MADE IN JAPAN HERITAGEは、70年以上前から続いているフェンダーの歴史に沿って年代別に正確なスペックとルックス、そしてサウンドを再現した、新たな”日本製フェンダー”の扉を開くシリーズです。その特徴の中核を担う「Vintage Tones（ヴィンテージトーン）」「Traditional Looks（伝統的なルックス）」「Authentic Specs（本格的なスペック）」について、ヴィンテージ楽器に造詣が深く、このシリーズの開発監修を務めた、フェンダー製造技術部門ディレクターのマーク・ケンドリックとのインタビューを交えながら、それぞれのポイントについて掘り下げてご紹介します。
第1回目は、世界中のプレイヤーを魅了してきた、あの”フェンダートーン”を実現するための取り組みをご紹介。MADE IN JAPAN HERITAGEシリーズは、ピックアップを構成するマグネットの材料やコイルの巻き数、さらには理想的なトーンを得るために設定されたマグネットの高さなどを年代ごとに分析した過去の系譜を多く取り込んでいます。
MADE IN JAPAN HERITAGEシリーズに搭載されているピックアップにはヴィンテージフェンダーのエッセンスが取り込まれています。実際マーク・ケンドリックが所有していたヴィンテージ機のピックアップを参照しながら選定されています。フェンダーの歴史を辿ると、レオ・フェンダーは時代に沿って、マグネットの高さや材料、コイルの巻き数など、細かく仕様を変えています。それはその時代における安定的な供給と、合理的な生産費用の面から行われていました。MADE IN JAPAN HERITAGEのピックアップの高さも、年代の仕様に合わせてキャリブレーションが行われています。当時のピックアップと完全に一致した素材ではないものの、過去の系譜を多く取り込むことで確実にフェンダーのDNAを継承したサウンドを実現しています。
「私は長くこの仕事をしており、今まで多くのヴィンテージギターに触れてきました。過去に分析したピックアップの仕様もアーカイブとして多く持っています。年代ごとに分けられているHERITAGEシリーズのサウンドを決めていく上で、これらの仕様を参照しました。今回のピックアップはとても満足できる音質に仕上げられたと感じています」とマークは語ります。
ピックアップの高さにもかなりこだわったと言うマーク。高ゲインを得るためにコイルと弦の距離を縮める傾向にある現代のセッティングに比べ、マークはレオ・フェンダーが目指した理想的なトーンを目指しました。
「HERITAGEシリーズのピックアップの高さ設定については、弦からなるべく離すよう監修しました。現代においてはゲインを得るためにコイルと弦を近づけたりしますが、私にとって、それはゲインというよりディストーションです。レオ・フェンダーはギターを製作していく過程で、極力ディストーションを省いていくことに時間を割いていました。そのような中、ロックンロールミュージックが台頭してきたのに伴い、ディストーションサウンドが生まれたのです」
「HERITAGEシリーズを製作していく上で、私はレオ・フェンダーが理想としたトーンに立ち返り、バランスの良いセットアップを目指しました。搭載されているピックアップ同士で片方の音が飛びぬけて大きいということはありません。昨今のピックアップはポジションによって巻き数に差があったりしますが、HERITAGEシリーズでは全て同じ巻き数です。ですから音質のバランスはピックアップの高さで細かく調整を行なっています。Stratocasterの場合、ネックピックアップはこの高さ、ミドルピックアップは別の高さ、ブリッジピックアップはまた別の高さ、というようにポジション毎に適切な高さを探り、細かく調整し、最適なバランスを目指したのです」
「よく見ると、現在販売されている多くのギターやベースに比べ、HERITAGEシリーズのピックアップは低く設定されていることに気付くでしょう。弦から離すことで弦の自然な振動を妨げず、音程も安定し、歪みのないピュアな鳴りが得られるのです。もし購入された方がもっとゲインあるいはディストーションを求めるなら、ピックアップの高さを上げてみてください」
このように、HERITAGEシリーズが奏でるトーンにも、レオ・フェンダーの意思が受け継がれているのです。次回はHERITAGEシリーズの伝統的なルックスに秘められたこだわりにフォーカスします。
MADE IN JAPAN HERITAGE
MADE IN JAPAN HERITAGE は、フェンダーの⻑い歴史の中で日本製が生まれた意味と、本来あるべき姿を見つめ直すことで導かれた MADE IN JAPAN FENDERの真骨頂となるシリーズです。年代別に正確なスペックとルックスを再現した STRATOCATSER®、TELECASTER®、TELECASTER® CUSTOM、TELECASTER® THINLINE、JAZZMASTER®、PRECISION BASS®、JAZZ BASS®で構成される11モデル、15製品をラインナップしています。
マーク・ケンドリック
フェンダーの最高峰製品ラインを製作するFender Custom Shopにおいてエリック・クラプトン、キース・リチャーズなど、数多くのアーティストモデルを手がけたマスタービルダー時代を経て、現在は世界のすべての工場で製作されるフェンダーギターの品質維持および向上を担当しているフェンダー製造技術部門ディレクター。
