Cover Artist | 草刈愛美(サカナクション) -後編-
自分にできることを一つずつ積み重ねていった、そんな一年だったと思います
エレキベースとシンセベースを巧みに操りながら、先鋭的なサカナクションの音楽を強固に支える草刈愛美がCover Artistに登場。インタビュー後編では、今回試奏してもらったAmerican Vintage IIシリーズのインプレッション、9月6日にリリースされるRemix & Rearrange Album『懐かしい月は新しい月 Vol. 2~Rearrange & Remix works~』のこと、そして休養期間中の心境などを聞いた。
American Vintage IIに出会って、また曲を作りたくなりそうです
──さて、今回はAmerican Vintage IIシリーズから二本を試奏していただきました。まずはAmerican Vintage II 1966 Jazz Bass®︎の印象を教えてください。
草刈愛美(以下:草刈) すごくキレイに音が出ます。というのも、今自分が使っているジャズベが77年製なんです。ちょうど今リペアに出しているから、きっといい状態で戻ってくると思うんですけど、やっぱりちょっとポジションによって音が膨らんだり、音の立ち上がりも鈍ってきたところがありました。American Vintage II 1966 Jazz Bassはすごくスピード感があるし、全部の音が安定しています。以前、手に入れたAmerican Professional II Jazz Bassはすごくフレッシュで若々しい音がして良かったのですが、こちらは落ち着きがあるけれど音の立ち上がりが良いです。
──もう一本のAmerican Vintage II 1954 Precision Bass®︎はどうでしたか?
草刈 これは自分が持っている楽器では出せない音が出る楽器ですね。自分が持っているプレベも、ジャズベとは違って個性があるものだけど、American Vintage II 1954 Precision Bassは個性がすごくて魅力的です。
──インタビューの前編で竿の個体の音を尊重するとおっしゃっていたので、この1本が増えると…。
草刈 新しく出せる音が増えるのと、数曲増えますね(笑)。過去の曲でも“これとこの曲に使えるかな?”というイメージはすでにあります。
──新しい楽器を手にするのも、また違うインスピレーションになりますよね?
草刈 そうですね。9月6日にリリースされるRemix & Rearrange Album『懐かしい月は新しい月 Vol. 2~Rearrange & Remix works~』でリアレンジを作り始めた時も、お借りしていたシンセ一台を使って、プリセット一個ずつで一曲作るみたいなことをやったんです。今回、American Vintage IIに出会ってまた曲を作りたくなりそうです。以前、プレベを買った時に54年製のヴィンテージを弾いたのですが、いいけど心配って(笑)。でも、American Vintage IIは新しい楽器だから心配ないですよね。
──ぜひライヴでも使用していただきたいです。さて、そんな『懐かしい月は新しい月 Vol. 2~Rearrange & Remix works~』ですが選曲のポイントを教えてください。
草刈 リミックスは基本的にリミックスをお願いした方にお任せだったかな。リアレンジに関しては、そもそも企画の発端がコロナ禍になり始めの頃、“リアレンジの曲を作るとしたらどれがいい?”とファンにアンケートを取って。今回新たにリアレンジしたものに関しては、もちろんアンケート上位は優先的にやろうという気持ちはありましたけど、基本的にメンバーが“この曲なら”と思いついた曲をアレンジしていきました。今回は“タイアップがあるからこうしなきゃいけない”とか“ライヴで映える曲調にしなきゃいけない”という縛りがありませんでした。もちろん、(山口)一郎君のライヴで鳴るのをイメージして作った曲もあれば、コロナ禍の初期に作った曲もあるから、その時々でいろいろな感情がありますが、比較的自由にやりたい曲調でできた気がします。
今はすごくライヴをしたい気持ちなんです
──山口一郎さんが休養を発表されてから一年が経ちました。バンドでの活動が止まった一年での変化、新たな野望やモチベーションについて教えてください。
草刈 一年で動きがいつも通りじゃなくなりはじめてから、それこそ2022年10月に〈UNDERWORLD × SAKANACTION〉があるくらいまでは、メンバーの中でも“どうなっちゃうんだろう?”とまったく状況がわかりませんでした。きっとこの状況は長く続くんだろうなという想いは漠然とあったから。その中で何をすべきか、私も含め全員がストラグル(努力)した時期があったような気がします。私はひたすら曲をアレンジするホリックだったし、ドラムの江島はファンクラブの皆さんとコミュニケーションを取るために頑張っていたし、全員が“何とか自分は倒れないようにしなきゃ”という気持ちにパワーを使っていました。心が折れないようにしないと、いざ“さぁみんなで行こう”という時に行けなくなっちゃうから。その中で自分にできることを一つずつ積み重ねていった、そんな一年だったと思います。
──基礎体力や精神力の維持?
草刈 そうですね。それを維持するので精一杯だったかもしれません。リアレンジの企画やアンダーワールドとのライヴがあったおかげで曲を作り続けることができたので、あとは表に出て演奏するまでの準備をしないといけないですね。でも、今はすごくライヴをしたい気持ちなんです。〈FUJI ROCK FESTIVAL ’23〉を見に行ったのですが、ステージを見ながら“いいなぁ!あっちに行きたいなぁ!”って空のステージの写真を撮りながら思いました(笑)。またイチからやり直す気持ちです。
──ライヴから離れているわけで、音楽的なクリエイティビティをどうキープしていたのでしょうか?
草刈 一度、立ち行かなくなった時は創作できなくなりました。何かを思いついて形にしても、これがいいのかわからないという状況で。バンドのために考えていたことが止まって、自分から出てくる音楽も止まっちゃうことがあったので、本当にまずい!と思って外に出るようにしました。コロナ禍で外に出ない状況も続いていたので、人に会ったり、ライヴに行ったり、違う芸術に触れたり、違う場所に行ってみたり、できる範囲で刺激をインプットしました。人に会うと、その人が熱中していることとかストーリーとか、もらえるインスピレーションがたくさんあるんです。一人に会ったら一曲できる、そういう体験が感触としてあったのは面白い時間でしたね。
──着実に再始動に向けて動き出していますね。最後に、ビギナーに向けてメッセージをお願いします。
草刈 コロナ禍が落ち着いてきて、いろいろな楽器と合わせていい頃だと思うんです。ベースは音階もリズムも出せるし、他の楽器と一緒になった時にすごく魅力が出るんですよね。もちろん一人でテクニックを磨き上げるのも楽しいけれど、合奏の中でベースの可能性を発見していくのはもっと楽しいので、ぜひ合奏を楽しんでください。
American Vintage II 1954 Precision Bass
>> 前編はこちら
草刈愛美(サカナクション)
サカナクションのベーシストとして、2007年にメジャーデビュー。16年に渡る活動の中で7枚のオリジナルアルバムを発表し、全国ツアーは常にチケットソールドアウト。大型野外フェスではヘッドライナー常連。現在の音楽シーンを代表するロックバンドの一組である。また第39回日本アカデミー賞にて最優秀音楽賞をロックバンド初受賞するなど、さまざまな活動で多方面から高い評価を得ている。ベースプレイヤーとしてもBASS MAGAZINEの表紙に2度選ばれ、プレイヤーとしての評価は高い。シンセベースとエレキベースを巧みに使い分けたグルーヴィなプレイが持ち味。緑色が好き。2023年9月6日にリアレンジ&リミックスアルバム『懐かしい月は新しい月 Vol. 2 ~Rearrange & Remix works~』がリリースされる。
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