Special Interview | 春畑道哉(TUBE)
フェンダー史上初のデジタルサウンドプロセッサーTone Master® Pro。100種類以上のアンプとエフェクトのサウンドを完璧に再現しているこの製品は、発売以来、大反響を呼び続けている。春畑道哉(TUBE)も、愛用しているギタリストの1人だ。お気に入りのポイントについて語ってもらった。
研究してきたことがTone Master Proの中で素早くできる
──先ほどアンプにつないで鳴らしていらっしゃいましたが、良い音でしたね。
春畑道哉(以下:春畑) そうなんです。いつもびっくりします。
──Tone Master Proを最初に試したのはいつでしたか?
春畑 ギターのリペアでフェンダーさんに行った時に“最近、こんなのがあるんですよ”と見せていただいたのがTone Master Proでした。僕は機械に疎いんですけど、これは感覚的に使える印象がしました。スピーカー、アンプヘッド、エフェクターの絵がスクリーンに表示されて、押せばすぐにつなげられたので、これは僕みたいな機械音痴にも最高だなと思って(笑)。実際に音を出したら“これは面白いぞ!”とハマっちゃいました。今までもアンプシミュレーターをいくつか試したことはあったんですけど、“なるほどねぇ”ってなるくらいで、いつも使っているアンプに戻っていたんです。でも、Tone Master Proは直感的に触れるのが魅力ですね。ノブで操作する感じも含めて、とてもわかりやすいです。実際にアンプやエフェクターを触って調整する感覚で使えるんです。
──数値を見ながらの操作が中心の機材の場合は、感覚的に使うのがなかなか難しいですよね。
春畑 そうなんです。“パラメーターを○○%に”だとなかなかイメージが湧きにくいですが、その点Tone Master Proはすごく簡単です。画面も見やすいです。
──タッチパネルの操作で機材の配列を変えたり接続できるのも、実機をセッティングする感覚にかなり近いと思います。
春畑 そうですね。ゲーム的にいろいろ試せて楽しいです。“その組み合わせはないだろ”みたいな普通だったらやらないようなことも気軽に試せます。僕は今までスタジオで4発入りのスピーカーを使ってきて、エドワード・ヴァン・ヘイレンの真似をして“57(SHURE SM57)をここに立てると、こういう音がする”みたいなことをずっとやっていたんです。スピーカーのコーンに対するマイクの角度、距離、狙い方によって音は変わるんですよね。研究してきたことがTone Master Proの中で素早くできています。
──エドワード・ヴァン・ヘイレンと言えば、Tone Master Proの中にEVH 5150 IIIも入っています。
春畑 それも嬉しいです。もちろんフェンダーのアンプも全部使えますし、その他の真空管アンプも入っていますからね。僕はまだ試していないんですけど、エフェクター類もアップデートされて増やしていけるのでそれも楽しみです。
──Tone Master Proの現時点での使い方は、どのような感じですか?
春畑 レコーディングスタジオで使ったことがあります。実際にスピーカーで鳴らしてマイクで拾った音と、これを使った音を同じ曲で録ってみたりしました。エンジニアに“これはどっちの音でしょう?”と聞いたら、“うーん…どっちでしょうね?”って考え込んでいましたね(笑)。まだライヴでは使っていないんですけど、使うのが楽しみです。11月23日にビルボードライブ東京で開催される〈~Stratocaster 70th Anniversary~ The Strat Night 2024 Presented by Fender × Billboard Live TOKYO〉でも使いますよ。初めて使うのは、その前のTUBEのファンミーティングになると思います。“足元、随分とすっきりしてるなあ”って気づくお客さんもいるかもしれないですね。
──普段のライヴでは足元にたくさん並べていますよね。
春畑 そうなんです。前田(亘輝)にも“邪魔だなあ(笑)”ってよく言われるんです。Tone Master Proは、自分が好きなエフェクターをループさせて使うこともできるんですよね?
──はい。ループに関しては4系統です。
春畑 それも試していきたいです。イヤモニで音を聴くことも多いんですけど、フェンダーのTone Masterのスピーカー(Tone Master FR-12)とか、癖のないさまざまな出力でも試しています。毎日触っていますね。その日によって感覚は変わるから、“昨日はハイを上げ過ぎたな”とか調整し続けています。いろいろ試しながら、自分が使っているボードに近い音になってきました。
──どのようなセッティングにしていますか?
春畑 リードの時は真空管アンプのBritish。歪みはBlues Makerで、空間系はLarge Hall Reverbとデジタルディレイ(Digital Delay Mono)です。メロディやソロを弾く時は大体これですね。カッティングのアンプはフェンダーの’65 Twin Reverb(プリセット上はPrinceton Reverb Amp)。コンプレッサー(Pedal Comp)とデジタルディレイ(Large Plate Reverb)をつないでいます。ハイラム・ブロックみたいな音がして面白いですよ。カッティングというよりは、クリーンでメロディを太く弾けるセッティングですね。クリーンのアルペジオはReverb Amp、コンプレッサー(Pedal Comp)、コーラス(Triple-Double Chorus)、デジタルディレイ(Digital Delay Mono)です。この3つを保存しているページは、とりあえずどんな曲でもすぐに弾けるセッティングです。その他の変わったエフェクターの音や、特殊な曲用のセッティングは別のページにしています。
──エクスプレッションペダルという追加で機能を足せるペダルがあるので、それを使うとワウ、ボリュームペダル、ワーミーも使えますよ。
春畑 おおっ! それ、楽しみですね。
──これ1台でできることを実機で集めるとなると、かなり大変だと思います。
春畑 金額がすごいことになるでしょうね。あと、広い倉庫も必要です。
──どのようなギタリストにTone Master Proをオススメしたいですか?
春畑 こういう機材は若い人が使いこなしているイメージがあったんですけど、僕みたいな機械音痴も簡単に使いこなせるので、ベテランギタリストにもオススメしたいです。音質も良いですからね。家で曲を作っている人にも便利だと思います。省スペースでハイクオリティな音が出せるし、ライヴでも使えるので、全方向のギタリストにオススメできます。僕はデジタル機材に関してはいつもギターテックに任せていたんですけど、これと出会ってからは自分で触り始めています。ミキサーも普段は自分では触らないんですけど、Tone Master ProのEQを触ってみたりもしていますね。
──今後様々な機能が拡充されていくみたいです。ユーザー間でセッティングの共有や、プロギタリストのセッティングのプリセットデータベースにもアクセスできたりだとか。
春畑 “あの曲で弾いたセッティングはこうですよ”とか、細かく見せられるのはすごいことですよね。
──つまり、プロのレシピで音を出すことも可能だと。
春畑 まだリリースしていない曲なんですけど、TUBEのレコーディングでTone Master Proを使ったんです。そういうセッティングも、いつかデータベースとしてお届けできるかもしれないですね。さまざまなアップデートによって幅が広がって、操作性も上がっていくと思うので、さらに面白くなっていきそうです。
──スマートフォンなどに接続すれば遠隔操作もできるんです。直接、Tone Master Proを触らずに、手元で操作できるのは自宅でのDTMでも便利です。
春畑 スタッフに外音を聴いてもらって、その場で調整してもらうこともできますね。それはすごく便利だと思う。早くライヴでも使ってみたいですね。“シミュレーションはダメ”って実際に音を聴く前から思っているミュージシャンはたくさんいるけど、そういう人たちが驚くような音を聴かせたいです。
春畑道哉
1985年、TUBEのギタリストとして「ベストセラー・サマー」でメジャーデビュー。1986年、3rdシングル「シーズン・イン・ザ・サン」の大ヒットでバンドとしての地位を確立。1987年、TUBEと並行してソロ活動を始め、現在までにシングル5枚(配信限定曲含む)とアルバム13枚をリリース。1992年、シングル「J’S THEME(Jのテーマ)」が日本初のプロサッカーリーグであるJリーグのオフィシャルテーマソングとなる。1993年のJリーグオープニングセレモニーでは国立競技場の約6万人の観衆を前にライブを行った。2002年5月9日、フェンダーと正式にアーティストエンドース契約を締結。日本人のギタリストとしては初めてのシグネイチャーモデルを発売。これまで、Michiya Haruhata Stratocaster®︎、Michiya Haruhata BWL Stratocaster®︎、Michiya Haruhata Stratocaster® III、そしてマスタービルダー、ジェイソン・スミスの師匠であるジョン・イングリッシュが生前製作したMichiya Haruhata Stratocaster IIIプロトタイプの復刻モデル、さらに2022年にはMichiya Haruhata Stratocaster® Heavy Relic® by Jason Smithを発表している。2019年3月リリースのソロアルバム『Continue』は、第34回 日本ゴールドディスク大賞 “インストゥルメンタル・アルバム・オブ・ザ・イヤー“を受賞。2022年4月、ソロデビュー35周年アルバム『SPRING HAS COME』をリリース。2025年1月から、3年ぶりとなる全国ツアー〈MICHIYA HARUHATA LIVE AROUND 2025 It’s Now or Never〉を開催。
http://www.sonymusic.co.jp/artist/MichiyaHaruhata