デヴィッド・ブラウン「ハンドステインのデモンストレーション」 | Fender Experience 2025

ジャンルや世代を超えた注目アーティストによるライヴ、名器たちとの出会い、音楽と触れ合うワークショップ。音楽、クリエイティビティ、そして人とのつながりが交錯する体験型イベント〈FENDER EXPERIENCE 2025〉が、10月11日(土)〜13日(月・祝)の3日間にわたり原宿・表参道エリアの3会場にて開催された。ここでは、12日ラフォーレミュージアム原宿にて行われた、Fender Custom Shopのマスタービルダー、デヴィッド・ブラウンによる「ハンドステインのデモンストレーション」の模様をお届けする。


伝統を手でつなぐ。フェンダーを支える匠たちの美学

フェンダーギターの魅力は、木目を美しく浮き立たせたトラ目など、素材の個性を最大限に引き出すカラーリング技術もその一つ。ここでは、Fender Custom Shopのマスタービルダーであるデヴィッド・ブラウンが登壇し、ギターの仕上がりを大きく左右する重要な工程である木材への“ハンドステイン工程(木材への生地着色)”を実演。またステージ後半には、工場生産とは異なる個性的な音色で数多くの名器を手がけた、伝説的ピックアップ職人アビゲイル・イバラの一番弟子である、ホセフィーナ・カンポスによる“ワイヤー手巻き術”の実演も行われた。

デヴィッド・ブラウンは、ニューモデルの開発やさまざまなアーティストモデルの製作に携わり、ハリウッド俳優でありロックバンドDogstarのベーシストとしても活動する、キアヌ・リーブスのPrecision Bassの製作も手がけたという。

まずは実際に自身が製作したギターの写真や、このイベント用にUSから持ってきた木材を見せながら、塗装について解説。最初に濃い色を塗ってサンディングを施し、そこにまた薄い色を塗っていくことで、色に美しいグラデーションと深みを与える。塗る回数や濃さは材質などで変わり、塗料は木工用の粉末を水やアルコールで溶かしたものだそう。水は蒸発するまで時間がかかるため、濡れている状態で濃淡をアジャストできることがメリットだという。塗料の配分について聞かれると、「長年の経験から大体でやっている」とユーモアたっぷりに返したデヴィッド。「これから魔法を見せるからね」と言うと、会場からは拍手と歓声が上がった。

白地に鮮やかなブルーのサンバーストのハンドステインの実演が始まると、会場に立ち込めるステイン独特の香り。デヴィッドの優しく撫でるような手つきからは、ギターへの愛情が感じられた。ビジョンにはその手元が大きく映し出され、観客はその映像に固唾を飲んで釘付けになる。塗ったばかりでは目立たなかった色が、時間が経って乾いてくると徐々に浮き上がっていく様子はまさしく魔法。会場からは感嘆の声も上がった。

また、観客からの質問にも答え「ギター1本を塗り終えるのにかかる時間は?」という問いには、「塗装に2時間、乾燥に24時間、その後サンディングを行う」とコメント。木材の材質によっても異なるとのこと。「作業中は何か音楽を聴きながらやるのか」という質問には、さぞハードロックをガンガン流しながらやっているのかと思いきや…日本で言う怪談を聴きながらやるとのこと。繊細な作業なだけに、きっとある種の緊張感も必要なのだろう。体験コーナーでは、観客から選ばれた1人がこの貴重な作業を実体験。ゴム手袋をはめてステインで塗らした布でストラトのボディに滑らせ、司会者から感想を聞かれると「気持ちいいです!」とコメントして会場を沸かせた。

イベント後半にはホセフィーナ・カンポスが登壇し、ピックアップのコイルにワイヤーを巻き付ける作業の実演が行われた。ピックアップとは、弦の振動を電気信号に変換してアンプなどから音を拡張して鳴らすマイクのような装置であり、ギターの音色を司る最重要パーツだ。この分野において第一人者とされているのが、ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックス、スティーヴィー・レイ・ヴォーンなど、世界的ギタリストたちのピックアップを手がけたアビゲイル・イバラ。そのアビゲイルから技術を直接受け継いだのが、この日登壇したホセフィーナ・カンポス。彼女が手がけたピックアップはマスタービルダーから依頼が殺到し、搭載されたモデルは数量限定販売されるとあっと言う間にプレミアが付く人気を誇っている。

巻き取り機にピックアップをセットし、いよいよ実演。巻き取りの数やテンションのかけ方で、流れる電圧や音が変わるとのこと。ワイヤーに添えた指先で、巻き取りの強さを調節するという実にデリケートな作業が続く。ワイヤーには3種類あり、太さも42ゲージ〜43ゲージと髪の毛よりも細く、それをだいたい8,500回巻くとのこと。ワイヤーのゲージ数によっては12,000回や7,000回など変わるそう。司会者の「指は痛くない?」という質問に「問題ない」と答えたホセフィーナ。1個作るのに15分ほどで巻き終えるそうで、作り終えるとサインを入れてフィニッシュ。

マスタービルダーからは、細かい仕様の指定があった上でそれを30セットなど一度に多くの注文が来るとのこと。1950年代や1960年代といった音の質感、巻きが多めか少なめか、さらに巻きの回数まで実に細かな注文に対応するという。こういった細かい作り分けができるのが技術であり、伝説の職人と呼ばれる所以だろう。フェンダーの技術と情熱を継承した、クラフトマンたちによる繊細な手仕事がファンを魅了した。

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