Cover Artist | 羊文学 -後編-
自分とギターのシンクロ率をもっと上げたい
繊細ながらも力強いサウンドが特徴のオルタナティヴロックバンド“羊文学”がCover Artistに登場。インタビュー後編では、4月にリリースされたニューアルバム『our hope』について、ライヴへの心構え、バンドの魅力、そしてすべての楽器ビギナーにアドバイスをいただいた。
年齢的な成長やバンドとしての成長がある
― 羊文学の活動について聞かせてください。4月にリリースされたニューアルバム『our hope』はどのような作品になりましたか?
フクダヒロア(以下:フクダ) テーマから話をさせていただくと、都会的なイメージでアクチュアルな作品になったのが一つ。もう一つは、たくさんの人に聴いてほしいのがテーマとしてありました。ドラムテックを入れて音の向きを良くしたり、例えば1曲目の「hopi」だと4AD(イギリスのインディーレーベル)感というか、浮遊感のあるシューゲイズとかアンビエント、ダウナーな感じにしてくださいといった具合に、1曲1曲のテーマを大事にした記憶があります。
― 特に注目してほしいプレイは?
フクダ やはり1曲目の「hopi」は好きです。タイトルもアメリカの部族で、“平和の民”という意味が込められています。先ほども言った通り、楽曲全体の浮遊感、リバーブ感もコクトー・ツインズとか4ADレーベル感を出していたり、ドラム3点で心臓のようなバスドラムを意識して、手数も一番少ない楽曲になっています。
河西ゆりか(以下:河西) 今までやってなかったことにたくさん挑戦したアルバムになりました。アレンジもポップに振り切ってみたり、その逆でアンビエントをやってみたりシンセを入れてみたり。今までと同じ音作りをするんじゃなくて、先に違う音から作ることに挑戦しています。私が好きなのは「ワンダー」という曲なのですが、力強いヴォーカルとミュージカルっぽいメロディでは大きな空が見えるのですが、ベースでは力強い大地を表現しました。そんなベースをぜひ聴いてほしいです。
塩塚モエカ(以下:塩塚) 羊文学にはいろいろな曲があって、このアルバムにも多彩な曲が入っているのですが、全体として聴きやすい一枚になっていると思います。年齢的な成長やバンドとしての成長があって、奥行きが加わったイメージでこのアルバムを捉えています。
― 実験的でありながら、音楽的なカッコ良さと気持ち良さがある傑作ですよね。
河西 嬉しいです。ありがとうございます。
― 逆に次はどうなるのだろうと。
塩塚 でも淡々と(笑)。最近はもうちょっとパンクっぽいものを作っているかな。この『our hope』はメロディがすごく詰まっているので、演奏も凝っているのですがメロディ寄りだと思うんです。だから次は、ライヴ感のあるものになるのかなと思っています。
― 羊文学はツアーを重ねるごとに会場のキャパも大きくなっています。プレイヤーとしてライヴで心がけていることを教えてください。
フクダ ブレない佇まいで叩くというのが一番にあります。それはドラムのセッティングであったり、機材選びだったり、自分が思うカッコいい叩き方を意識しています。フロアタムも、ちょっとクセのある叩き方をしています。
河西 最近、大きいステージに立たせてもらうことが多い中、佇まいもスタジオで気にするようにして練習しています。あと、歌の練習をしています。自分がコーラスで倍音になるっていう思いで。
塩塚 私の倍音に(笑)。
― 塩塚さんは?
塩塚 まだまだライヴは研究の余地があると思っていて。特にワンマンだと、内側にこもってライヴをする感覚が多かったんです。あとは、経験不足で緊張することもあって。最近はお客さんのことを見られるようになって、今まではCDをどれだけ正確になぞるかというイメージだったのですが、例えば私がここで“ありがとう”と言うと“お客さんはこんな風に楽しんでくれるんだ”ってことをすごく感じていて。今まではとにかく歌が上手くなりたくて、ギターを練習するよりも歌ばかりやっていたんです。だけど、ギターが無意識に弾ける状態にならないと歌にも集中できないし、さらにその先にいるお客さんにも集中できないということに今さら気付いて。自分とギターのシンクロ率をもっと上げたいと思っています。
そのバンドにしか出せない音がある
― 羊文学に触れて楽器を始めたいと思っている人も多いと思います。楽器の魅力を言葉にしていただけますか?
フクダ バンドマンが一番カッコいいと思ってバンドを始めて、どの楽器だったらバンドをできるのかなと考えた時に、ドラムを叩いたら叩けたんです。ドラムの魅力は、音がすごく大きくて非日常感があるところです。僕は普段、インドアで静かな感じなんですけど、ライヴハウスに行くと爆音を味わえて、高校生の頃も吉祥寺WARPとか下北沢ERAで受けた衝撃がものすごく大きかったんです。ドラムの魅力は大きな音を出せるところ。ビジュアルも含めて、自分を表現できる場所というのも大きいのかなと思います。
河西 ベースは全身に響く音を感じるのが好きです。胃が揺れる感じというか。音楽を聴く時も、ベースはお腹で聴いています。リズムも体に響くので、その二つをいつも感じています。そこが魅力だと思います。
塩塚 ギターさえあれば歌えるのが一つ。あと、ギターにもエフェクターにもいろいろな種類があるし、選択肢が無限にあるんです。DTMが流行って、ギターのサウンドも打ち込もうと思えば打ち込めますが、ギターを100%再現するのってピアノとかドラムとかベースに比べて難しいんじゃないかなと思っていて。弦を押さえてジャーンって弾けば鳴るし、付属品もかわいいものがたくさんあって楽しいです。
― 楽器のビギナーへアドバイスやメッセージを送るとしたら?
フクダ 僕は誰かから習うよりも、感覚的に始めるのがいいと思っています。耳コピだったり、好きなように演奏して覚えるのが一番いいのかなと。僕にとってバンドというものはすごく魅力的だったので、基礎を一から学ぶのもアリだけど、最初に抱いた気持ちを忘れずにやればいいんじゃないかなと思います。
河西 自分が好きなものをイメージして、それをずっと頭の中に置いて楽器を弾くとなぜか弾けるようになるんです。だから、感じるものを優先するといいのかなと思います。
― バンドの魅力を言葉にすると?
河西 バンドはすごく不思議で、なぜかそのバンドにしか出せない音があるんです。それが何なのかわからなくて永遠の謎ですが、すごくいいなって思います
フクダ ただ立っているだけでカッコいい、ただいるだけでカッコいいアーティストっていて。大きく言ってしまうと、人生を生きる目的ですね。本当にバンドが好きなので、それに尽きると思います。
塩塚 バンドは“一人じゃない”のがいいなと思っていて。一人で想像したもの以上のものになったり、みんなの成長でちょっとずつ変わっていくのが、振り返った時に一人よりもはっきりと見れる気がして面白いです。あと、私は一人だったら曲を作るのが面倒臭くてたぶん辞めちゃうと思うんですけど、そういうタイプの人にもオススメです(笑)。
― (笑)。
塩塚 一人だと頑張れないけど、みんながいたら頑張れる人にピッタリです。あと、音楽をいっぱい聴くのはめちゃ大事かなと思います。私もちょうど打ち込みをやり始めて思うのは、音楽をたくさん聴いていると何となく“これは聴いたことがある音だな”とイメージできたり、不思議とフレーズができるんです。まったく聴いたことがないジャンルだと、何をやったらいいかのわからないじゃないですか。ギターをやっている方だったらギターがより鳴っている曲や気に入った音楽をしっかり聴き込んでいくと、気付いたら自分の身になっていることがあると思います。
› 前編はこちら
塩塚モエカ:Made in Japan Junior Collection Telecaster® | 河西ゆりか: Made in Japan Junior Collection Jazz Bass®
羊文学
塩塚モエカ(Vo,Gt)、河西ゆりか(Ba)、フクダヒロア(Dr)からなる、繊細ながらも力強いサウンドが特徴のオルナティブロックバンド。2020年12月9日にはメジャー1stアルバム『POWERS』をリリース。2021年8月25日、アニメ映画『岬のマヨイガ』主題歌に起用された「マヨイガ」を含むep『you love』をリリース。2022年4月20日にメジャー2ndアルバム『our hope』をリリース後、初の全国ツアー〈羊文学 TOUR 2022 “OOPARTS”〉を開催。
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