Cover Artist | 北村匠海(DISH//) -後編-

音楽やエンタメの世界で生きる上で支えてくれる一部がギター

楽曲「猫」の全バージョンを合算したSNS・ストリーミング含む累計再生回数が10億回を突破。2021年に結成10周年を迎え、映画やドラマ、舞台など幅広いフィールドで躍動する4人組バンド、DISH//からヴォーカル&ギターの北村匠海がCover Artistに登場。インタビュー後編では、ヴィンテージに惹かれる理由、以前から気になっていたというAmerican Vintage IIシリーズのインプレッション、今後のDISH//について話を聞いた。

“俺のスターがここにいる!”って。あの衝撃は未だに超えていない

──America Vintage IIシリーズを弾いてみたかったということですが、ヴィンテージに目覚めたきっかけは何ですか?

北村匠海(以下:北村) ファッションからです。80’sとか90’sとか、それこそ当時のファッションカルチャーは音楽と密接につながっていて、パンクだったりロックスターのファッションをみんなが憧れて真似をする時代でした。高校生の時、古着とそれに通ずる音楽カルチャーと出会ってからヴィンテージが好きになったんです。マネスキンなどのバンドを見ていても、音楽とファッションカルチャーはイコールで結ばれているし、それを含めての音楽だと思っているので。

──今までヴィンテージギター、またはヴィンテージラインのギターを弾いたことはありますか?

北村 同い歳のグレッチは持っているけれど、一番のヴィンテージの音との出会いはここで弾かせてもらったEsquireです。リアルヴィンテージじゃなくてカスタムショップですけど、これは一生ものだなって。鳴らしてみてTelecasterよりも前の“紀元前感”がわかったし、“俺のスターがここにいる!”って。あの衝撃は未だに超えられていないですね。

──American Vintage IIシリーズから4本を弾いていただきました。この中から1本を選ぶとしたら?

北村 American Vintage II 1972 Telecaster ThinlineAmerican Vintage II 1966 Jazzmasterで悩んだのですが、やっぱりジャズマスが好きだなって。音もすごかったですね。暴走機関車というか(笑)。暴れ馬なんだけど根は繊細な奴で、すごく親近感がありました。

──普段使っているジャズマスと比較してどうですか?

北村 圧倒的に音の太さがあって、しっかりとした木の鳴りがあります。試奏をする時、僕はEコードを鳴らすことが多いのですが、自分の骨に響くかどうかを大事にしているんです。ヴォーカル&ギターだから弾きやすさも大事だけど、声帯や骨を鳴らして歌うので楽器とどう合うかも大事で。この子は、弾いていてすごくにこやかになっちゃいますね。

──どんなシーンで使ってみたいですか?

北村 ライヴ開幕一発目から掻き鳴らしたいですね。それくらいパワーも疾走感もあったし、自分の背中を押してくれる感じがしました。ジャズマス好きとしては、初めての方にも手に取ってみてほしいです(笑)。毎日つまらないと思っている人が、ちょっとでも音を鳴らしてみたら気分が晴れそうなギターです。

──10年も活動しているとないのかもしれませんが、ライヴ前は緊張しますか?

北村 僕はけっこう緊張するタイプです。ライヴには取り返しのつかない生の実感があって、この瞬間を逃したくない!というひりついた感情になるのが、僕にとってのライヴである気がします。一語一句、自分が抱えているものを伝え切らなきゃ気が済まない。でないと、明日できるかわからないから。そういう気持ちだから緊張するのかもしれないです。

──バンドと役者のバランスについてはどうですか? 二つが重なると消耗しそうな気がします。

北村 19歳で出演した映画『君の膵臓をたべたい』からの数年はそれこそバランスが難しかったけれど、コロナ禍に入ってすぐの2ヶ月の自粛期間でいろいろと考えたんです。その自粛期間中にTHE FIRST TAKEもあって、DISH//がさらに大きく広がっていきました。そこでちょうどバンドと役者の比重が同じになったから、“こういうバランスにしよう”と自分の中でも調整がつくようになって、今はすごく上手くいっています。もちろん時には身体的な疲労もあるけれど、気持ちの面では音楽活動と役者の両方が還元し合いつつ、表現として同じ出口になれた気がしています。両方とも言葉を使う表現だし、歌っているか歌っていないかは自分の中だけの話。バンドも役者も同じ目線で、自分という一つの媒体だけでやれています。

──表現者、アーティストとしてすごくいい状態だと。

北村 そうですね。自分の言葉で誰かが何かを想ってくれたり、今日を見つめている。もしかしたらアーティストとして当たり前のことなのかもしれないけど、僕らはスタートが遅かったからより一層その幸福を感じています。今が一番楽しいですね。

“好き”のエネルギーって一番強いと思う

──12月には大阪・東京でライヴ〈DISH// ARENA LIVE 2022 “オトハラク”〉があります。

北村 12月25日はDISH//の結成日でもあるんです。今年はそのあとに〈COUNTDOWN JAPAN〉にも呼んでいただきました。年末は周年の集大成に相応しい場所がたくさんあるから楽しみだし、このAmerican Vintage II 1966 Jazzmasterも登場すると思います。実はこの2日間、“大失敗したいな”ってメンバーと話していて(笑)。10年後も笑えるくらいのとんでもない2日間、キレイじゃなくてすごくリアリティのある生々しい2日間になるといいなと思います。

──これで10周年が完結ですね。

北村 完結しますね。そして新しい周年に入ります。やっぱり“10年ってすごいな”ってあらためて思いますね。中学生を見て、この頃から活動してきたのかと思うとちょっと考えられない。それくらい、自分たちのことを褒めてもいい2日間になるといいなと思います。

──次は20年、30年…と待っています。

北村 はい。音楽っていつまでも続けられるじゃないですか。それがいいですよね。終わりがあるものは嫌いですもん。音は概念というか一音でも音楽だから。“決められていない”のが僕の性に合っているのかもしれないですね。ただ、それでも“何者”かになりたい。歴史に名を残したいと思っています。

──DISH//を見てバンドを始めたいと思う人も多いと思います。そういう人たちにメッセージを。

北村 僕らは今楽しめているけれど、最初は壁にぶち当たると思うんですよね。だから、諦めずに続けることが大事。“好き”のエネルギーって一番強いと思うので、それが僕らだったら嬉しいし、フェンダーのギターだったらいい。まぁ、ジャズマス狂になってくれたら嬉しいですね(笑)。

──12月のライヴが近づく中、多忙で疲れていらっしゃると思いましたが、ギターを持って話し出した途端に笑顔になってギターが好きなんだなって(笑)。

北村 本当にギターが大好きなんです。僕にとってギターは骨みたいなものです。太く、固く、そして音楽やエンタメの世界で生きる上で支えてくれる一部がギター。すごく頼もしい存在ですね。

──今日、また新しい骨を手に入れたんですね。

北村 はい。楽しみですね。赤を選ぶのも僕の今の心情を表していると思います。心の中が、年末に向けて燃えているのかもしれないですね(笑)。

──そういえば前回のインタビューで、北村家の家訓は“一つのものを長く使うこと”だとおっしゃっていました。ぜひ長く愛してください。

北村 はい。フェンダーはそういうブランドだと思っています。一生ものですよね。このAmerican Vintage II 1966 Jazzmasterが、10年後、20年後にヴィンテージと言われるのが今から誇らしい。そういう気持ちで使わせてもらいます。

>> 前編はこちら


北村匠海
2011年に結成された4人組バンド、DISH//のヴォーカル&ギター。楽曲「猫」の全バージョンを合算したSNS・ストリーミング含む累計再生回数が10億回を突破。2022年12月に大阪・東京で初の単独アリーナ公演〈DISH// ARENA LIVE 2022 “オトハラク”〉を開催。
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