Cover Artist | 草刈愛美(サカナクション) -前編-
必ず戻ってくる場所にあるのがフェンダーです
エレキベースとシンセベースを巧みに操りながら、先鋭的なサカナクションの音楽を強固に支える草刈愛美がCover Artistに登場。インタビュー前編では、音楽に目覚めたきっかけからフェンダーとの出会い、サカナクションでの音作りについて話を聞いた。
その時は気づいていなかったけど、きっと低音が好きだったんです
──まずは音楽に目覚めたきっかけを教えてください。
草刈愛美(以下:草刈) 幼少期に音楽教室に通ってオルガンピアノやピアノを習っていたので、そういうところからも音楽に触れていたと思います。家にはピアノやギターがありましたし、やろうと思えば音が出せる環境にはありました。おじいちゃんのお家にステレオセットがあって、家からクラシックのレコードを持って行って、その前にカセットデッキを置いて録音したり。いわゆる空間ダビングです(笑)。録音して、テープのケースの裏に自分でタイトルを書いていましたね。
──音楽の原体験はクラシックなんですね。
草刈 クラシックが原体験です。バレエもやっていたのですが、バレエもクラシック音楽ですから。小学生の途中で引っ越すのですが、引っ越した先で初めてポップスを知ったんです。その時みんなはDREAMS COME TRUEやCHAGE and ASKAを聴いていて、“音楽は何を聴いているの?”と聞かれたので、クラシックだから“曲だけ聴いてるの”って(笑)。それからポップスを聴くようになったのですが、自分がハマったのはMR.BIGです。それと同時期にジャミロクワイ、アラニス・モリセット、オアシスなどにハマりました。ちょうどバンドをやりたいムーブメントが中学校で起こってバンドを始めたんです。そこではUNICORNとかBLUE BOYをやりつつ、同じクラスの男の子からMR.BIGを教えてもらって、そっちの音楽にハマりましたね。
──クラシックからMR.BIGはすごい振り幅ですね。
草刈 そうですよね(笑)。当時はすごくカッコいいなって思いました。
──ベースだった理由は?
草刈 バンドを組む前、友達と一緒に曲を作って歌詞を書き合って遊んでいました。それからバンドメンバーが集まったのですが、歌を歌いたい子とギターを弾きたい子がいたので、ドラムかベースだったんです。楽曲を作っていたし、音階を出したかったからベースになったのかな。あとは音楽の授業でリコーダーとかあるじゃないですか? 私は低音楽器が好きだったから、大きいリコーダーを吹きたくてバスリコーダーにハマりました。ピアノをやっていて左手の感覚があったので、低音がすごく気持ち良かったんですよね。その時はあまり気づいていなかったけど、きっと低音が好きだったんですね。
──どんな練習をしていましたか?
草刈 自分たちの曲を弾いたり思い付いたフレーズを弾いていました。最初にハマったのがMR.BIGだったので、残念ながらコピーするのも難しいんですよ(笑)。スケール練習はあとからでした。
──仲間内でベースを教えてくれる人は?
草刈 いなかったです。ベースは独学ですね。少し教わったのは大学を出てからです。
──独自の練習方法はありましたか?
草刈 自分が演奏したものを録音して聴く。弾いている間はわからないことが、聴き返すとわかるので。
フェンダーの音が中心にある
──フェンダーベースを初めて手にした時のことを覚えていますか?
草刈 体が小さかったので、はじめは別のメーカーのスケールの短いベースを弾いていたんです。フェンダーは最初から憧れがありました。みんな持っているし、楽器屋さんに行くと必ず置いてあるし、絶対に良い音が出るという漠然としたイメージでした。あとは何となくヴィンテージな感じもするし、新しい音というよりは古くてしっかり鳴る音というイメージもありましたね。最初にフェンダーを買ったのはいつだったかな…。高校生の頃だと思うんですけど、日本製のJazz Bass®︎でした。
──それは楽器屋さんで勧められて?
草刈 街に出かけるたびにフラッと楽器屋さんに寄って、指をくわえながらフェンダーを見ていました(笑)。札幌の玉光堂という楽器屋さんの一番上の階で中古を売っていて、良さそうなのが安くなっていないかな?と見ていて。最初のフェンダーもそこで買ったのですが、そこに行くといつも弾かせてくれるんです。買いもしないのにいろいろと教えてくれて、大変お世話になりました(笑)。
──初めてのフェンダーはどうでしたか?
草刈 自分の体が小さいから、やっぱり大きかったです。でも、弾きこなしたいと思いました。
──音も違いましたか?
草刈 全然違いましたね。まず、ボディの大きさが違ったので、アンプにつながないで体に乗せて弾いた時でも音が大きくてズーンと鳴る。楽器が鳴るからすごく気持ち良かったですね。もちろん、アンプにつないで鳴らした時もしっかりと音が出る感覚がありました。
──あらためて、フェンダーベースの魅力を教えてください。
草刈 早い時期にフェンダーのベースを手にしたので、音に親しみがあるというか、慣れているというのがあります。自分の中でのベーシックなベースの音はフェンダーで、それがわりと早い段階、それこそ高校生の時に出来上がっていると思うんです。途中で他のベースに手を出しても、結局フェンダーに戻ってきてしまう。フェンダーの音が中心にあって、それ以外のベースはそうではない音を作りたい時に合わせて持ってくる感じ。必ず戻ってくる場所にあるのがフェンダーですね。
──サカナクションの音へのあくなき追及にはいつも脱帽するばかりですが、音作りは大変ですか?
草刈 ベースは早いですね。アンプをしばらく多用していないから、楽器の音そのままが多いです。エフェクターをたくさんつないだりアンプを選ぶより、ベース個体の音をそのままストレートに出すのが好きなので。
──逆に言うと、どのベースを選ぶかが重要ですね。
草刈 そうなんです。だから、ライヴの時も頻繁にベースを替えなきゃいけないので大変です。足元(エフェクター)でカチッと踏むだけだったらいいんですけど、私はベース自体を持ち替える。でも、それが楽しいのでいいかなと思っています。
American Vintage II 1954 Precision Bass
>> 後編に続く(近日公開)
草刈愛美(サカナクション)
サカナクションのベーシストとして、2007年にメジャーデビュー。16年に渡る活動の中で7枚のオリジナルアルバムを発表し、全国ツアーは常にチケットソールドアウト。大型野外フェスではヘッドライナー常連。現在の音楽シーンを代表するロックバンドの一組である。また第39回日本アカデミー賞にて最優秀音楽賞をロックバンド初受賞するなど、さまざまな活動で多方面から高い評価を得ている。ベースプレイヤーとしてもBASS MAGAZINEの表紙に2度選ばれ、プレイヤーとしての評価は高い。シンセベースとエレキベースを巧みに使い分けたグルーヴィなプレイが持ち味。緑色が好き。2023年9月6日にリアレンジ&リミックスアルバム『懐かしい月は新しい月 Vol. 2 ~Rearrange & Remix works~』がリリースされる。
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