Cover Artist | 音羽-otoha- -後編-

ギターを通すと嘘がなくなるし、言いたいことも自然と言える

「Cover Artist」後編では、前編に引き続き「Fender Next 2025」に選出された音羽-otoha-のギター愛、そしてフェンダー愛にフォーカスする。“ギターは一つの言語のようなもの”と語る音羽-otoha-によるスランプ脱出法やギター初心者へのアドバイスなど、今回も魅力的な言葉に溢れている。ぜひ最後まで楽しんでほしい。


“不純物がなかった”と納得できるものを、誠実に向き合って作りたい

──音羽-otoha-さんが作曲する時に感覚を刺激されるギターはどんなタイプですか?

音羽-otoha-(以下:音羽) じゃじゃ馬な音が鳴るギターは楽しいですね。なので、そういうギターを使う場合は、音作りもじゃじゃ馬な感じにします。

──予想外のフレーズが飛び出す感じ?

音羽 それはありますね。やっぱりギターによって全然違うフレーズが出てきたりするので。カッティング系のフレーズになるか、フロントピックアップで丸い音を出して単音弾きのフレーズが浮かぶか、その時々で変わります。

──作曲の時は、その時の気分で持つギターが変わる? それとも、たまたま持ったギターで出てきたものを大切にする感じですか?

音羽 完全に直感タイプなので気分でギターを選びます。その時の気分で持ったギターによって、生まれるフレーズが全然変わるんです。逆に、とあるギターで作ったフレーズを別のギターで弾いたらもっと良くなることもあったり。今、家にはフェンダーのギターがいくつかあるので、それをローテーションさせながら作るのが楽しくて仕方ないです。

──音羽さんはメロディと歌詞が一緒に降りてくるタイプだそうですね。

音羽 そうですね、大体同時に浮かんできます。楽器を持たずに作ることもあるけど、やっぱり一番多いのはギターを持ちながらですね。アコギを持っているとアコースティックっぽい曲が生まれたり、エレキだとゴリゴリの曲になったり。特にエレキを持っている時は、バリエーションが一気に広がります。

──音羽さんが作る曲の幅広さは、そういうところにも要因があるんですね。

音羽 自分を飽きさせないように作っているつもりです。いろんな顔を持つアーティストが好きで、ライヴの中でいろんな色が見えると楽しいじゃないですか。自分もそういうライヴを作るためにも、いろんな毛色の曲を持っていたいんです。歌だけでもライヴは成立するけど、ボーカリストになるつもりはなかったので。

──スランプに陥ることはないですか? どうやってそこから抜け出すんでしょう。

音羽 まず、スランプという考え自体が思い上がりだと思っています。自分を過信しているからスランプだと感じるんだと思うし、不調の原因は必ずあるはずなので徹底的に原因を探ります。自分の場合は、今書いているものに嘘がないか、正直なものかを定期的に見直します。1日中パソコンに向かって自分用の長文の資料を作って、腕組んでそれを眺めて考え込む、みたいな。そういう過程を経て、スッと抜けられることはありますね。

──スランプには必ず理由がある、と。

音羽 はい。理由を見つけないとそこから抜けられないタイプなんです。“何となく”じゃ続かないので、毎回ちゃんと自分と向き合います。

──音羽さんはヴォーカリストであり、ギタリストであり、クリエイターでもありますけど、どの肩書きが一番しっくりきますか。

音羽 どれでもいいけど、強いて言えばクリエイターかな。

──生粋のギタリストでありながら、ギターへの執着が強すぎないところも面白いなと。

音羽 たぶん、もう当たり前に生活に溶け込んでいるんですよね。わざわざ言うほどでもないくらい。ギターを持っていると安心するんですよ。今もギターを持ちながらしゃべるほうが落ち着くかもしれない(笑)。

──そうなんですね(笑)。そこまで言い切る音羽さんにとって、ギターってどういう存在なんですか。

音羽 一つの言語みたいなものですね。もしかしたら、日本語でしゃべるよりもギターで音を出すほうが得意かも、って思うくらい。昔から、強いことや本当のことを言うのが苦手で、嘘をつくのが嫌いなくせに、言葉では上手く言いたいことが伝えられないタイプだったんですよね。でも、ギターを通すと嘘がなくなるし、言いたいことも自然と言える。だからギターは、私を素直にしてくれる存在なんです。

──余計な味付けのない、素直なギターが好きだというのも、自分の想いを伝えやすいからなんですね。

音羽 そうです。嘘つけないし、つく必要もない。それってすごく大きなポイントだと思います。

──大げさに言うと、ギターに理想の人格を投影している感じもしますね。

音羽 ああ、確かにそうかもしれないです。やっぱり、自分が残すもので後悔したくないんですよね。あとになっても“不純物がなかった”と納得できるものを、誠実に向き合って作りたい。ギターに限らず、すべての創作物に対してそう思っています。ファンの方との向き合い方も含めて、全部。

自分の音楽を世に出した以上、責任と覚悟を持ってやらなきゃいけない

──そこまでフェンダーのギターに愛情を注いでいる音羽さんが、「Fender Next 2025」の1組に選出されたのは…。

音羽 いやもう、“成功したオタク”みたいな気分です(笑)。

──あっはっは!

音羽 素直に“好き”って言い続けることは大事ですね。何が起こるかわからないですから。

──本当にそうですね。最初にこの報告を受けた時、どんな気持ちでした?

音羽 “私でいいんですか…?”って。でも、やらせていただけるなら全力で向き合おうという気持ちで今日はここに来ました。背筋が伸びる感覚もあります。このギターを背負っていくんだ、って思うと余計に。

──8月11日にZepp DiverCityで開催されるワンマンライヴは、すでにチケットがソールドアウトしています。

音羽 ありがたいことです。1本限りのライヴなので、とことん“生”を体感して帰ってもらいたいです。初めてライヴに来る方には生の音楽の良さを持ち帰ってもらいたいし、これをきっかけに他のアーティストのライヴも好きになってもらえたら嬉しいです。ファンには“音羽さんを見てギターを始めました”って方も多くて。

──それはギタリスト冥利に尽きますね。ただ、音羽さんの多様な音楽性を表現するにあたって、ライヴにおける生感と同期音源のバランスはどうしているんですか?

音羽 けっこう変えますね。サポートメンバーにも“ゴリゴリにアレンジしていいですよ”って伝えるし、同期音源を削ることもあります。それによって音源よりも迫力が増す曲があったり。ライヴはライヴであえて全然違う体験になるようにしています。

──今後はどんな活動をしていきたいですか?

音羽 これまでは規模に対する欲があまりなかったんですけど、最近は変わってきました。音楽を作りながら自分と向き合っているつもりが、いつの間にかリスナー1人1人と向き合っている感覚になってきて。その感覚を広げるためには活動の規模を広げて、もっと多くの人に歌を届けたい。規模が大きくなればなるほど、何千人何万人の目を見て歌えるし、そのために挑戦していきたいですね。

──環境の変化が音羽さんを成長させているんですね。

音羽 そう思います。それに伴って作る曲も変わっていくでしょうし。変化を恐れず、一つひとつ受け入れていきたいです。

──この先もまだまだ目指すべき場所はあると思うのですが、現時点で音羽さんがギタリストとして、クリエイターとしてここまで来られた理由は何だと思いますか?

音羽 やっぱり…リスナーですね。昔の記憶で鮮明に残っているのが、高校生の頃にバンドを組んだ時のことで。当時、人前に出るのがすごく苦手で、授業中に順番で音読させられるだけでも心臓が飛び出しそうなくらい緊張するタイプだったんですけど、それでも“この学校生活で何かを残したい”と思って、初心者ばかりのメンバーにドラムとかを教えながら文化祭のライヴに出たら、全校生徒レベルで予想外に盛り上がってくれて。その時に初めて“人を喜ばせるために何かをするってこんなに素敵なんだ”って思ったんです。そこからバンドを続けて、コンテストにも出るようになって、少しずつファンという存在ができて。ある時に手紙で“あなたの音楽に救われました”と言われて、その瞬間に“自分の音楽を世に出した以上、責任と覚悟を持ってやらなきゃいけない”って思ったんです。あれがターニングポイントで、内向きだった意識が外に向いたんだと思います。

──先ほども話していましたけど、そんな音羽さんの姿を見てギターを始める人も増えていると思います。初心者の方に何かアドバイスをするとしたら?

音羽 まず、好きな曲を弾くこと。そして、痛覚は無視しろ(笑)。指が痛いのは当たり前なので。あと、“ギターは顔で弾け”です。

──あはは!

音羽 なりきることって大事だと思うんです。憧れのギタリストがいるなら、ライヴでの弾き方でも、服装でも、表情でも、とにかく真似してなりきる。そうすると憧れに近づけるし、楽しい。細かいことでつまずかずに続けられると思います。

Player II Modified Stratocaster(Harvest Green Metallic)

>> 前編はこちら

ジャケット ¥59,400(税込)、Tシャツ ¥16,500(税込)/F IS FOR FENDER(エフ イズ フォー フェンダー)


音羽-otoha-
詞・作曲は勿論、ギタリストとしてのスキルも併せ持ち、アニメーション制作や映像編集など多岐に渡り表現しているマルチクリエイター。TikTokフォロワーは140万人を突破。アニメ・ドラマなどに数多く楽曲を提供し、ストーリーに寄り添う制作スタイルで、各原作ファンからも高く支持されている。「自分自身に向き合い続けること」を主なテーマとして楽曲を作り歌い続ける。ギターヴォーカルとしてのバンド活動をしたのち、「音羽-otoha-」名義のソロアーティストとして今に至る。2025年8月27日には、TVアニメ「Dr.STONE SCIENCE FUTURE」第2クールエンディングテーマで先行配信中の楽曲「no man’s world」を収録した「platinum anthem」をリリースする。8月11日(月・祝)Zepp DiverCity(TOKYO)にてワンマンライヴ〈HELL0w0RLD!〉を開催予定。チケットはソールドアウトしている。
https://otohaofficial.com/

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