Cover Artist | Nakajin(SEKAI NO OWARI)-後編-

ストラトよりもJazzmasterのほうが自分に合っている

「Eye」と「Lip」という両極端のアルバムを出すことは、クリエイティヴ性を制限しないという意思表示でもある|SEKAI NO OWARI Nakajin【前編】

SEKAI NO OWARI

J-POPシーンを牽引するバンドSEKAI NO OWARIが、約4年ぶりにニューアルバム「Eye」「Lip」を2月27日に2枚同時リリース。しかも、その2枚はまったく違うサウンドコンセプトとなっている。シーンのトップにいながら、野心的な挑戦を行うSEKAI NO OWARIのギタリストにしてバンドのサウンドプロデュースも行うNakajinへのインタビュー。前編ではニューアルバムについての話を中心に聞いた。

僕らの“グレた”一面も見せたいという気持ちが出てきたんです
 

― アルバムは4年ぶりですね。シーンのトップにいながら、メジャーでのアルバムは3枚目というのも驚きです。

Nakajin 今回は2枚組なのでメジャー3・4枚目という感じですね。ただ、実際にはメジャーとインディーズを区別していないので、僕たちにとっては4・5枚目のアルバムです。Fukaseから2枚同時でリリースすのはどうだろう?と提案があって制作を始めました。

― 具体的にはどんな提案だったんですか?

Nakajin 世界観が違うアルバムを2枚出そうという提案で、タイトルまで決まっていました。それをベースに曲を作り、すでにシングルとしてリリースしていた楽曲を除いては、約1年前にアルバムを出そうと決めてから作ったものがほとんどです。

― Nakajinさんはサウンドプロデューサーでもあるわけで、Fukaseさんからのコンセプトを受けてどのように音作りを進めていったのですか?

Nakajin 最近の僕らの作品で言うと「RAIN」と「サザンカ」というシングル曲があって、どちらも紅白で披露したこともあって万人に聴いてもらえる曲だったと思うんです。だけど、万人に聴いてもらえるわけじゃない自分たちも当然あるわけで、そういう面も出したいなという気持ちが強くありました。「Lip」は最近のパブリックで知られているSEKAI NO OWARIのイメージが表れていて、老若男女、どんな人でも楽しめるアルバムだと思います。  一方で、そうではない自分たちを爆発させたのが「Eye」です。そういう住み分けはある種自然な流れでしたね。「RAIN」と「サザンカ」のような優等生な一面を見せたら、「スターゲイザー」や「Re:set」といった僕らの“グレた”一面も見せたいなという気持ちが出てきたんです。そういう方向性は、「Eye」と「Lip」の制作が決まった時からメンバー全員がイメージしていたと思います。

― 例えば「Eye」に収録された「Re:set」は激しい曲だし、いわゆる歌ものでもないですよね。今まで見せていない優等生ではない面となると、ファンの許容範囲もあると思うので、どこまでグレていいのかは難しい判断だったのでは?

Nakajin 同じことをずっと続けていくのは、それはそれで素晴らしいことだとは思いますが、許容範囲が狭まると自分たちのやりたいことがやりづらい状況になると思うんです。例えば「RAIN」や「サザンカ」のような曲をこれからずっと作るとなると、どんどん窮屈になっていくと思います。だから「Eye」と「Lip」という両極端のアルバムを出すことは、僕らのクリエイティヴ性を制限しないという意思表示でもあるんです。二面性のあるアルバムを出すことによって、極端なことも音の中で表現できたかなと。例えば「Re:set」ではFukaseがシャウトしていたり、サウンドとして楽曲に求めるものを我慢せずに全部出せました。

― もしや「Eye」を作っている時はものすごく楽しかったのでは(笑)?

Nakajin どっちも楽しいですけど、「Eye」のほうが男子メンバー歓喜という感じです(笑)。Saoriちゃんが “ちょっとやり過ぎだよ”となる構図があった気がします(笑)。「Re:set」のシャウトにしてもそうですし、「Blue Flower」という曲でミックスの時にベースをゴリっと上げたりすると、Saoriちゃんが難色を示すこともありましたが、「Eye」は男子の好みが多く反映された制作でした。

― 「Lip」は心に届く言葉とメロディーが特徴ですが、「Eye」はグルーヴやビートが前面に出ていてフィジカルに音楽を聴く感じですね。

Nakajin そうですね。ただ、ここまでビート感を重視したアルバムになるとは思っていなかったんです。知らず知らずにそうなった感じで、マスタリング音源を聴きながら、ビートをすごく強調した曲が揃ったなと思ったほどです。「Tree」を含め、今まではもっと世界観を重視していたと思います。楽器も変わったものを使ったり、楽器ではない音を使ってサウンドメイクしていました。心臓の音や花火の音を使ったりして曲の世界観を構築していったのが「Tree」だとしたら、今回はもっと肉体的な要素が強いなと思います。


「Eye」と「Lip」はトレンドをまったく意識していない
 

― そのグルーヴを支えているベースを、Nakajinさんが弾きまくっていると聞きましたが。

Nakajin そうですね。ベース自体はFukaseのですけど(笑)。

― なぜFukaseさんのベースを?

Nakajin Fukaseが最近ベースにこだわりを持ち始めて、ベース関連の機材を揃え始めたんです。そんなベースへの想いが爆発したのが、「RAIN」のカップリング「スターゲイザー」で。Fukaseのベース探求心が爆発して、いろいろな機材をレコーディングで使いました。弾くのは僕なんですけど(笑)。その中のひとつがフェンダーのカスタムショップのベースで、「LOVE SONG」「ドッペルゲンガー」「すべてが壊れた夜に」「Missing」「蜜の月」で弾いています。

― ベースで言うと、「LOVE SONG」などで聴こえてくるピアノの低音のエグイ感じが独特ですね。“あ、ピアノって弦楽器だったんだ”と感じさせてくれてカッコいいです。

Nakajin それには秘密があって。ピアノはピアノでもベーゼンドルファーというオーストリアのブランドで、通常は88鍵ですがベーゼンドルファーだとその下に黒鍵が10鍵くらい増えるんですよ(92鍵または97鍵)。それを使って一音一音サンプリングしたんです。僕らはそれをベースとしてよく使っています。それをやり始めたのが「Tree」の頃ですが、僕もあのピアノの低音は好きです。

― そのアイディアは誰が?

Nakajin Fukaseだったような気がします。 Fukaseはとにかく低音にこだわりがあって、“あのベースじゃないとダメなの?”とか“ピアノって何でベースになれないの?”みたいな話を昔よくしていました。素朴な疑問のようで“確かに”って思ったり。“ベーゼンドルファーという低音鍵盤が多いピアノがあるよ”ってSaoriちゃんが教えてくれて、ダメ元で試したのがきっかけでした。

― 今やSEKAI NO OWARIのサウンドアイコンですよね。現代版“サージェント・ペパーズ”のようですが、Nakajinさんは新しい音楽を意識して聴いたり、古い音楽をディグることもありますか?

Nakajin 聴く音楽をすごく意識しちゃうんです。良くも悪くも自分の作風に影響するなと感じているので。不遜な言い方になりますが、特定の音楽を聴き過ぎると危ないと思う時があります。それと、今の時代ではいろんな音楽の聴き方があるので、全部知っておきたいなという気持ちがあるんです。例えばiTunesのランキングを見ても、“上位に知らない曲やアーティストが入っているけど何だろう?”と思うことが年々増えているし、サブスク(サブスクリプション。定額で視聴できる音楽配信サービス)のマーケットが少しずつ拡大して“そこだけで流行っているもの”があったりするので、音楽を届ける者としてはそこから目を背けてはいけないと思っています。今の時代、音楽の聴き方はさまざまでいろんなプラットフォームがあるので、自分のまったく知らないところで流行っているものがあると怖くなりますね。

― 逆に言うと、そういう時代だからこそ面白いのかもしれないですね。

Nakajin そうですね。面白いものが勝っていく。流れも速いなと思います。新しいものが次々と出てくるぶん、長く続けていくことも難しいのかもしれないですね。

― そんな中、約4年で1枚というアルバムのリリースサイクルはリスキーでもあると思うんです。マーケットや流行りの音楽が変わっていく中で、セカオワにとって「Eye」と「Lip」がしばらく最新のアルバムになるわけで。

Nakajin ハッキリと言えるのは、「Eye」と「Lip」の2枚ともトレンドをまったく意識していません。“自分たちの中にある音を形にした”という感覚が強いです。だからトレンドに対して焦る気持ちはないですね。

― なるほど。それにしてもよくコンセプトの違う2枚に分けましたね。王道の曲と実験的な曲を混ぜた2枚にしたほうが、セールス的なリスクも少ない気がします。

Nakajin CDが売れないこのご時世においては珍しいやり方だとは思います。でも、世界観をミックスしたら意味がないんです。「Eye」と「Lip」にそれぞれのビジュアルがあって、「RAIN」や「サザンカ」だけしか知らない人たちに対して、ビジュアルがバーン!と目に飛び込んできた時、それだけで二面性が伝わるのかなと思っています。そういう意味では、サブスクで音楽を聴く今の時代にある種逆行しているのかもしれないけど、そのぶん際立つことにもなると期待しています。アーティスト写真もそうですが、表向きと裏向きがあって、裏ではFukaseが血だらけのナイフとフォークを持っています。SNSも含めてビジュアルが強い時代だからこそ、二面性がわかりやすく提示できたと思っています。

› 後編に続く


【Nakajinの所有ギター】

SEKAI NO OWARI

American Vintage ’62 Jazzmaster
62年製ジャズマスターリイシューしたモデル。ピックガードやプラスチックパーツを変更したオールブラックなルックスは、Nakajinが長く愛用する1本として印象的な存在感を放っている。

Custom Shop 1960 Precision Bass Relic Black over Pink Paisley
昨年、日本国内限定でほんの少数のみ制作された、ピンクペイズリーの上からブラックでペイントしたリミテッドモデル。Fukase所有のもので、「LOVE SONG」「ドッペルゲンガー」「すべてが壊れた夜に」「Missing」「蜜の月」ではNakajinが本モデルを弾いている。

PROFILE


SEKAI NO OWARI
2010年、突如音楽シーンに現れた4人組バンド。同年4月、1stアルバム「EARTH」をリリース後、2011年8月にTOY’S FACTORYよりメジャーデビュー。圧倒的なポップセンスとキャッチーな存在感、テーマパークのような世界観溢れるライブ演出で、子供から大人まで幅広いリスナーにアプローチ、「セカオワ現象」とも呼ばれる加速度的なスピード感で認知を拡大する。2015年、アルバム「Tree」をリリース、同年7月18日、19日には日本最大規模の会場、日産スタジアムにて「Twilight City」、2016年にアリーナツアー「The Dinner」、2017年にドームスタジアムツアー「タルカス」を完遂。2018年、その圧倒的なスケールで彼らのライヴエンターテインメントを世の中に知らしめた野外ライブの全国版「INSOMNIA TRAIN」を開催することを発表。また、同年2月に平昌オリンピック・パラリンピックNHK放送テーマソング「サザンカ」を担当。2019年、約4年ぶりのアルバムを3枚リリースすることを発表。SEKAI NO OWARI として、「Eye」と「Lip」を2枚同時リリース、またEnd of the Worldとしての1stアルバム「Chameleon」を新春にリリース予定。名実ともに、日本を代表するグループとなったSEKAI NO OWARI。新しい音楽シーンの最前線の旗手として、止まることなく、攻め続ける新世代の才能である。
› Website:https://sekainoowari.jp


New Album
「Eye」

SEKAI NO OWARI

【初回生産限定盤(CD+DVD)】¥4,320(tax in)
【通常盤】¥3,240(tax in)

「Lip」

SEKAI NO OWARI

【初回生産限定盤(CD+DVD)】¥4,320(tax in)
【通常盤】¥3,240(tax in)

TOY’S FACTORY
2019/02/27 Release

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