Signature Model Interview | 加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ)-後編-

ちょっとくすんだ東京湾の青色は、傷だらけのRyubokuと合っている

日本国内のみならず、世界を股に掛けた活躍を続けている東京スカパラダイスオーケストラ。そのギタリストである加藤隆志と言えば、“流木”の愛称で知られる65年製のStratocaster®をメイン機として、長年使用してきたことでも知られるが、その“流木”をスペックのみならず、レリック加工によってボディの傷まで再現したCustom Shop製シグネイチャーモデル「Kyle McMillin Masterbuilt Takashi Kato 1965 Stratocaster® Ultimate Relic® “RYUBOKU”」が完成。インタビュー後編では、その音作りやキービジュアル撮影の裏話を聞いた。

ライヴの現場はRyubokuがメインになると思います

──「Kyle McMillin Masterbuilt Takashi Kato 1965 Stratocaster Ultimate Relic “RYUBOKU”」(以下:Ryuboku)を使う場面は増えていきそうですね。

加藤隆志(以下:加藤) そうですね。海外では僕の顔よりも“流木”のほうが認知されているんですよ(笑)。だから“流木”を使いたいんですけど、なかなか持って行けないというもどかしさもあって、ある意味、僕の顔である“流木”をカスタムショップで作りたいという気持ちもありました。実際、2023年の3月、〈ビベ・ラティーノ〉というメキシコ最大のフェスティバルでレッチリと同じステージにスカパラが立つ機会があったんですけど、11年ぶりだったから、この顔を見せたいと思って、さっそくRyubokuのプロトタイプを持って行って弾きました。

──国内ではどんなふうに使い分けていこうと考えていますか?

加藤 ライヴの現場はRyubokuがメインになってくると思います。逆にオリジナルはレコーディングの現場で、この音でしかできないというところで使うことになるのかな。実際、レコーディングには二本持って行っていて、弾き比べて、合っているほうで弾いています。ムロツヨシさんの映画『身代わり忠臣蔵』の主題歌「The Last Ninja」はインストなんですけど、ギターソロはRyubokuのプロトタイプで弾きました。オリジナルと弾き比べてRyubokuのほうが合っていると判断したんです。それに、Ryubokuを弾いているとオリジナルとは弾き方が変わるので、そっちの体になってくるものなんですよ。

──そういうものなのですね。

加藤 僕は一回のツアーでメインギターを決めると、ほぼ持ち替えないんです。持ち替えて、“ここでこう弾いたらこういう音が出るはずだ”っていうのが急に変わっちゃうと気になるんですよ。だから、パフォーマンスに集中できないというのもあって、一本に決めるとそれを長く弾くんですけど、今後のライヴではRyubokuとメイドインジャパン(Takashi Kato Stratocaster)を弾き分けていくことになるというか、実際にもうそうなっていますね。

──オリジナルとRyuboku、それぞれに合う曲の傾向はあるんでしょうか?

加藤 あります。スカパラが最近一緒にやることが多い若いパンク系のバンドはハムバッカーが主流で、ヴィンテージのサウンドの作り方よりも、もう少しハードロック寄りのサウンド作りが求められているというか、ギターの役割としてすごく大きいんですけど、そういう音作りにはRyubokuのほうが合う。ディストーションの乗りがすごくいいので、そういうイメージでサウンドメイキングしています。オリジナルの“流木”はもう少し60sっぽいサウンドアプローチや枯れたサウンドが求められる時に使うと思います。相性のいい同年代のフェンダーのアンプを使って。そういう意味ではアンプの相性も全然変わりますね。ただ、それは弾いている感覚でしかないので、実際に手に取って、弾いてもらわないとわからないかもしれない。でも、そういうところがやっぱりギターの面白さだと思います。

──Ryubokuはどんなユーザーにオススメしたいですか?

加藤 僕のファンの方から“流木は作らないんですか?”ってけっこう言われていたので、ようやくできましたよっていうのはまずあるんですけど、それだけに限らず、ヘヴィレリックのカスタムショップのギターを求めている方ってけっこう多いと思うんですよ。最近はビルダーの方にもファンがついていらして、カイルのファンがカイルの作品として求めてくれると思うし、あと、この何年かいろいろな場所で目にするんです。僕のギターの写真を参考にしてレリックされている方を。ようやく“これ僕のなんですよ”って言えるものができたので、柄としてカッコいいじゃんって思ってもらえるのも嬉しいですよね。


20年数年かけてこれだけの傷をつけて、東京湾に帰ってきた

──ところで、今回のキービジュアルにはストーリーがあるそうですね。

加藤 はい。前作のメイドインジャパンは僕の出身地である鳥取で撮影させてもらったのですが、その鳥取の海から東京に流れ着いた“流木”に再会する…いや、再会するわけじゃないのか。僕も一緒に日本海からぐるっと(笑)。日本海から大西洋、太平洋を渡りながら、20年数年かけてこれだけの傷をつけて、東京湾に帰ってきたというストーリーにしておきましょう(笑)。

──前回は青色のスーツでしたが、今回はピンク色ですね。 

加藤 スカパラにとって大事な色なんです。スカパラは来年、デビュー35周年なんですけど、デビューした時に着ていたピンク色のスーツをリバイバルしたんです。スカパラがそういう節目を迎えるタイミングで、スカパラのライヴで傷ついたギターをシグネイチャーモデルとして出せるなんて感慨深いものがありますね。ビジュアルイメージの撮影の日は天気にも恵まれて、太陽の光がすごくいい感じで、東京湾を照らしてくれたんですよ。鳥取の海の青色とは違う、ちょっとくすんだ東京湾の青色は、傷だらけのRyubokuと合っていますよね。いい写真が撮れたと思います。

──35周年というお話が出ましたが、最後に今後の活動予定を教えてください。

加藤 これからも変わらずに精力的にライヴをやっていきますけど、35年の集大成として、2024年の11月16日に甲子園球場でスカパラ初のスタジアムライヴをやります。

──なぜ甲子園球場なんですか?

加藤 どこでやりたいかと話になった時に、ドームって天井があるじゃないですか。やっぱり天井のない球場がいいということになったんです。スカって音楽は野外で聴いたらやっぱり気持ちいいと思うんですよ。コロナ禍も明けて、せっかくみんな大声を出して騒げるようになったんだから、思いっきり楽しみたいですね。それともう一つ、甲子園独特の昭和感(笑)。小学校の頃に一度、甲子園に行ったことがあるんですけど、はっきりした記憶がないんです。それ以来、大人になってから行っていないので、僕自身、行くのが楽しみで。あの昭和の雰囲気とスカパラの音楽、すごく合うと思うのでスペシャルな日になるはずです。もちろん、それまでの間に海外公演も入ってくると思います。そこでRyubokuを広めていきたいですね。新しいアルバムも作っている最中なので、引き続き楽しませられたらなと思っています。

> 前編はこちら


加藤隆志
1971年鳥取県生まれ。日本だけでなく世界各国で活動する、大所帯スカバンド、東京スカパラダイスオーケストラのギタリスト。2000年に同バンドへ正式加入。メインギターはフェンダーの1965 Stratocaster (Lake Placid Blue)を愛用。
スカパラは、国内に留まることなく世界31ヵ国での公演を果たし、最大級の音楽フェスにも多数出演。その中でも2013年のコーチェラ(アメリカ)では、日本人アーティストとして初のメインステージに立つ快挙を成し遂げている。2019年10月にはメキシコ最大の音楽アワード『ラス・ルナス・デル・アウディトリオ』にて、オルタナティブ部門でベストパフォーマンス賞を受賞。2024年デビュー35周年を迎えた今もなお、バンドのテーマである“NO BORDER”を掲げ、音楽シーンの最前線を走り続けながらトーキョースカの楽園を広げ続けている。
https://www.tokyoska.net/

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