The Rock Freaks Vol.8 | SKY-HI

ROCK FREAKS VOL.8

アーティストとフェンダーによるケミストリーを写真で切り取るエキシビジョンシリーズ「THE ROCK FREAKS」。第8回目は、AAAのメンバーとして、そしてソロで活躍する日高光啓/SKY-HI。


ギターの“何をしてもOK”な感じって、情報過多の時代にとても大切なんだと思う

日高光啓/SKY-HI。AAAという国民的な人気の男女6人組のスーパーパフォーマンスグループのメンバーで、AAA内では日高光啓としてダンスとラップを担当。ソロ活動ではSKY-HIと名乗り、圧倒的なラップスキルに加え、タブーなきリリックと自らが作曲を手がけるクオリティの高い楽曲で日本のラップシーンで重要なポジションを担っている(本取材はSKY-HIとしての活動の一環のため、本稿ではSKY-HIと表記する)。

SKY-HIがギターを弾くようになったのは2年前、2016年だという。その理由と瞬間をハッキリと覚えていて話してくれた。

「2年前に喉の手術をしたんです。で、喉の手術をすると喋っちゃダメだし、歌ってもダメな期間がかなりあるんです。でも、音楽には触れていたい。ただ、曲を作ると歌いたくなるので、普段作曲に使う鍵盤を弾くのもダメだなぁって。それで、できない楽器をやろうと思ったんです。ギターは弾けなかったので、ギターを楽器屋さんに買いに行きました」

楽器屋で見た目が気に入ったというグレッチのギターを購入。喉の手術の後、グレッチのギターと戯れた。「ギターって、弾き方やコードを知らなくても触ると音が出るわけですよ。で、適当に触っていると偶然自分の曲のフレーズが弾けたりして。すごく楽しかったです」と、ギターとのファーストコンタクトを振り返った。その後、SKY-HIのツアーギタリスト・Tak Tanakaからギターを弾くための簡単な理論は教わったという。ギターを覚えた直後に「Double Down」という曲をギターで作曲したこともある。

もちろん、SKY-HIは今でもギターを自宅で弾いている。「ギター、今でも家で弾きますよ。でも、曲を作るために弾くんじゃなくて、息抜きに弾くんです。だから、ギターを触っている間は音楽を趣味として楽しめる時間に戻れるんです。“できない”って尊いですよ」と、今のギターとの関係を教えてくれた。さらにラッパーらしく、的確な言葉で、ギターとの関係を表現してくれる。

「鍵盤を弾いていると、出てきたフレーズを作品にしようとしたりするけど、ギターにはそれがないんです。上手くなっても制作に還元されないし、誰かに聴かせるつもりもないし、見返りを期待しない打算のない無償の愛。それがギターとの関係です」

そんな風にギターと接しているSKY-HIにとって、ギターの魅力とは何だろうか? その質問にもしっかりとした理由を付けて、ギターの魅力をいくつも挙げてくれた。その中で、特に強調していたのが、自由さだ。

「ギターって、フレットがあるけど、フレットレスなエモーショナルで自由な楽器だと思うんです。いうなれば、ギターの本質ってスポーツと遠いところですよね。だから下手でも愛せるし。しかも見よう見まねで弾いても、構造上、酷い音が出ないようにギターってできている。だから、ギターって何をしてもOKな感じがする。で、この“何をしてもOK”な感じって、今みたいな情報過多の時代にはとても大切なんだと思うし、最初は“何をしてもOK”からルールを覚えて、その後に“何をしてもOK”に戻れる人が新しい行動を生み出している気がしますね。ギターで言えばジミ・ヘンドリックス、RAPミュージックでも、カニエやファレルみたいなそれまでの常識を覆すアーティストは多いし、若いアーティストも無しを有りにする人は尊いです。そういう意味では、最初に弾き方を知らずにギターに接したのは良かったと思っています」

そんな風に自由にギターを楽しんできたSKY-HIは、何かに引き寄せられるようにしてフェンダーのStratocasterを手にした。考えてみたら、SKY-HIの学生時代からの友人でもあるUNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介もフェンダーのストラトを愛用しているし、SKY-HIのツアーをサポートするギタリスト、Tak Tanakaもストラト愛用者だ。そういう意味では当然の成り行きとも言える。「それもそうなんですけど、僕が音楽を始めたきっかけはエリック・クラプトンなんです。クラプトンのライブを観て(衛星放送が何か)そのライヴでドラマーのスティーヴ・ガットにしびれてドラムを始めたのが音楽を始めたきっかけなので、フェンダーを手にして“クラプトンに戻ったか”という感じですね」と嬉しそうだ。しかも、SKY-HIは高校時代にいくつものバンドを組み、ドラムを担当していたそうだが、一番想い出に残っている“Jack All Trades”という5ピースロックバンドのギターがフェンダーのストラトを弾いていたので、その懐かしさもあると教えてくれた。

しかし、SKY-HIがフェンダーのギターに辿り着いたのはそれだけが理由ではないと思っている。フェンダーのブランド哲学と、SKY-HIの表現者としての哲学がオーバーラップする。だから、SKY-HIは呼ばれるようにフェンダーのギターに辿り着いた。どういうことか? フェンダーの創始者であるレオ・フェンダーは、街のラジオの修理工だったためギターを弾くことができなかった。弾けなかったからこそ、自由な発想でギターを作ることができた。ボディとネックをネジで接合した構造、ペグがヘッドの片側にしかない構造など、クラシカルな楽器を作ってきた楽器職人にはできない発想だった。レオ・フェンダーは職人としての腕は一流だったが、そうした楽器作りの常識に囚われない人だった。だから自由で、クオリティの高いギターを作ることができた。そんな話をするとSKY-HIが「その話、面白い!」と身を乗り出してきた。「つまり、音楽に純粋な人だったわけですよね? いい音を出すことにこだわるけど、常識には縛られない…」と話しながら、レオ・フェンダーの哲学が自分の表現哲学と重なっていることに気が付いたようだ。SKY-HIのラッパーとしての活動そのものも、自らが音楽監督を務めるライヴの内容も、SKY-HIのすべてが“(音やディテールに)こだわるが(ルールや常識に)縛られない”ものなのだ。

ROCK FREAKS VOL.8

この話をきっかけに、まるで運命の歯車が動き出したように、ギターとラップとの関係を語り始めた。

「僕自身のギターとの関係は、これからも見返りを期待しない、打算のない関係が続くはずです。サラリーマンのお父さんが奮起してギターを始めて、ライヴハウスに立つのも素敵だけど、僕が同じ立場なら、子供や奥さんのためにギターを弾く…そういう生活の中にギターがある感じが理想です。でも、ラップとギターは近づいてきているし、これからも近づいていくと思います。実際、マック・ミラーやアンダーソン・パーク、ポスト・マローンといったラッパーはギターを弾きますし、故リル・ピープなんかはグランジラップと呼ばれるエモーショナルなギタートラックにラップを乗せるスタイルを取っていたりしました。

しかも、今のラップのトラックって手数が少ない音が主流ですが、そのカウンターで、手数の多いトラックが出てくる可能性もあります。そういう時にまたギターの可能性が広がるかもしれませんね」

話していると、ギターの新しい居場所が見えてきた気がする。今の日本のロックは楽曲構成が複雑で初心者がコピーするのが難しい。それでギターの魅力に触れる前にギターをやめてしまう人もいる。だが、ヒップホップのトラックは簡単なフレーズのループでも成立する。それならビギナーでもコピーができる。そこにギターの新しい居場所や可能性がある気がするし、SKY-HIの“こだわるが縛られない”発想の恩恵を早速こちらも受けた気がした。    

SKY-HI自身も何かを閃いた顔をしている。そして、インタビューの最後にこう宣言した。

「俺、『Leo Fender』という曲、書きますよ!」と。その顔はとても真剣で凛々しかった。


日高光啓/SKY-HI
2005年、AAAのメンバーとしてデビューし、同時期からソロ名義「SKY-HI」として都内クラブ等でマイクを握り、活動を始める。レーベル非公認でMCバトルやクラブに出入りする日々が続く。2012年に自身主宰のコラボレーション楽曲制作企画「FLOATIN’LAB」が話題となり、CD化してリリース。KREVA等多数アーティストの楽曲への客演や各地でのライヴも経て、同年の「WOOFI’N AWARD 2012」のベストオブラッパー部門を受賞。

2013年、メジャーデビュー。2014年3月にはファーストアルバム「TRICKSTER」をリリース。同年6月、MTV VMAJ 2014 BEST HIP HOP VIDEOを受賞。2016年1月、2ndアルバム「カタルシス」をリリース。1枚のアルバムの中に緻密に計算されたストーリーと広い振れ幅の楽曲郡、そしてメッセージが詰まったこのアルバムはリリシストとしての力量がいかんなく発揮された。2016年2月から全国7箇所7公演で行われた初の全国ホールツアー「SKY-HI HALL TOUR 2016 ~Ms. Libertyを探せ~」は新たにコーラスも参加し、ソールドアウトとともに成功。音楽業界にSKY-HIの名を知らしめるツアーとなった。2017年1月に3rdアルバム「OLIVE」をリリース。音楽業界はもちろん、業界外からも注目を浴び、SKY-HIのシンガーソングライターとしてのポジションを確立。2018年10月から全国ツアー「SKY-HI Round A Ground 2018」を開催。
› Website: https://avex.jp/skyhi 

ALBUM
JAPRISON
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エイベックス
2018/12/12 Release

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