Signature Model Interview | INORAN -前編-

ヴィンテージを買うんじゃなくて新品から育てたい
つまり、タイムトリップしてみたかった

LUNA SEAのギタリストとしてだけでなく、ソロ、Muddy Apes、Tourbillonなど、その溢れんばかりのバイタリティで日本のロックシーンにおいて鮮烈な存在感を放つINORAN。その傍には必ずフェンダーのJazzmasterがあり、日本人アーティスト初のJazzmasterのシグネイチャーモデル「INORAN JAZZMASTER #1 LTD」を筆頭に、これまで数々のシグネイチャーJazzmasterを発表してきた。待望の最新モデルとして発売される「INORAN JAZZMASTER DESERT SAND」は、1958年製のJazzmasterプロトタイプをベースに、ヴィンテージの美学と最新鋭の技術を融合。アーティストとしての彼の進化も反映した、無類のJazzmasterが完成した。インタビュー前編では、開発に関するエピソードなどを中心に話を聞いた。

自信を持って“これが俺のシグネイチャーモデル”と言えないとダメ

──久しぶりにカスタムショップからの発売ですね。

INORAN 12年ぶりですね。開発に3年ほどかかりました。

──今回は1958年製のJazzmasterのプロトタイプをアレンジしての復刻ですが、プロトタイプに注目した理由について教えてください。

INORAN ひと目惚れから始まり、フェンダーとパートナーシップを組ませてもらう中で僕のJazzmasterの歴史が生まれていって。フェンダーのビルダーと話す中で、ブラックの1号機(INORAN JAZZMASTER #1 LTD)、ホワイトの2号機(INORAN JAZZMASTER #2 LTD)、ブルーの3号機(INORAN JAZZMASTER #3 LTD)と変化していった部分がたくさんあったんです。どれも完成した時は車で例えるなら新車ですけど、それぞれのギターが年を取るごとに変化していくわけですよ。その中で“もっとこうしたい”とか“もっとこうだったらいいのに”という部分が当然あって。そもそも俺、自分のモデルでJazzmasterの全色が欲しいっていつも言うくらいJazzmasterが好きなんです(笑)。
で、たまたま目にしたのが、今回のモデルの原型となった1958年製のいわゆるJazzmaster創成期のプロトタイプで、これは弾いてみたいなと。でも、ヴィンテージを買うんじゃなくて新品から育てたい。つまり、タイムトリップしてみたかった。自分の癖とか特徴に合わせてリカスタムしてもらった1958年製に近いギターを作って、僕の手で育ててみたかったんです。でもね、そうは言っても、大概僕がギターを選ぶ時はルックスですよ。僕のJazzmaster史の中で、ブラッシュアップしたい部分を入れてもらったので3年かかりました。

──原型となったプロトタイプは写真で見たんですか?

INORAN 写真で見ました。たまに見たくなるじゃないですか。ヴィンテージを売っている楽器屋さんのサイトって。で、サイトを見ていたらたまたま見つけて“わっ!何だこれ!”って。見たら1958年製のJazzmasterのプロトタイプで1,000万円を超えていて。あとから聞いたのですが、市場に出ているのはその1本ぐらいで、フェンダー社にも実機は残っていないらしいです。

──そんなレアなギターなんですね! でもフェンダー社にも実機が残っていないということは、仕様がどうなっているのか不明だった?

INORAN そうですね。だけど当時いたスタッフとか資料は残っているので、それらを参考にしているらしいのですが、当時とそっくりそのままではないです。そもそも使えない素材もあって“そっくりそのまま”は無理ですから。

──開発に3年かかったということですが、特に重点を置いたポイントは?

INORAN 3機のシグネイチャーモデルを作らせてもらい、ある程度キャラの違いが揃った中で、ハムバッカーでハイゲインに対応できるJazzmasterを作りたいという想いがあって。なので、ピックアップにはかなり重点を置きました。“マッドサイエンティスト”の異名を持つピックアップ職⼈、カーティス・ノヴァクにオリジナルピックアップを開発してもらったのですが、3回ぐらい作り直してもらったんです。ピックアップだけでアメリカと日本を行き来して。

──なるほど。出来上がったピックアップを搭載して、実際にステージで弾いて…。すごいこだわりですね。実際に使う状況で弾いてみないとわからないですもんね。

INORAN そう。自分の好きなものを手に入れるためにはもちろんそうするんだけど、もっと大事なのが、ギタリストとしてパートナーシップを結ばせてもらう上で、自信を持って“これが俺のシグネイチャーモデルなんだよ”と言えないとダメなわけで。外見だけじゃなくて、中身を進化させていくのも僕らの責任。楽器はファストじゃないし、ずっと使ってほしいし、できればストラディバリウスのように渡り歩いてほしい。そう考えると3年でも短いかもしれないし、逆に言うと3年でここまで仕上げてくれたフェンダー社はすごいなと思いますね。


ギターは生き物。だから飽きないしワクワクが止まらない

──実際にステージで弾いてみて、今まで使ってきたJazzmasterと何が違いますか?

INORAN すべて違いますね。去年、全国41ヶ所を廻ったLUNASEAの35周年ツアーでも弾いたんですけど、ブランニューなギターで弾いているので曲の彩りも変わる。まだこのギターで新しいクリエイティヴをしてないので、音楽を創作することがすごく楽しみです。最初にCustom Shop製でINORAN JAZZMASTER #1 LTDを作った時も、その可能性を知りたくて、ソロアルバム『Teardrop』はそのギター1本で作ったんです。それほどのポテンシャルがこのINORAN JAZZMASTER DESERT SANDには余裕であるので、早くこのギターで新しい音楽を作りたいですね。

──なるほど。

INORAN これからクリエイティヴに移る中で、すごく楽しみなギターです。まだレコーディングで試していないから。これまでの3機のシグネイチャーモデルはレコーディングで弾いているし、ライヴではこういう表情、レコーディングではこういう表情、それぞれマイクの録り方も全然違うから大体わかるんですよ。でも、その年によってどのギターもコンディションが変化するんです。生きているので。捉え方としては工業製品と思っていなくて、ギターは生き物だと思っています。だから飽きないしワクワクが止まらないですよ。

──深いですね。2月の東京ドーム公演でも使いますか?

INORAN もちろん使います。

──こういう曲で使いたいっていう指針はありますか?

INORAN シンプルにハイゲインが欲しい時ですよね。あとは、ギターがその曲に美しく映えるか。まだ具体的には決めていないです。

──ちなみに、今までの3本はそれぞれどんな特徴がありますか?

INORAN 言葉では言い表しづらいですね。でも、例えが貧相だけど兄弟っぽいですよね。長男が絶対に偉いわけでもないし、次男、三男が完成されているわけでもない。やっぱり長男の動きに合わせるじゃない? でも、たまに三男がボーンって飛び抜けることもある。そういう感じですね。

──今回のINORAN JAZZMASTER DESERT SANDで四男が誕生する?

INORAN いや、わからないですよ。意外と長女かもしれないし(笑)。

>> 後編に続く(近日公開)


INORAN
ロックバンドLUNA SEAのギタリストとして1992年にメジャーデビュー。1997年よりソロ活動をスタートさせ、Muddy Apes、Tourbillonなどでも精力的な活動を展開。2010年にはフェンダーとエンドースメント契約を締結し、翌年に日本人アーティスト初のシグネイチャーモデルINORAN JAZZMASTER #1 LTDを発売。その後も2013年にINORAN JAZZMASTER #2LTD, Masterbuilt by Dennis Galuszka、2015年にINORAN ROAD WORN JAZZMASTER、2017年にはソロ活動20周年を記念したINORAN ROAD WORN JAZZMASTER 20th anniv. Editionなど多くのシグネイチャーモデルが発売されている。4月からは初の対バンツアー〈INORAN presents SONIC DIVE 2025〉を開催。日程は、4月5日(土) SUPERNOVA KAWASAKI(w/ASH DA HERO)、12日(土)名古屋CLUB QUATTRO(w/ The BONEZ)、26日(土)梅田CLUB QUATTRO(w/The Ravens)、5月4日(日)水戸ライトハウス(w/THE BACK HORN)、17日(土)渋谷CLUB QUATTRO(w/DEZERT)、18日(日)渋谷CLUB QUATTRO(w/OBLIVION DUST)。
https://inoran.org

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