Special Interview | コーシャス・クレイ

ジャンルを横断した独特なサウンドと繊細なヴォーカルで、楽曲ストリーミング再生回数は通算2億回以上。ギターはもちろん、サックスやフルート、ピアノまで操るマルチプレイヤーのコーシャス・クレイは、テイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュ、ジョン・メイヤー、ジョン・レジェンドなど錚々たる面々とのコラボレーションでも話題のアーティストだ。ニューアルバム『Karpeh』をひっさげて、先月待望の初来日を果たした彼に話を聞くことができた。

Highwayシリーズは、一つ上のレベルのアコースティックの音をめざしている感じがする

──お時間いただき、ありがとうございます。しょっちゅう訊かれていると思いますが、アーティスト名のCautious Clayの由来は?

コーシャス・クレイ(以下:コーシャス) シンガーになる前はDJ兼プロデューサーで、友だちと遊びでDJネームを考えてたんだ。モハメド・アリの出生名がカシアス・クレイで、僕自身も音楽づくりに独特の微妙なこだわりがあったから、「コーシャス(=Cautious、英語で「注意深い」「細かいところに目を配る」の意味)」が代名詞だった。それが由来かな。

──Cautiousと本名のジョシュア、人から呼ばれるときはどっちがしっくりきますか?

コーシャス どっちでもいいよ。どちらも気に入ってるしね。僕の曲には変わりないし。どちらでも構わない。

──じゃあCautiousで!音楽との出会いは?

コーシャス 7歳のころにフルートを始めた。グレッグ・パティロ(Greg Patillo)という先生の下で2年ぐらい教わった。黎明期のYouTubeで爆発的人気を博したすごい人だよ。いろんな意味で彼が音楽を始めたきっかけかな。『アラジン』の影響でフルートが好きだったっていうのもある。蛇遣いがパイプみたいな笛をブォ~って吹くのがかっこよかった。

──いろんな楽器をこなしますが、他の楽器との出会いはその後ですか?

コーシャス メインはサックスとフルートだけど、もちろんギターやピアノも弾くよ。音楽は言語に似ていると思うんだ。言語は無数の類似点や相違点の集合体だろ。サックスもフルートと類似点がたくさんあるから、僕にとってはさほど難しくない。ポルトガル語とスペイン語みたいな感じさ。音楽は言葉と同じ、アイデアもそこから湧いてくる。楽器ありきで音楽が生まれるわけじゃなく、アイデアから音楽が生まれるんだよ。

──影響を受けた人物は?

コーシャス 7歳の時はグリーン・デイが好きだったな。

──グリーン・デイとは意外ですね!

コーシャス 7歳の頃の話だよ(笑)。グリーン・デイ、それからリル・バウ・ワウ、それにアイズレー・ブラザーズ。最初に買ったCDもその3組だね。

──ギターとの出会いは15歳の時だったそうですが、左利きなのに通常の右利き用のギターを、上下逆さまに使ってますよね。どうやってマスターしたんですか?

コーシャス すごく時間かかったよ。長いこと全然うまくできなかった。とにかくギターを構えて、なんとか形にしようと苦心した。でも難しかったね、みんなはこっち向きで弾くけど、僕は逆向きに構えて「こうじゃないな……違う……こうか? こうだ!」って感じ。そうやって自分に合ったプレイスタイルを作っていった。でもおかげでいろんなアイデアが浮かんだ。ギターのほうがアイデアも浮かびやすし、歌いながら演奏もできる。メロディもね。自分のスタイルを開発できたのはすごくいい経験だった。もちろん苦労したけど。19か20歳になるまでは、なかなかしっくりこなかった。

──左利き用のギターを探そうとはしなかったんですね

コーシャス その頃は本気でギターをやるとは思ってなかったんだ。「フルートとサックスが吹けるし、ギターを買うのはいいかな」って。みんなが持ってたのも右利き用だったし、(左利き用に)カスタマイズしたギターを買うのは敷居が高かった。

──たくさん練習しました?

コーシャス したね。ただ問題は、レッスンを受けなかったこと。みんな右利きだったから(左利きで)コードを教えてくれる人がいなくて、それで悪いクセがついてしまった。でもおかげで自分なりの演奏法を編み出すことができたし、握力もついた。ギターは押さえる力がすごく要るからね。ちゃんと演奏できるようになれば、コードもよく理解できるようになる。

──最初にコピーした曲は覚えてますか?

コーシャス ノラ・ジョーンズとアンドレ・3000の「Take Off Your Cool」。ギターを始めて最初に弾いたのがあの曲だよ。最初のころに付き合った彼女の1人に聞かせた(笑)。「あ、これ弾けるかも」って。

──2019年のFender Nextに選ばれていますよね。実はその頃からお名前を伺っていました。Fender Nextに選ばれ時はどんな気分でした? Fenderの印象は?

コーシャス 選ばれてものすごく光栄だった。一番の理由は、僕にとってギターは最初に手にした楽器じゃないけど、すごく思い入れがあったから。だから選ばれたのは自分にとって大きな意味があったし、光栄だった。Fenderギターも大好きだよ。とくに気に入っているのは、カート・コバーンが演奏していたジャガー。ずいぶん前から主にレコーディングの時に使わせてもらってる。

──彼も左利きですよ

コーシャス それも理由かな(笑)。


──さて、FenderのHighwayシリーズの感触はいかがでしょう?

コーシャス 素晴らしいギターだ。余韻もあるし、音もしっかり出る。音の伸びもいい。音色も豊かだ。弾いた時のレスポンスもすごくいい。ネックが握りやすいね! アコースティックとエレキの中間っていうか、一つ上のレベルのアコースティックの音をめざしている感じがする。

──Vintera II 60s Stratocasterのほうは?

コーシャス 感じたのは、どっしりした印象。Fenderはいくつか持ってるけど、これは特に「年季が入った」滑らかな音がする。いつもはリズムギターを弾いてるので、コンパクトで弾きやすいと感じた。ハードルが低くなる分、アイデアも浮かびやすくなると思う。

──どういう風に作曲しているんですか? ギターで? それともピアノで?

コーシャス 大抵はギターとキーボードで作曲する。でも僕はそもそもプロデューサーなので、ギターとキーボードで曲を作った後は、いつもAbletonというソフトウェアを使う。歌ったり、ギターを弾いたりしていると「あ、メロディができた」って感じ。僕はフルートとサックスを演奏するから、メロディが一番楽だね。フルートとサックスはコードとは無関係の楽器だから。

──他のミュージシャンとも積極的にコラボレーションしていますね。

コーシャス ごく最近だと、ベンジーノというラッパーと共演した。あとはBTSのVとも。元々Vが僕の音楽のファンだったみたいで、打診を受けて彼の最新作でフルートソロを演奏したよ。今回のツアーで会う予定だったんだけど、スケジュールが合わなかった。

──今後の活動は? 次はどんなことが控えているんでしょう?

コーシャス 東京公演の後はニューヨークで8公演を予定している。その後少し休みを挟んだあと、いくつか曲を出したり、コラボレーションもするつもりだ。長編TVにもちょっと絡んでて、僕がスコアを担当する。

──では最後に、これから楽器を始めようと思っている人にメッセージをお願いします

コーシャス 始めようと思ったら、あきらめないこと。そしていったん基礎を身に付けたら、自分のスタイルを構築する術を見つけること。楽しくなったら、クリエイティビティを発揮して自分のものにすること。そこが一番大事だね。自分を表現する声を見つけることが大事。そうすれば周りとつながれる。必ずしも曲のメッセージが理解できなくても、なんとなく感じられればいい。僕もそういうところが好きだ。どんな楽器でもね。


コーシャス・クレイ
本名 ジョシュア・カルペ (Joshua Karpeh) 。
1993年にオハイオ州クリーヴランドで生まれ、幼少期から両親の影響で音楽に親しみながら育つ。7歳でフルートを習うことを決意し、ヒューマン・ビート・ボックス・フルート奏者として有名なグレッグ・パティロに師事。高校のジャズ・バンドではサックスをプレイし、ジョージ・ワシントン大学では副専攻としてジャズを学ぶ傍ら作曲とプロデュースを始め、コーシャス・クレイとして楽曲制作をスタートした。ビリー・アイリッシュやジョン・メイヤー、ジョン・レジェンド、レミ・ウルフなど錚々たる面子と楽曲制作やプロデュースで関わるなど、メインストリームで一躍注目を集める存在となった。2023年8月、ブルーノートからメジャーデビューアルバム『カルペ / Karpeh』をリリースし、10月に待望の初来日公演を果たした。
https://www.universal-music.co.jp/cautious-clay/

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