Interview | Shingo Suzuki

MADE IN JAPAN LIMITED DELUXE JAZZ BASS Vは、タイトでバランスの取れた音。特に芯のある5弦の輪郭

1990年代半ばに発売され、その小ぶりで取り回しの良いボディシェイプで鮮烈な印象を放ったAmerican Deluxe Jazz Bass V。近年では、ロバート・グラスパー・エクスペリメントの一員であり、ネオソウルやR&Bシーンの立役者の一人でもあるデリック・ホッジが愛用し、世界中のベーシストから注目が集まるなど、時代を超えて根強い人気を誇っている。そんなAmerican Deluxe Jazz Bass Vのエッセンスを受け継ぎながら、より実践的にアップデートしたMADE IN JAPAN LIMITED DELUXE JAZZ BASS Vが数量限定で発売される。今回は、その開発にも携わったOvallのベーシストShingo Suzukiに、新しく生まれ変わったJazz Bass Vの魅力についてたっぷりと語ってもらった。

American Deluxe Jazz Bass Vはフェンダーの ラインナップの中でも異端児的な存在だった
 

― まずは、ShingoさんがAmerican Deluxe Jazz Bass Vに出会った経緯を教えてください。

Shingo Suzuki(以下:Shingo) 僕は現在、American Deluxe Jazz Bass Vを2本持っています。自分のバンド、Ovallが2013年に一旦活動休止となり、他のアーティストのライヴやレコーディングなどにサポートで参加する事が多くなり、今まで使っていなかった5弦ベースを必要とする機会が増えてきたんです。それで必要に迫られて、Fenderの5弦ベースを探していたところ、たまたま1999年製のアメデラ Vを見つけて購入しました。そして、程なく1998年製も中古で見つけて購入しました。サポートで複数の現場でベースが必要で一気に5弦ベースが2本になりました(笑)。

 その後、ミュージシャン仲間やベーシスト界隈で“5連ペグのAmerican Deluxe Jazz Bass Vいいよね”という話をよく聞くようになりました。しかも、なかなか手に入らないらしいと。どうやら、デリック・ホッジやシャーリー・リードなどのミュージシャンが使っているのをYouTubeなどで見た人たちの間で広がっていったようなんです。例えば、King Gnuの新井(和輝)くんもAmerican Deluxe Jazz Bass Vを見て“それ、探してた!”と言っていたし、他にも森多聞くんや北川淳人くん、堀井慶一さんなど、第一線で活躍されている方々が使っていて、僕は逆に後からこの“5連ペグ”アメデラの貴重さを知ることになりました(笑)。Ovallでは今やこの“5連ペグアメデラ”がメイン機材となっています。

― American Deluxe Jazz Bass Vには、どんな特徴があるのでしょうか。

Shingo とにかく独特で、発売当時はフェンダーのラインナップの中でも異端児的な存在だったんじゃないでしょうか。デリック・ホッジはシースルーのクリムゾンレッドバーストを使用していますが、インパクトが大きいですよね。ボディはJazz Bassを基にしつつも、シルエットを細身にしたディンキーシェイプだし、5弦の5連ペグというところも“カッコいい!”って(笑)。しかも22フレットまであるから、ノーマルチューニングでFまで出すことができる。1998年製のアメデラは特に“John Suhrモデル”として国内外で知られていて、ジョン・サーがFender社にいた頃に監修しており特にピックアップ、プリアンプに特徴があります。

 アクティブ5弦ベースのフェンダーといえば最新のUltraシリーズや、そのひとつ前のEliteシリーズが思い浮かび、90年代のAmerican Deluxe Jazz Bass Vはさらにもう1本、クセのあるベースが欲しい時に手に入れたいベースというか。ただ、デリック・ホッジにとってはAmerican Deluxe Jazz Bass Vがデフォルトらしく、何かのインタビューでAmerican Deluxe Jazz Bass Vのことを“フェンダーのジャズベ”と呼んでいました。僕らにとって“フェンダーのジャズベ”と言えば、1960年代製のパッシヴ4弦を思い浮かべがちですが(笑)。

― デリック・ホッジの魅力についても教えてもらえますか?

Shingo 彼は子供の頃から教会でゴスペルを演奏し、小学校のオーケストラではエレクトリックベースを担当していました。そして中学でコントラバスを手に入れて、高校ではジャズバンド、地元のユースオーケストラで賞をとりました。その後、ジェイムス・ポイザーに出会い頭角を表していきます。大学ではオーセンティックで力強いウッドベースが魅力的なクリスチャン・マクブライドに師事。その後は、コモン、ジル・スコットらと共演したり、R&Bシンガーであるマックスウェルのバックバンドでバンマスを務めたり。僕らが憧れるブラックミュージックのシーンを支え続けている人なんですよね。日本では、ロバート・グラスパー・エクスペリメントの一員としてしばしば来日しており、そこで知った人が多いんじゃないかなと思います。ソロでの活動も続けていて、最近リリースされた『Color Of Noize』ではミュージシャンとしての深さ、素晴らしさに改めて魅せられました。  デリックはミュージシャンの中のミュージシャンというか、ストイックで、“みんなから尊敬されている人”というのが僕の中でのイメージです。プレイはもちろん、とんでもなく高いレベルなのだけど、例えばロバート・グラスパー・エクスペリメントにいる時は、余計なことは一切しない。それでフレーズ、ヴォイシング、トーン、ニュアンスが渾然一体となり、溢れ出る“デリックらしさ”に圧倒されます。

― そんなデリック・ホッジのトレードマークとも言えるのが、American Deluxe Jazz Bass Vなのですね。

Shingo 彼が22フレット仕様のAmerican Deluxe Jazz Bass Vを演奏する時にこの楽器の特徴が垣間見えます。かなり高いポジションでのアルペジオやハイポジションからローポジションに急降下する早いパッセージ、そして、美しいトーンで奏でるメロディ。楽器の特性を生かし切る演奏に見入ってしまいます。そして積極的にEQを使って、トーンコントロールをする。

 現在の楽曲はとにかく音域が広いんです。低音なんて特にグッと下がりましたよね。シンセベースを使っているのも関係していて、4弦では足りない事が多くなってきている。そんな中、American Deluxe Jazz Bass Vを抱えたデリックが、現代の音楽を見事に表現しているのがとにかくカッコいい。さらに言えば、低域から高域までレンジが広く、またバリエーションに富んだトーンが求められる現場でも耐え得るベースが、American Deluxe Jazz Bass Vということですよね。


 
 
アッシュボディにメイプル指板という組み合わせは、 このモデルの“裏の目玉”のひとつかも(笑)
 

― さて、そんな中フェンダーからAmerican Deluxe Jazz Bass Vの特徴や機能を引き継ぎつつも、モダンにグレードアップしたMADE IN JAPAN LIMITED DELUXE JAZZ BASS Vがリリースされます。

Shingo 見た目としては、90年代、5連ペグ期のAmerican Deluxe Jazz Bass Vとほぼ一緒ですよね。アップデートされている部分としてはピックアップとプリアンプが現行モデル、つまりEliteシリーズのエレクトリック回路を採用しているところ。それと、当時はアクティヴのみだったのが、今回はパッシヴと切り替えられるセレクタースイッチが搭載されているところ。電池交換ですが、当時は裏のネジをドライバーで開けないと交換できなかったのですが、このDELUXE JAZZ BASS Vはドライバーがなくても簡単に開けられるようになったのは嬉しいですね。電池は9V×2の18Vにアップデートされています。

 ネックの反りも、American Deluxe Jazz Bass Vは専用の長い六角レンチがなければネックを外す必要があったけど、Deluxe Jazz Bass Vは付属の六角レンチでネックを外さなくても簡単に調整できます。弦のブランド、特にゲージを変えた時などにはテンションが変わるので重宝しますし、日本のように湿気が多いとネックが反れがちですが、その調整もラクです。他にも、細かいところにも様々なこだわりがみられます。

― 例えば?

Shingo 小ぶりなクローバー型ペグ(笑)。当時と同じ形です。このペグの大きさだから、ヘッドも大きくせずに済んでいる。しかも、当時は一部プラスチック製でしたが、今回は金属製に変わり、留め金もしっかりしているので壊れにくく、遊びがないのでチューニングもしやすいです。弦はボディの裏から通すことも、前面で張ることも可能です。僕はあまりテンションを上げたくないので、裏通しはしていませんが、例えば5弦だけ裏通しにしてテンションを稼ぐこともできます。ブリッジはEliteシリーズと同じ使用のHiMass™ Vintage仕様で、このベースととても相性が良い。サテンフィニッシュのネックもいいですね。これ、ベーシストはみんな好きですよね。サラサラで手が引っかからなくて弾きやすいです。ネックはそれなりに太いけど、このサラサラのおかげで違和感なく弾けるはずです。

― 弾いた時の音色はいかがですか?

Shingo 僕が持っている1998年製のAmerican Deluxe Jazz Bass Vは、ハイミッドがブリッと出る感じで、1999年製はドンシャリ。どちらも全体的に甘くて柔らかい音だとしたら、DELUXE JAZZ BASS Vは印象として表にバーンと、バリっと出てくる感じ。膜がかからず、そして張りがある。つまりタイトでバランスの取れた音。特に芯のある5弦の輪郭。それは、プリアンプとピックアップ、そしてブリッジの違いが大きいと思います。しかも、ノイズが少ない。当時はノイズレスと言えど、若干ノイズが気になっていたんですけど、それに比べると遥かに少ないです。現場でのノイズの心配が激減しました(笑)。アクティヴとパッシヴを切り替えられるのも、実践向きです。例えばスタジオワークで突然の要望があった時、“アクティヴでガンガンいっちゃってください”と言われた時も“パッシヴの柔らかい音がいいね”と言われた時も臨機応変に応えられます。パッシブのトーンもネックの量感とブリッジの仕様に対してのディンキーシェイプというバランスのせいか、非常にまとまっていて“使える音”になっています。

― 材質やカラーリングに関しては、どのような感想を持たれましたか?

Shingo アッシュボディにメイプルの指板という組み合わせは、オリジナルのAmerican Deluxe Jazz Bass Vではほとんど見かけないです。この組み合わせが好きなベーシストは多いので、今回のモデルの“裏の目玉”のひとつかも知れない(笑)。で、シースルーのクリムゾンレッドバーストはデリック・ホッジ、ビンテージナチュラルに赤ベッコウのピックガードはKing Gnuの新井くんが使っているAmerican Deluxe Jazz Bass Vと同じなので、ファンの方は要チェックです(笑)、好みの素材、カラーリングを見つけてほしいです。

― このDELUXE JAZZ BASS Vを、どんな人にオススメしたいか最後に聞かせてもらえますか?

Shingo 5弦ベースを初めて弾こうと思っている人にぜひ弾いてほしいです。オーソドックスな仕様になっているし、何より見た目がカッコいいので(笑)、そこに一目惚れした方はチャレンジしてみてください。


MADE IN JAPAN LIMITED DELUXE JAZZ BASS® V

   

PROFILE


Shingo Suzuki
ベーシスト/プロデューサー。2008年、Hocus Pocusなどが共鳴し参加した1stアルバムは、日本のみならずフランスやポルトガルのiTunes HIP-HOPチャートでTOP10入りするなど世界中で大ヒット。その唯一無二のトラックメイキングは世界各国で話題になり、Yahoo!ニュースほか多数のメディアで「2008年最も驚きの新人アーティスト」として取り上げられる。 また、バンドOvallのリーダーとして、mabanua (Dr)、関口シンゴ (Gt)と共に活動。Hocus Pocus、さかいゆう、青葉市子らが参加したアルバムは海外でもリリースされ国内外でロングヒットを記録。 FUJI ROCK、SUMMER SONIC、RISING SUNなど大型フェスにも出演を果たす。さらに、ヒップホップユニットGAGLE × Ovallとしての活動などを経て不動の地位を築くも、2013年ソロ活動に注力するために活動を休止。その後、ソロプロジェクトHipnoticsを始動。 ベーシスト/プロデューサーとして矢野顕子、Chara、KREVA、PES (RIP SLYME)、さかいゆう、藤原さくら、ビッケブランカ、尾崎裕哉、Uru、佐藤千亜妃 (きのこ帝国)、福原美穂、Shing02、七尾旅人、環ROY、ダイスケ、SALU、防弾少年団、PUNPEE、KOJOE、Wouter Hamel、illa J などさまざまなアーティストをサポート。さらに、グラミー受賞アーティストである Snarky Puppy 来日公演のサポートアクトに origami PLAYERS として出演。質の高いオーディエンスを沸かせた。 また、SONY、docomo (カンヌ国際広告祭で3部門入賞)、JAL、JR東海、UNIQLO、JT、ジョンソン、KOSE、NISSAY、日清食品、ASICSのCM楽曲や、MUSIC ON! TVやJ-WAVEのジングル、フジテレビ系ドラマ『僕たちがやりました』の劇伴や、TVアニメ『コンクリート・レボルティオ』挿入歌プロデュースなど多岐に渡るシーンで活躍中。

› Website:http://shingosuzuki.com

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