Ultralist’s Interview | 布袋寅泰

フレーズ、音色、スタイル……そういうことで悩んだり、ギターを辞めようと思ったことはありません。また新しい線を書けばいいんです。

Ultralist’s Interview

Photo : Martin Eito / Interview : Mari Kimura

さまざまな“壁”や“限界”を超えながら、常に新しいことにチャレンジし続ける表現者たち“ウルトラリスト”。フェンダーが新たに提示する“American Ultraシリーズ”の発売を記念し、そんな“ウルトラリスト”たちにスポットを当てるスペシャルコンテンツをお届けする。第2回は、2012年に活動の拠点をロンドンに移し、UK、ヨーロッパ、そしてアジアツアーなど、世界を舞台に精力的にライブを行い進化を続ける布袋寅泰。「何かになりたいのではなく自分になりたい、という一番ハードルが高くて、一番自由な道を選んだ」と、強い志とモチベーションを維持しながら音楽活動に挑んでいる。ロンドンで行われた本インタビューでは、ロックとの出会いから、海外での活動で確信したミュージシャンシップについてなど、ここからの布袋の展開に期待が高まるエピソードの数々をシェアしてくれた。

プロになりたいとかではなく、まずはロンドンに行きたいという願いの方が強かった。
 

―  イギリスが培ってきた音楽の歴史は、布袋さんの音楽人生に影響を及ぼしていますか?ロンドンという街は、布袋さんにとってどんな場所でしょう?

布袋寅泰(以下:布袋)  僕は1962年生まれで、14歳ぐらいの頃にギター、そしてロックミュージックと出会いました。デヴィッド・ボウイやT・レックス、マーク・ボランから、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープルといったハードロック。ビートルズは間もなく解散という頃でしたが、ブリティッシュ・ロックがまぶしい時代です。群馬の片田舎の、ネットも情報もないという環境で育った僕は、音楽を聴くことで世界を旅することができたんです。イギリスの音楽を聴くと、行ったこともないのに煉瓦の街並みが浮かんだし、イタリアのプログレを聴くと、イタリアの壮大な時の流れを感じました。気持ちは宇宙にまで飛んでいきましたからね!音楽を聴くのが夢を見るのに一番の道具だったんですよね。もちろんジェームス・テイラーやイーグルスといったアメリカのロックも聴きましたが、ある日レコード棚の区分けをしたら、90%以上がブリティッシュ・ロックでした。クイーンをはじめ、やっぱりブリティッシュ・ロックの音楽家って、見た目的にもインパクトが強かったし、バンドのコンセプトや音楽もぶっ飛んでいた。夢見がちでファンタジー好きな僕にはピッタリだったんです。ですから、プロになりたいとかではなく、まずはロンドンに行きたいという願いの方が強かった。群馬には飛行場がありませんから、プロになれば、ロンドンへの切符を手に入れられる!そう思ったんです。 それこそあの頃は、クイーンもレッド・ツェッペリンも自家用ジェットで日本までやって来て、JALのハッピを着て登場する。ロックスターはジェットセッターという印象が強くて、それもロックに対する憧れの一部だったんだと思います。そこから仲間とバンドを組んで、東京でデビュー。レコーディングやライブで、ロンドンと東京を行ったり来たりするようになり、自分で部屋を借りて住んだりもしてたんですよ。僕の人生において、20代から、ロンドンとはずっと密接なんです。

―  活動の拠点をロンドンに置いてから約7年。行き来している頃と何が違いますか?

布袋  拠点を置くというのは、家族と移住するということ。ミュージックという目線だけではない、家内と子供のことを考慮した時間を過ごすことになります。僕には、いまだにたくさんのファンの方が日本にいてくださるから、こうやって冒険をしながら、帰る場所があるというのはとてもありがたいことです。

―  ロンドンに活動の拠点を移されてから、ミュージシャンとしてのゴールは変わりましか?

布袋  若い頃はお金もないし、成功が一つの目標でもありました。日本一になるとか、レコードが売れてチャート1位になるとか、武道館でライブをやるとか。そういった夢を一つ一つ叶えていくと、別にそれがゴールじゃないなということに気づくわけです。そして、あっという間に20代、30代、40代が過ぎ、50代を迎えた今の目標は、まずは自分らしくありたいということ。納得のいく音楽を作り、それを日本だけではなく、多くの国と、文化が違うオーディエンスの前で披露していきたいです。僕の音楽が多くの人に伝わった時、自分がやってきたことを肯定できるんじゃないかと思っているんです。ビルボードのナンバーワンになりたいとか、ウェンブリー・スタジアムでライブをやりたいといった目標はもうありません。ロンドンに移って来て、思い通りにいかなかったり、イライラする事もありますよ。でも、少しずつチャンスが自分に微笑んでくれるというか、7年目にして伝わりはじめたかな?という気がします。そして、イギリスに来たからこそ見えた世界や、日本に留まっていただけでは見えなかったであろう、もっと大きな未来というのが、ここにはあると思っています。

―  ロンドンという、母国ではない土地での音楽活動をする中で、困難もあったと思います。

布袋  「日本で成功した」という肩書きがあるのは、強みでもありますが「日本のスターね。Big in Japanね」というスタートにもなってしまいます。現在では、YouTubeやインターネットで僕のアーカイブを見ることができますが、昔のものばかりを見ていただいても困るんです。日本で何千万枚売れたという事実が、僕の音を伝えてくれるわけではありませんから、これまでのキャリアに頼らずに、今の自分の音を地道に伝えていこうと、始めから決めていました。日本とイギリスは、ミュージック・ビジネスのあり方がまったく違いますし、それは1年滞在しただけで分かることではありません。ヨーロッパ・ツアーやロンドンでのライブ、そしてリリースといった経験を重ねて、5年位経った頃に、なるほどねといった感じです。悔しい思いも一度だけではなく何度も繰り返して、それを乗り越えることが出来た時、ギタリストとしての説得ができたということになるんです。ですからロンドンに来てタフになったと思いますし、物を受け入れる力もついたと思います。日本では、スタッフが荷物を運んで、弦を張り替え、ギターのセッティングもしてくれます。実際、僕はスタジオやライブ会場に行けば事が成り立ちます。しかし、ロンドンではそういう訳にはいきません。でも、こうして自分で何でもコツコツやることは楽しいですし、明らかに7年前よりも音楽力が上がりました。音楽家として、人間としての成長が実感できるのは、東京よりも不便なロンドンにいるからだと思います。


 
 
 
僕はもともと、うまくなりたいと思ってギターを弾いてないんです。
 

―  最近何か新しいことにチャレンジしたり、挑戦したことはありますか?

布袋  一昨日、生まれて初めて6弦ベースを買いました! パリで出会ってしまったんです。こうしてキャリアが長くても、ギターを持つ気持ちは未だに新鮮です。音楽は自分の肉体から生まれる表現ですから、いきなりここでヒップホップを作るとか、ロンドンに来たからといって、音楽のスタイルが変わるはずはないんですよ。年齢も年齢ですしね。でも、テクニックや感覚といった部分を含め、年を重ねるほど蓄えられることや成熟している部分がありますから、いろいろなチャンスが巡ってきた時、それを掴む力は確実にあると思っています。自分のインスピレーションや感覚を信じて、いろいろなことにチャレンジし、オールマイティでいたいですね。

―  弾きやすいギターよりも、個性的なギターと会話しながら演奏していきたいと以前おっしゃっていましたが、ギターをマスターする前、つまり、まだギターを学んでる段階で、難しいなと思った経験はありますか?

布袋  僕はもともと、うまくなりたいと思ってギターを弾いてないんです。気持ちよくなりたい、格好良くなりたい、 いつもストレンジでありたい、サムシング・ニューでありディファレントでありたい。 ギタリストっていうのは、そうあるべきだと思います。エリック・クラプトン好きがクラプトンになりきるのはいいけれども、クラプトンとジャムすることになったら、クラプトン本人にはかないませんよね。個性は大事ですが、奇抜なだけではなく、聴いている人の胸に届く音やフレーズを奏でたいじゃいですか。 そのためには、いろいろな音楽を幅広く聴いて、吸収することが大切。ソロ・アーティストとして、作品作りの過程で自分を反映するものが見えなくなったり、時には人間としての自分が何を求めているか分からなくなる時もあります。そんな時、自分に答えを出してくれるのはギターなんです。どんなに迷っても、ギターを持って1時間もいれば、やっぱり新しい音楽が生まれます。14歳から57歳と、ずいぶん長い間ギターを弾いていますが、飽きたことはないです。一昨日また買っちゃったぐらいですから、よっぽどギター好きなんだなと、自分で思います。

―  壁にぶち当たった時、何かに限界を感じた時に、それを乗り越えるためにはどうしたら良いでしょうか?

布袋   いい加減なわけではないけど、気にしないことですね。考えすぎてもどうしようもないこともありますから。もちろん、生きていたらクリアにしなければいけない問題はたくさんありますが、ギターや音楽をやっている上での問題というのは、悩んでくよくよしたところで急にうまくなったり解決したりはしません。やっぱり自分が選んだ道だし、プロフェッショナルとして生きる上で、僕はすぐに切り替えますね。フレーズ、音色、スタイル……そういうことで悩んだり、ギターを辞めようと思ったことはありません。気持ちをニュートラルにして、また新しい線を書けばいいんです。

―  そろそろ活動40周年が見えてくるころですね。

布袋  ギターを始めた時、40年後もギターをやっているなんて思いませんでしたからね。振り返れば、いろいろなストーリーがあります。60年代生まれの僕は、当初お金がなくてフェンダーには手が届かず、一万円のコピーモデルのギターを買いました。それは70年代のもので、その当時は新品でしたが、今やそのギターもビンテージ。こないだパリで買ったギターも1963年生まれで、僕よりも一つ年下。そして、家内と同い年のビンテージのギターです。僕たちもそろそろビンテージ!?と考えるとちょっと寂しいけど、逆に言えば味が出るころ。これからは、そんな風に自分を楽しみたいとも思っています。

―  ロンドンを拠点に活動されている布袋さんの姿は、多くの音楽家に刺激とインスピレーションを与えていると思います。特に、ギタリストを志す若者へアドバイスをいただけますか?

布袋   一番のアドバイスは、僕のアドバイスなんか聞くな!ってことですかね(笑)。弾き語りや独奏ではない限り、ギターは誰かと一緒に演奏する楽器ですからね。観客を気持ちよくさせる前に共にプレイするミュージシャン同士が気持ちよく、楽しくなければいい音楽は生まれません。そういうところを勉強してほしいなと思います。部屋に閉じこもって自己練するのもいいけれど、スタジオに入って仲間と練習したり、いつもとは違う人とセッションすることで、一人では気づかない方法が見えてきます。相手を気持ちよくするとそれが自分に返ってきて、自分のプレイも高まるんです。自分ばかりが気持ちよくなって自己陶酔しちゃうと周りが引いちゃって、アンサンブルの鳴りがどんどん悪くなるものです。 僕はソロアーティストですが、ロンドンでは一人のギタリストとしてさまざまなセッションに参加しています。僕がどんなギタリストなのか相手が知らなくても、オープンマインド精神で接して、周りの音をしっかり聞き受け入れながら、一つ一つの音に反応していくと、音楽がどんどん広がっていくんです。そうなると、自分は強いと思っています。なぜなら僕には僕のスタイルがあるし、人を楽しませることを知っていますから。オーディエンスが100人であろうと5万人であろうと、僕は皆をハッピーにしてきた歴史がある。まずは、自己主張する前に、「誰かを気持ちよくする」ということを優先して弾くべきだと思います。誰かとジャムをするにしても、ボーカリストの場合は言葉やキー、文化や思想など、いろいろなものが関わってくるし即興的なセッションは難しいけど、ギタリストはどんな楽器とも一緒にやれます。ジャンルや言葉の壁などない。そこはギタリストの特権ですよね!むしろ僕は、それがしたくてギタリストの道を選んだのかもしれません。


AMERICAN ULTRA TELECASTER®

フェンダーのUSA製ラインナップの新しいフラッグシップとなるUltraシリーズは、卓越したプレイヤー向けのハイエンドスペックを満載しています。ミディアムジャンボフレットを装備した10〜14インチのコンパウンドラジアス指板をフィーチャーした独自Modern Dシェイプネックは、丁寧なエッジのロールオフ加工が施され、ボディとネックヒール部には新たなコンター加工を採用。まるで体の一部に溶け込むような快適な弾き心地を実現しています。

 

PROFILE


布袋寅泰
日本を代表するギタリスト。日本のロックシーンへ大きな影響を与えた伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビューを果たす。 プロデューサー、作詞・作曲家としても才能を高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督からのオファーにより、「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」 が映画『KILL BILL』のテーマ曲となり世界的にも大きな評価を受け、今も尚、世界で愛されている。2012年よりイギリスへ移住。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年海外レーベルSpinefarm Recordsと契約。その年の10月にインターナショナルアルバム「Strangers」がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2018年10月にはベルギー、フランス、スイス、イタリア、イギリス5カ国でのヨーロッパ・ツアーを開催。2019年の5月29日に「ギタリズム」シリーズ最新作となる『GUITARHYTHM Ⅵ』が発売され、全24公演からなる「HOTEI Live In Japan 2019 ~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」は全公演ソールドアウト。そのアンコールツアー9公演が2019年12月からスタートする。
› Website:http://www.hotei.com/

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