Special Interview | 加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ) -前編-

ヴィンテージのStratocasterファンにも一度触ってみてほしい

デビュー以来、国内に留まることなく世界31ヵ国での公演を果たし、〈コーチェラ・フェスティバル〉など世界最大級の音楽フェスにも多数参加する東京スカパラダイスオーケストラ。そのギタリストである加藤隆志が、長年に渡りメインで使用してきた65年製のStratocaster®、通称“流木”をもとに本人監修によりヴィンテージスタイルを追求して開発されたシグネイチャーモデル「Takashi Kato Stratocaster」が完成。インタビュー前編では、開発エピソードやこだわりを中心に話を聞いた。


色とラッカー塗装にはすごくこだわりがあります

──まずは、Takashi Kato Stratocasterの開発に至るまでのエピソードを教えてください。

加藤隆志(以下:加藤) 開発がスタートしたのは2年くらい前なんですけど、もう少し遡って話すと、僕のトレードマークにもなっている65年製のStratocasterは、2000年にスカパラに正式加入する前からずっとその1本でここまでやって来たというギターです。だけど2017年くらいから、ワシントン条約などの都合によって海外ツアーにヴィンテージのギターを持って行きづらくなって。それからフェンダーの現行モデルを海外ツアーで使用していく中で、65年製のヴィンテージ以外のギターをほとんど初めて弾いたのですが、現行のStratocaster(American Professional Stratocaster)もすごく進化していて使い勝手が良くて、今のギターも素晴らしいなっていう印象を持ったんです。

──ええ。

加藤 そのあと、フェンダーさんからメイドインジャパンのモデルにも力を入れていると聞いて、MADE IN JAPAN HERITAGEシリーズやフジファブリック山内君のモデルを触らせてもらったのですが、それもすごく良くて、メイドインジャパンの良さを日本から海外に向けて発信するのはすごく面白いなと思ったんです。で、MADE IN JAPAN HERITAGEシリーズのLake Placid Blueの65年製モデルを、僕に担当させてもらえないですか?という話が今回のシグネイチャーモデルのベースになってます。それから加藤隆志のモデルとして、20年以上前にあのギターを買った時の状態を再現したら面白いんじゃないかなと。97年に購入したので、その時すでに生産から32年経った65年製のヴィンテージをコンセプトに仕上げました。

──ベースになった65年製のストラトはどんな感じだったんですか?

加藤 購入する時に、楽器屋さんで59年製とか62年製とか63年製のモデルも弾いたのですが、65年製のモデルが一番元気が良くて。ロックサウンドとしては、僕の中では一番ハマりが良かった。枯れすぎていなくて、すごく元気が良かったのが購入した理由だったんですね。
あとあと考えると、僕が若い頃に聴いていた音楽って70年代前半のロックなんですよ。テレヴィジョンのリチャード・ロイドやロバート・クワイン、トーキング・ヘッズとか、ニューヨークパンクのちょっと枯れていてパンキッシュなストラトサウンドがすごく好きで。だから逆算して考えると、70年代前半のロックを奏でているミュージシャンは、60年代中盤のギターを使っている人が多いんだろうなって何か納得したんです。マシュー・スウィートのバックでロバート・クワインがガンガンに弾きまくっているけど、“あ、ストラトってこういう音がするんだな”みたいな発見もあって。エリック・クラプトンのストラト観と、自分のストラト観ってまた違うんだなと。

──確かに違いますよね。枯れているけどエッジが立っているというか。

加藤 太いですよね。だから僕のストラト観はちょっとやさぐれているんです。

──その音像を新品で出すために、どうこだわったのですか?

加藤 いくつかポイントがあります。まずはラッカー塗装にこだわりたかった。ラッカーでかなり薄く塗装してあって、弾き込んでいくうちに傷がついていくのが自分の中では当たり前で。サウンド面でも塗装が薄いほうが好みなので、極力薄いラッカー塗装にしてあります。あとは、経年劣化で日焼けした緑色がかった感じというか、30年間で焼けてきたLake Placid Blueを表現したくて、その色はかなりこだわりましたね。何種類も色を作ったのですが、ターコイズとレイクプラシッドのちょうど中間に落ち着きました。USAにもない色で、新品のレイクプラシッドとも違う、使い込んだカラーを再現しています。傷は勲章みたいなものなので、自分でつけてください(笑)。オリジナルカラーの名称は、スカパラの“パラダイス”から取って“Paradise Blue”にしました。

──この色を決めるのだけでどのくらいかかったんですか?

加藤 半年以上はかかりましたね(笑)。自分の65年製のギターの中を開けると、当時の色がちょっと残ってるんですよ。それも参考にしながら“ああでもないこうでもない”と開発したので、色とラッカー塗装にはすごくこだわりがありますね。

日本製の中でやれる最大限のことをやっています

──二つ目のこわだりは?

加藤 ピックアップです。ピックアップはこの数年間けっこうハマっていて。ハマり始めたきっかけは2016年の横山健さんとのコラボです。健さんとのコラボでハムバッカーの面白さを知って。本当にずっとシングルコイルしか弾いてこなかったので、ハムバッカーというのは全然違う生き物なんだなと(笑)。それからピックアップに興味が湧きはじめて、本来のストラトに載っているピックアップよりもちょっと強めで、弾き心地の良いピックアップを探して…ようやく行き着いたのがこのピックアップなんです。
ライヴで使う上で、ヴィンテージのピックアップももちろん良いんだけど、もう少し今の音楽にも対応できるというか、ハイゲインアンプに突っ込んだ時もハウリングを起こさない、強さのあるものが必要だと常々思っていました。若い世代のミュージシャンの音作りを聴いていても、完全なるヴィンテージスタイルではなくて、現代のアンプにも対応できるピックアップが必要じゃないかなと。で、このピックアップはリアを強めに巻いています。
あと、ずっとヴィンテージの弾き心地が出ないかと試行錯誤をしていたのですが、ハンドワウンドがすごく大事なポイントであることに気づいたんです。今回は値段を高くし過ぎたくなかったので、ハンドワウンドではなく機械で巻いているのですが、ハンドワウンド風に機械で巻くレシピを開発してもらったんですよ。なので、ヴィンテージを知っている人なら“この弾き心地わかる!”“このピッキングニュアンスわかる!”と思うので、ぜひ一度弾いてみてほしいですね。ピッキング時のレスポンス、ニュアンスが明確に出るタッチの良さや速さが、機械巻きとハンドワウンドでは全然違うので。

──3点目は?

加藤 生音へのこだわりです。ギター本体が震えて鳴る感覚を、自分にとってのエレキギターの大事なポイントとして持っていて。65年製のストラトで自分好みの調整具合を追求した時に、ネックのジョイント部分が経年劣化で少し沈んでいるのがわかって、実はそれがサウンドに影響しているのかもしれないと。約1ミリ、わざとネックポケットを深くして、ネックがボディに沈むような形にしてあるんです。それでボディへの振動がより伝わって弦振動が向上しています。あと、弾き心地は新品のフェンダーのギターよりも少し柔らかいタッチなので、弦を押さえた感じがすごく柔くて弾きやすいと思う。女性にもテンションが低いほうが弾きやすいと思いますし。あとはロゴです! 一時期しか存在しないロゴなんですよね?

──はい。1964年後期から1965年中期までに使用されていたパテントパターンのトランジションロゴで、日本製では初となります。

加藤 つまり、日本製の中でやれる最大限のことをやっています!

──シグネイチャーモデルの場合、例えばルックスでその人の特徴的なものを入れると思いますが。

加藤 見た目は普通ですもんね(笑)。いわゆるアーティストモデルって、個性を出して形が変わっていたりピックガードを変えたりしますが、僕は逆です。どストレート。ストラトファン、フェンダーファンに向けて作りました。僕もフェンダーファン、Stratocasterファンの一員なので一緒にオフ会をしたいくらいです(笑)。大々的に言いたいのは、ヴィンテージのStratocasterファンにも一度触ってみてほしい。触ってみてもらわないと、このフィーリングはわからないかもしれない。

──聞いた話だと、加藤さんは“むしろ自分の名前はなくてもいい”と話していたとか。

加藤 そうですね。それは提案させてもらったのですが、さすがに“このギター何?”って話になるので(笑)。Takashi Kato Stratocasterとモデル名に僕の名前が入っていますけど、MADE IN JAPAN HERITAGEシリーズの延長線上にある、65年製のヴィンテージストラトモデルとして見てもらっても全然いいと思う。僕はどちらかと言うとクラシカルなもの以外は苦手で、古き良きギターをずっと使うタイプなので。フェンダーの伝統が残っているものが好きだし、現行のフェンダーの中でもそういうモデルを選ぶかな。ただサウンド面はすごく現代を意識しているつもりだし、ピックアップのチョイスにしても音楽はどんどん進化しているので、そこに古き良きものをどう融合させるかという話になってくると思うんです。自分なりにそれを意識すると、今回こういうモデルになったという感じですかね。


加藤隆志
1971年鳥取県生まれ。日本だけでなく世界各国で活動する、大所帯スカバンド、東京スカパラダイスオーケストラのギターリスト。2000年に同バンドへ正式加入。メインギターはFender 1965 Stratocaster (Lake Placid Blue)を愛用。
スカパラは、国内に留まることなく世界31ヵ国での公演を果たし、最大級の音楽フェスにも多数出演。なかでも、2013年のコーチェラ(アメリカ)では日本人アーティストとして初のメインステージに立つ快挙を成し遂げている。2019年10月にはメキシコ最大の音楽アワード『ラス・ルナス・デル・アウディトリオ』にてオルタナティブ部門でベストパフォーマンス賞を受賞。新たなフェーズへと進んだ今も尚、バンドのテーマである“NO BORDER”を掲げ、音楽シーンの最前線を走り続けながらトーキョースカの楽園を広げ続けている。
https://www.tokyoska.net/

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