Cover Artist | JQ(Nulbarich)-前編-
この Stratocasterを指弾きした時、ジョン・メイヤーになれるような音がした
シンガーソングライターのJQが主体となり、ヒップホップやファンク、アシッドジャズなどブラックミュージックから影響を受けた極上のメロディーとサウンドを奏でるNulbarichが、FenderNewsのCOVER ARTISTに登場。自らを“ギタープレイヤーではない”と話すJQとギターとの関係性とは。インタビュー前編では、ギターを始めたきっかけや、新たな可能性を秘めたAcoustasonicシリーズについて話を聞いた。
ギターほど個体差がある楽器はない。魅力はそこかもしれないですね
― まずは、ギターを始めたきっかけから教えてください。
JQ 厳密に言うと始めてないんですよ(笑)。ギタープレイヤーというよりも、作曲するにあたってギターが必要だから手に入れた、という感じです。というのも、DTMで唯一打ち込めないのがギターなので。コードを弾いたりちょっとカッティングを弾くくらいなら、自分でやれると思って買ったのが始まりです。
― ギターを弾く前、他の楽器はやっていましたか?
JQ 小さい頃にピアノを弾いていました。それから吹奏楽部に入ってドラムを始めて。学生時代はバンドでは全部ドラムでしたね。作曲するにあたってはピアノから始めたけど、ギターはどうもできなかったんです。ライヴでもちょっとした弾き語り程度のものしかできないのに、ギターへのこだわりはエグいんです。メンバーのギターにも口を出すので(笑)。DTM目線になっちゃうんですよね。ギターほど個体差がある楽器ってないと思っていて。生々しいし触る人によっても音が違うから、一番差が出ると思うんです。ギターの魅力はそこかもしれないですね。
― 作曲でギターを弾くようになったのはいつからですか?
JQ 曲を作り始めてからなので、ギターを触って10年くらい経ってから。僕はギターの場合、大概ルート音と3度を弾いて曲作るんです。そこにメロディを乗せていきます。
― 今ギターは何本お持ちですか?
JQ 3本ですね。今日持ってきたStratocasterと、もう1本StratocasterとTelecaster Thinlineです。
― 今日持ってきていただいたのはFender Custom Shop製のストラトですね。どういった経緯で購入を?
JQ ジャケ買い(見た目)ですね。ボディのレリックの下からペイズリー柄がちょっと顔を見せているところがたまらないですね。僕はわりと指弾きでタッチが弱いので、この Stratocasterを指弾きした時にジョン・メイヤーになれるような音がしたんです。キタッ!みたいな。
― このストラトはどんな時に使っていますか?
JQ 作曲とたまにライヴです。でも、音楽をやる時はわりと持ち歩いていますね。リビングでもどこにいる時でも、ご飯を食べている時も持っているかもしれない。
― ギターは肌身離さず?
JQ そうですね。鍵盤は持ち運べないじゃないですか。レコーディングスタジオでピッチを確かめるミニ鍵盤で作曲をしても、テンションが上がらないんです。実は僕、アンプにつないでいないエレキギターの生音が好きなんです。雰囲気が出るので、アコギよりも作曲のモードに入りやすい。リビングでテレビを観ながらチルっている時、ギターを鳴らしながら鼻歌を歌っていると作曲モードに入りやすいというか、“かっちょえぇ俺”みたいな(笑)。アンプにつないでいないエレキの音が、一番その気にさせてくれる。
― 練習したい人には物足りないと思いますが、JQさんの場合はインスピレーションを求めているんでしょうね。
JQ そうですね。ギタリスト目線ではないけれど、弾いた時に左手の指に残る振動が好きなんです。アンプにつなぐと、その感覚が鈍くなるじゃないですか。なのでアンプなしの時の左手を敏感にしています。やっぱりバイブレーションなんですよね。指先でそのフリクエンシーを感じる、という感覚で言うと、音というよりは波動ですね。
ミックスしたのはあくまで過程で、アコスタはそれによって生まれた新しい楽器
― 今日はAcoustasonicシリーズのTelecaster、Stratocaster、Jazzmasterの3本を弾いてもらいましたが、テレキャスター(American Acoustasonic Telecaster)を選ばれましたね。
JQ ストラトは2本持っているので、エレキの部分はそんなに重要視していないのと、アコースティック部分の音がアンプにつないだ時に一番それっぽかった。あと、ちょっと乾いた音のほうが僕は好きなんです。ライトだけど生っぽいのがテレキャスだったので、好きなアコギの音色はこれが一番かなと。小ぶりだし持ち歩きやすいし。ストラトも良くて迷ったけど。
― アコスタは、エレキとアコースティック共存の便利さに惹かれる人と、まったく新しいギターとして惹かれる人がいますがJQさんは?
JQ 後者な気がするな。めちゃめちゃ良く言えば、両方の美味しいところを取っているんですけど、めちゃめちゃ悪く言うと両方の良いところを削っている訳じゃないですか。なので、この楽器はどっちに振れるのか、みたいなところに興味がありますね。エレキの要素を取り入れたアコギであって、アコギの要素を取り入れたエレキでもあるので。とは言え、ただの便利楽器であって実戦的ではないと言ったらそうではなくて、アコスタにはアコスタの良さがこれから見出されていくと思う。だって、どちらにも出せない音を出せるじゃないですか。2つの要素を取り入れて、新しい音を開発したってことだと思うので。要はミックス犬ですよね。チワックスみたいな。僕、チワックスを飼っているので(笑)。その良さを探すということですね。ミックスしたのはあくまで過程で、アコスタはそれによって生まれた新しい楽器だと思います。
― やはり新しい楽器なんでしょうね。
JQ ええ。でも迷惑! 楽器って沼じゃないですか? 沼が広がったから迷惑です(笑)。別の沼を用意されても。
― エレキ沼とアコギ沼があったのにまた別の沼が出てきたと。
JQ そう。ハイブリッド沼ができたから(笑)。両方を目指すくらいのレベルだったら、たぶんこの価格帯で出さないじゃないですか。フェンダーさん、また新しい沼を用意しているんですよ。便利なものが出ましたよ、っていうキャッチフレーズを使いながら沼らせにきている気がしますね。
― どんな新しい音をアコスタで出してくれるのか楽しみです。
JQ そうですね。もっと面白い新たなジャンルができるくらい発展していくと面白そうですね。ミュージシャン側も、脳みそをフレキシブルにしていかないと。この曲ってアコギだよね?とか、エレキだよね?とか、同じようにアコスタが入ってくる余白を作っておかないとダメですね。
› 後編に続く
Nulbarich
シンガーソングライターのJQ(Vo)がトータルプロデュースするNulbarich。2016年10月、1stアルバム『Guess Who?』をリリース。その後、わずか2年で日本武道館でのライヴを開催し即ソールドアウト。中国、韓国、台湾など国内外のフェスへも積極的に参加。生演奏、またそれらをサンプリングし組み上げるという、ビートメーカー出身のJQらしいスタイルから生まれるグルーヴィな音は、バイリンガルなボーカルと溶け合い、エモーショナルでポップなオリジナルサウンドへと昇華。「Null(何もない)」けど「Rich(満たされている)」。バンド名にも、そんなアンビバレントなスタイルへのJQの想いが込められている。2021年10月より全国ツアー〈The Fifth Dimension TOUR 2021〉を開催。
https://nulbarich.com