Cover Artist | 折坂悠太 -後編-
いろいろな手段で人と関わりたい、そういう願望が自分の中にある
昨年にリリースされた3rdアルバム『心理』では、ライヴサポートを務める“重奏”のメンバーを迎え、日本民謡やジャズなどさまざまな要素を取り入れた唯一無二のサウンドスケープを奏でている折坂悠太。インタビュー後編では、10月17日より全国10都市を廻るツアー〈折坂悠太ツアー2022 オープン・バーン〉への意気込みや、楽器を始めたばかりの初心者へのメッセージなど、じっくりと語ってもらった。
キャンプファイアーの遊びみたいな出来事を、もっと日常的に起こしていきたい
──10月17日より全国10都市を廻るツアー〈折坂悠太ツアー2022 オープン・バーン〉が始まります。これはどんな内容になりそうですか?
折坂悠太(以下:折坂) まず、タイトルを“野焼き”という意味を持つ〈オープン・バーン〉にしたのは、2022年がかなり波乱の年だったから。2月に戦争が始まりさまざまなフェーズが変わっていく、こんな時に“常に前向きに考えろ”というのは難しいことだと思うんです。なので、ツアーも何か明るいことをパーっとやるというよりは、イメージしているのはキャンプファイアーみたいなことなんです。
──キャンプファイアーですか。
折坂 小さい頃、キャンプファイアーを囲んでゲームをやったりリクリエーションをしたりしたことって、きっとみんなあると思うんです。誰かが中心に立っていて、その人の指示で動くのではなく、キャンプファイアーの周りで参加者がともに何かをするっていう。そういう人との関わり方が今はしっくりくる気がしていて。
例えば私がライヴを開催すれば、普通その中心にいるのは“演奏をする私”ということになりますが、今回のツアーではあくまでも自分はホスト役というか。真ん中には何かキャンプファイアーみたいなものがあって、私も含めてみんなでその周りに集まり、その空間でしか得られない関係性を作り上げる。そんなライヴになったらいいなと思い〈オープン・バーン〉と名付けました。なので、“頭よりも先に体が動く”みたいな感じのライヴにしていきたいですね。
──昨年6月に開催されたワンマンライヴ〈折坂悠太単独公演2021<<<うつつ>>>〉でも、視覚や嗅覚などに訴えかける演出を織り混ぜたり、同年10月からの〈心理ツアー〉では、ホール会場を舞台に観劇にも近い音楽体験を提供したり、常にユニークな試みをされてきました。今回のツアーはそれらとの連動性もありますか?
折坂 一緒にツアーを廻る“重奏”のメンバーと奏でるサウンドそのものは、かなり熟成してきたといいますか。より一つになった気がするので、引き続きそこの部分は追求していきたいと思っています。とは言え熟成させるだけだと面白くないので(笑)、何かそれを壊す要素もライヴの中にあるといいなと。
例えば、キャンプファイアーのゲームで私が覚えているのが、最初は友達同士で輪になっているんですけど、ゲームの中でその輪を乱され、気づいたら全然仲良くない人と手を繋ぐ羽目になる、みたいなもの(笑)。何となくイメージしているのはそういう感じ。ライヴの中で、何か新しい関係性が見えてきたら面白いんじゃないかと思っています。それを具体的にどうやるかは悩み中ですが(笑)。
──先ほど折坂さんは“2022年は波乱の年”とおっしゃいましたが、ここ最近は本当にさまざまな問題が起きて、それに対する意見の対立や分断がどんどん深刻化しているように感じています。そんな中、音楽を介して人々が再びつながることができたらとても素敵だなと。キャンプファイアーのリクリエーションを例に出した今回のライヴでは、何か予想もしない幸福なハプニングが起きる可能性を感じます。
折坂 そうなるといいなと思っています。私は今年、33歳になったのですが、放っておくと体も心も保守的になっていくというか。疲れたり乱されたりしないような行動をついしてしまいがちなのですが(笑)、そうすると違う意見の人と話さなくなってしまったり、見たくないものや知りたくないものをシャットアウトしてしまったりするんですよね。おそらく戦争が起きてしまうのも、そういうことの先にあるような気がしていて。今話したような、キャンプファイアーの遊びみたいな出来事をもっと日常的に起こしていきたいと思っています。音楽にはそういう力があるし、その可能性を諦めずにいたいです。
──“火”はクリエイティヴの象徴とされています。“オープン・バーン”とは、一度燃やしてそこから新たなものを生み出す場とも捉えることができますよね。
折坂 はい。今年の春頃に『薮IN』という本を執筆したのですが、そういう自分側から見た何か、みたいなものにがんじがらめになって辛い気持ちだったので(笑)、一旦その“藪”をワーッと燃やして広場を作り、再びそこに集まるといったような意味合いも〈オープン・バーン〉というタイトルには込められていますね。
ギターの上達には、“絵が浮かんでいる”ことが大切
──折坂さんは音源やライヴだけでなく、書籍の出版などさまざまな形でご自身を表現されています。それぞれの違いや共通点についてはどのように考えていますか?
折坂 何をやるにしても、始める時にはいろいろな思いがあったはずなのですが、作り終えてしまうと忘れてしまうんですよね(笑)。“出てきたものがすべて”というか。ただ、そうやって何か形になっているということは、音楽ももちろん好きだけど、それだけだとやっぱり取りこぼしてしまうものが出てきているのかなというふうには思います。もちろん、一つの表現で語り尽くすことも美しいことだと思うのですが。いろいろな手段で人と関わりたい、そういう願望が自分の中にはあるのだと思います。
──昨年の〈心理ツアー〉は同名アルバムからの楽曲を中心にセットリストを組んだと思うのですが、今回のツアーはそれとまた違うものになるのでしょうね。
折坂 新しい楽曲もやっていきたいと思っていますし、アルバム『心理』より前の楽曲もセットリストに加えていきたい。自分でも忘れている楽曲があったりするので、そういう曲も網羅できればいいなと思っています。〈オープン・バーン〉というツアーそのものが一つのアルバムみたいになればいいなと。今年は音楽のリリースがあまりなかったので、ツアーを通して一つの作品となるようにしたいですね。
──楽しみにしております。最後に、多くの人はギターを始めても1年から2年くらいで辞めてしまうそうなのですが、何か続けていくコツってありますか?
折坂 私の知り合いで、音楽学校などで作曲ソフトの使い方など教えているエンジニアさんから以前聞いたお話なのですが、ソフトの機能や使い方について一から教えていくのはすごく大変だけど、その人の中に“こういう音楽が作りたい”というビジョンが明確にあると、覚えるのもすごく早いそうなんです。“それをやりたいなら、この機能をこう使えばいい”みたいに効率よく教えていくことができますから。
──確かにそうですね。
折坂 ギターも同じで、コードを全部覚えるところから始めたり、スケール練習をひたすら繰り返したりするのって、すごくつまらないと思うんですけど、“こういう曲が弾きたい”“こういう音楽を作りたい”みたいなビジョンが自分の中に明確にあればあるほど、上達が早いんじゃないかと思うんですよね。例えば私のようにギター1本で弾き語りをやりたいと思っている方がいたら、それをどこでやりたいのか、ライヴハウスなのか路上なのか、部屋で飲みながら一人で弾きたいのか(笑)、そうやって自分の中に“絵が浮かんでいる”ことが大切だと思います。
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折坂悠太
鳥取県生まれ、千葉県出身のシンガーソングライター。
平成元年生まれの折坂ならではの極私的な感性で時代を切り取りリリースされた前作『平成』は、2018年を代表する作品として、CDショップ大賞を受賞するなど、高い評価を受ける。2019年には上野樹里主演、フジテレビ系月曜9時枠ドラマ『監察医 朝顔』主題歌に「朝顔」が抜擢され、2020年同ドラマのシーズン2の主題歌続投も行い、今年3月にはミニアルバム『朝顔』をリリースした。また、佐藤快磨監督、仲野太賀主演の映画『泣く子はいねぇが』では自身初の映画主題歌・劇伴音楽も担当するほか、サントリー天然水、サントリー角ウイスキーのTV CMソングを担当するなど活躍の幅を広げている。2021年10月6日に3年ぶりとなるアルバム『心理』をリリース。2022年10月17日(月)仙台 Rensaを皮切りに全国ツアー〈折坂悠太ツアー2022 オープン・バーン〉を開催。
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