Cover Artist | NICO Touches the Walls -前編-

頭でっかちになっているものを取っ払うほど今やりたいモードに直結したんです

Oral Cigarettes

NICO Touches the Wallsの新作「TWISTER-EP-」。これまででもっとも振り切った楽曲が並ぶ、攻撃的な意欲作だ。しかも前作「OYSTER-EP-」に続き、今作もディスク1と同曲のアコースティックヴァージョンをボーナスディスクに収録。こちらは、まったく異なる表情を見せるアレンジで、聴く者を驚かせる内容。音楽を全力で楽しむ4人の本気度が感じられる、強烈な作品に仕上がった。

思っていない方向にアンテナが伸びていく感覚
芽が出てきそうな感覚が気持ちいいんです
 

―  新作「TWISTER -EP-」は前作「OYSTER -EP-」と対をなすような作品にする予定だったのですか?

光村龍哉(以下:光村) 2枚のEPを出そうというのは決めていましたけれど、内容は決めていなかったんです。なぜEPにしたかというと、シングルではモードを語りきれないし、アルバムだとカロリーが高い。とにかく自由に今のモードを、自分たちも楽しみながら出せる、そういう形でEPを出したいなって話していました。

―  身軽にやりたいことがやれる形がEPだったと。

光村 そうですね、今の自分たちの本能的な欲求が満たされるのはEPかなと思いました。

―  しかも今回、かなり振り切れた内容になっていますけれど。

光村 結果的にはそうですけど、最初、まったくそんなつもりはなかったんです(笑)。バンドにおいて、ライヴ中に無心になってやれるタイプの曲、そういうものがモードとして昨年あって。そこをもっと掘り下げていいんじゃないかということで曲作りをしていたんです。どちらかと言うと、バンド内でみんなが好きな曲、ライヴでみんなが爆発できる曲をかき集めたらこうなったんです。

―  バランスが偏っても構わない?

光村 バランスは取ろうとしたんですけど(笑)。

古村大介(以下:古村) 最初はそうだったね。曲がめっちゃできて、そこから選んでいったわけですけど、最初はバランスが取れていたんです。でも、決まりかけた最後の一歩手前で、みっちゃん(光村)が「VIBRIO VULNIFICUS」「FRITTER」の2曲を出してきて、そこでガラッと変わった。こっちのほうが今やりたい感じだなって。それがデカかったですね。

―  じゃあ、この2曲は最近の曲なんですね?

古村 本当に最後にできた2曲です。それまで10曲ぐらいあって、それを仕上げるところだったんですけど。

―  それをひっくり返すのは勇気がいりますよね?

坂倉心悟(以下:坂倉) でも早かったよね、4人の中では。

光村 ちょうどまとまりかけた段階、EPの選曲をしましょうというタイミングで、古村君が風邪をひいてスタジオを休んだ日があって。1日余裕ができて、やることがなかったから、遊びで“こんなの思いついたんだけど”って曲を出したのがきっかけだったんです。頭でっかちになっているものを取っ払えば取っ払うほど、今やりたいモードに直結したんですね。そうじゃなかったら、もっと凝ったことをやっていた気がします。でも、こういう曲ができたんだったら、潔くこっちに振ってみようと。

―  そういう曲を後に取っておくのではなく、前面に出そうとしたわけですね?

光村 その時点でツアーもライヴハウスを回ることを決めていたし、「OYSTER -EP-」を作ったあと、ライヴでやれる曲が少ないという反省もあって(笑)。だから、ライヴでやれる曲を増やしていこうというのが影響していたと思います。こういうほうが楽しいというか。

坂倉 スタジオでやっていて、今一番自分たちがテンション上がるのは何だろうって考えて。その期間はシンプルな考え方で進めていたので、これいいねっていうところがどんどん詰まっていったんです。NICOってこういうバンドなんだよなって思いますね。

―  しかも、相当思い切った内容ですね。

光村 やるんだったら行けるところまで行っちゃえという感じもあったし。結局、「OYSTER -EP-」と「TWISTER -EP-」の2枚で、自分たちの音楽的な幅というか、他と比較することのない、何とも戦ってない感じが出せたらいいなと思ったんです。これがシングルだと変に誤解されるかもしれないので。自分たちでは氷山の一角に過ぎないのに、それですべてを語られるような。それより、僕らも10年以上そういうことをやり続けてきて、ホントにそのため(周りの評価)を気にして音楽をやっているのはつまらないって思えたので、行き切ってみよう、変なバランスを取らないでおこうというきっかけになったんです。楽しんだ者勝ち。その中で失敗することもあるし。僕、今回は半分ぐらい失敗だと思ってますから(笑)。でも、それがいいなと思うんです。行けるところまで行って、半分ぐらい失敗したなと思っても、その失敗が絶対次に生きるので。自分でも思っていない方向にアンテナが伸びていく感覚、芽が出てきそうな感覚が気持ちいいんです。

古村 今、みっちゃんが言ったのはすごくわかるんです。感覚的には、NICO結成当初はこんな感じがあったなって思ったり。今これをやると、ワクワクするというか、予想がつかないんですよ、本当に。バンドの雰囲気が上手く転がっていて、今また新しく違うところに行ってるなという感覚がありますね。ただ、武器は増えているので、確実に狙いながらやっているんです。前は狙っていてもよく分からず飛び込んでいた部分もあって。それが前とは違うところで、ちゃんと確信犯的にやっています。


ロックバンド的な理想みたいなものがどの曲にも欲しかった
 

―  レコーディングも楽しめました?

古村 楽しみもあったし、わかるからこそもうちょっと表現したい部分があったりして。作業していて、できることとできないことがはっきりしているから気持ち良かったですね。

坂倉 今回の曲たちは、確かにバンド結成当初の雰囲気を思い出させるものがありますね。曲が生まれた瞬間、したり顔じゃなくて、“こういうものも出ちゃった”みたいな感じがあって。「VIBRIO VULNIFICUS」とか、その感覚が気持ち良くて。インディーズで「アボガド」を持ってきた頃の、“何これ?”みたいな感覚。NICOがもともと持っていたけれど、新しいものができているなという感じですね。

古村 新しいからビビッと来たんでしょうね。ただ古いだけでは驚かなかったし。

―  新曲はツアーでも披露されていますね?

光村 はい。ロックバンドがよくわからない馬鹿力を発揮した上で、それをお客さんがどう受け取ってもいいんだよっていうロックバンド的な理想みたいなものがどの曲にも欲しかったので、初見殺しといいますか(笑)。変拍子とか、ちょっとジャズっぽいことやソウルっぽいこともやったり、僕の大好きなパンク的なものもありで、ゴチャゴチャになっている。でも、これだけすごい球を投げているのに、お客さんもそれに対してよくついてきてくれているなというのは、意外な手応えでした。あまり迷ってないんです、それを受け取ることに。僕らの音楽ってもっと自由でいいじゃんっていう、そういうことに対する想いが浸透している気がしました(笑)。

―  馬鹿力と言えば、歌詞もぶっ飛んでますね。

光村 ぶっ飛ぼうと思って書いたわけじゃないですけど、自然とこういう曲が集まって。それに、今回はアレンジをする前に、仮タイトルとテーマをみんなにあらかじめ渡してからアレンジの作業に入ったんです。そうじゃないと、非常に自由すぎて(笑)。誰が何の思惑でどこにまとめていくのか、全然ゴールが見えない。これをもっとポップにしたいと言われても、何の基準のポップかわからない。でも例えば、「VIBRIO VULNIFICUS」だったら、俺の中の悪い部分を全部出そうと思ってるというキーワードがあるだけでも、悪い展開、悪いリフになったり。ということがドヤ顔で行えるので、僕たちには珍しく文学的に作りました。それは成長でもあるし、すべてにおいて再現性の高さより、もっとクリエイティヴなところに入ったほうが絶対に楽しいっていうのがあったからなんです。過去の自分たちはどちらかと言うと再現性を追い求めていましたけど、その反動みたいなもので、今回は音楽的なことは最後にちょっと調整するだけでいいんじゃないか、間違うことはないだろうと思えて。自信を持ちながらやれました。曲に対してお題、テーマを決めていたので、最終的にエグい曲が集まればそういう感じになるし。僕のモードもわりと偏ったものになっていました。

―  そういうテーマがあると、アプローチも違いますか?

古村 全然違いますね。まとまり方が違います。みんなでこれはどうだろう?っていう意見を交わす判断になるし、そこでちゃんとみんなが理解できるんですよ。共通点としてキーワードがあるわけだから、伝わり具合も早さも違いますね。

坂倉 引き算が怖くないとか、ありますね。いつもならどんどん音を埋めていきたくなるのに、そのひとつのキーワードがあるだけでこのままでもいいかって。そういう話がスムーズになるかな。

光村 伝わるものが伝わっていればOK、となります。寄り道しなくてすむから。

―  そして、前回に続き全曲のアコースティックヴァージョンが入っていますが、まったくと言っていいほど表情が変わっていて。

光村 今回は一番、そこが評価されると嬉しいですね。

古村 エレキからの変貌ぶり(笑)。

光村 これがディスク1だけなら、どうしちゃったの?何でこんなに怒っているの?ということで終わるんですけど、アコースティックがあることで、音楽的にお洒落なことをやっているというのが伝わると思います。歌に関しても、ただ暴れまくっているだけじゃないと。これは会心の出来ですね。

古村 ここまで自分たちでも幅が出るとは思っていませんでした。最初はこれ、アコースティックでどうするんだろう?って思っていましたけど。でも、いろんなアレンジもあった中で、この形に落ち着きました。

光村 ゴテゴテしているものをシンプルにしていくのがアコースティックの魅力だけど、最初からシンプルだから。これをどうしたらいいの?っていうのがありました。だから、メチャクチャ考えました。アコースティックヴァージョンも、歌詞が乗るまでは本当にアレンジが決まらなかったりして、最終的なこのアレンジになったのは歌詞が入ってからなんです。それまでは別アレンジを考えていたんですけど、歌詞が入った時点で180度変わりました。全然違うアレンジになりました。

坂倉 アレンジしていく中で、ここは長いからメロディーを削ってもいいんじゃないかとか。自分でもこんなに自由度があったんだって思いました。昔だったらできなかったと思うんですけど、そういう感覚が気持ち良くできて。アコースティックをやり始めて良かったなって思います。これまでにも何度かやってますけど、その中でもかなりいい仕上がりになっているかなと思います。

―  しかも、今回のツアー「“N X A” TOUR」は、“-Electric Side-”“-Acoustic Side-”として編成を変えて臨んでますよね。

光村 そうなんですけど、同じ土地で先にアコースティックのライヴで、次の日がエレキのライヴとか(笑)。新曲をどう受け取っていいのかわからないですよね(笑)。

古村 アコースティックの後でエレキを聴いて、裏切られたって思うかも(笑)。

古村 ここまで自分たちでも幅が出るとは思っていませんでした。最初はこれ、アコースティックでどうするんだろう?って思っていましたけど。でも、いろんなアレンジもあった中で、この形に落ち着きました。

―  印象が違いますからね。切り替えは大変じゃないですか?

光村 切り替えは大変ですけど、レコーディングの時もエレキとアコースティックを行き来して、そういう中で頭が柔らかくなっていくというか、お互いに影響し合うところはあったので。今回、“-Electric Side-”は新曲のムードも含め、かなりエネルギーがいるので、それを“-Acoustic Side-”で自分たちを癒している感じです。そこでチューニング(調整)している感じというか。そういう意味ではレコーディングで作品を作っている時の感覚に近くて、楽しいですね。アコースティックのほうは1曲終わるごとにMCしてますから(笑)。

古村 今までそんなことなかったのに(笑)。

光村 逆に“-Electric Side-”はほとんど喋っていない(笑)。

› 後編に続く


Oral Cigarettes

光村龍哉:American Standard Stratocaster(中央)
Fat ’50sのピックアップがマウントされ、さらに太めの弦を張っているため、かなり太い音が出せる。Telecasterの音に近づけたいということで、リアとフロントのピックアップがミックス可能。

古村大介:Telecaster(右)
フロントにハムバッカーがマウントされた、カスタムショップモデルのTelecaster。本来の鋭い立ち上がりの音に加え、太さも得られる仕様のため、ジャンルを問わず使えるが、攻撃的な最新曲でさらに威力を発揮してくれるギターだ。

坂倉心悟:Precision Bass(左)
スタンダードなPrecision Bassが欲しくて購入した白いモデル。レコーディングでも本機をメインに使用。それまで使っていたピノベースがプレベにしてはマイルドな音だったこともあり、もう少しアクの強さ、クセのある音が欲しくて愛用している。

PROFILE


NICO Touches the Walls
04年結成。メンバーは、光村龍哉(Vo,Gt)、古村大介(Gt)、坂倉心悟(Ba)、対馬祥太郎(Dr)。バンド名は、光村がよろめいて壁に触れた時に、壁に触れるという行為は壁の向こうにある世界、日常から新しい世界を創造するというイメージにつながり、バンド名に由来。07年11月、ミニアルバム「How are you?」でメジャーデビュー。
› Website:https://nico-m.com

New Relese
TWISTER -EP-
¥2,300(tax in)
Ki/oon Music
2018/07/25 Release

Artist

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