Cover Artist | 折坂悠太 -前編-

フェンダーの振り切ることで逆にポピュラーになっていくところは、すごく“音楽的”

今回Cover Artistに登場するのはシンガーソングライターの折坂悠太。昨年リリースされた3rdアルバム『心理』では、ライブサポートを務める“重奏”のメンバーを迎え、日本民謡やジャズなど様々な要素を取り入れた唯一無二のサウンドスケープを奏でていた。そんな折坂に、前編ではフェンダーとの出会いやAcoustasonic®︎ Player Telecaster®︎の使い心地などをたっぷりと語ってもらった。

やっぱりテレキャスターのゴリッとしたサウンドはいいなと

──折坂さんが音楽に目覚めたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

折坂悠太(以下:折坂) もともと母方の兄弟姉妹が70年代や80年代の音楽を好きだったんです。母がクイーンを好きだったり、伯母がザ・ジャムの追っかけをやっていたり。叔父にはザ・スペシャルズやボブ・マーリーなどを教えてもらっていたんですよね。鳥取の田舎に住んでいた小学校低学年の頃から、車の中でもよく聴いていました。それが自分の中の素地になっています。

──かなりの英才教育ですね。

折坂 自分で音楽を始めたのは、それからしばらく経ってから。高校を卒業するくらいの年齢だったのかな、友人とバンドを始めて最初はドラムをやっていました。当時のメインストリームというと、ジャパニーズヒップホップがブームだったのもあって、その流れで特にRIP SLYMEは好きでよく聴いていましたが、バンドではザ・ビートルズやRCサクセションのカヴァーなどをやっていましたね。

──最初はドラムだったのですね。ギターを始めた経緯は?

折坂 バンドをやっているうちに、だんだんオリジナル曲を作りたくなったんです。ドラムだとコードとかがわからないので、まずは姉が持っていて使わなくなっていたアコギを手にしました。演奏するというよりは、曲作りのためのツールとして初めは練習していたのですが、そのあとに結成したバンドで初めて自分でギターを持って歌うようになり、さらに音楽にのめり込むようになっていくうちに“ギター弾き語り”のスタイルになっていきました。

──その頃から今のような音楽性を目指していたのですか?

折坂 それまでバンド音楽ばかり聴いてきたので、やるならエレキギターを持って“バーン!”と演奏したい気持ちが最初は強かったですね(笑)。でも、その頃から例えばアーケイド・ファイアやグレアム・コクソン(ブラー)など、アコースティック楽器をバンドサウンドに取り込んだ音楽性を持つアーティストを好んで聴くようになっていって。おそらくそれも、アコースティックサウンドとバンドサウンドを行き来する今の自分の音楽スタイルになった理由の一つだと思っています。

──では、フェンダーとの出会いはどのようなものでしたか?

折坂 実は、最初に自分で購入したギターがスクワイヤーのTelecaster®︎ Deluxeだったんですよ。その頃にもっとも憧れていたアーティストがトム・ヨークとグレアム・コクソンで、どちらも使っていたのがテレキャスだったので“あの形、カッコいいな”と気になっていたんですよね。サウンドの違いまではまだわからなかったのですが。

──現在、フェンダーのギターはどのくらい使っていますか?

折坂 スクワイヤーのあとに買ったのがフェンダーのAmerican Standard Telecaster。ナチュラルカラーで、それは2020年に「THE FIRST TAKE」に出演した時、初めて使用しました。普段のライヴではまだ使ったことがないんですけど、やっぱりTelecasterは好きですね。ゴリッとしたサウンドがいいなと思います。 その後、“合奏”という私のバンドでベースを担当している寺田燿児さんにヴィンテージのMustang®︎をいただきました。それはレコーディングで一回使いました。中納良恵さん(EGO-WRAPPIN’)のソロアルバム『あまい』に収録されている「待ち空」という楽曲でも、Mustangを持って行ってボリューム奏法を使った演奏をしています。Stratocaster®︎やMustangは、ツマミの位置が弦に近いので、ボリューム奏法がやりやすいんですよ。

アコスタは発売された頃から気になっていました。“フェンダーがまたヘンな楽器を作ったな”って(笑)

──折坂さんにとって、フェンダーはどんなイメージでしょうか。

折坂 学ぶところがとても多いブランドだなと思っています。フェンダーって定番ですけど、よく見るとどのモデルもおかしな形をしているでしょう(笑)? おそらく発売されたばかりの時は“え、こんなギターどうやって使うの?”と言われたと思うのですが、それが今や定番となっている。そうやって振り切れることで逆にポピュラーになっていくところは、すごく“音楽的”だなと感じますね。

──Acoustasonic(以下:アコスタ)なんてまさにそういう楽器ですよね。

折坂 そうなんですよ。アコスタは発売された頃から気になっていました。“フェンダーがまたヘンな楽器を作ったな”って(笑)。今までの伝統を引き継いでいくのももちろん大事ですが、その一方でアコスタみたいなまったく新しいモデルを開発していく姿勢は本当にリスペクトします。きっとストラトやテレキャスもそうやって生まれ、定番になっていったのでしょうね。しかも、“こういうふうに使ってください”みたいに絞られていないところもすごく良くて。間口が広いというか、すごく開かれているじゃないですか。自分が作る作品もそうでありたいです。

──実際にアコスタを使用してみて、どんな感想をお持ちになりましたか?

折坂 自分で言うのもなんですが、私の音楽遍歴をまさに凝縮したような楽器だなって(笑)。

──確かに!

折坂 最初に手にしたのがアコギで、その後にテレキャスの形に憧れてエレキギターを手に入れて。ピックアップもフィッシュマンでしょう? アコギでライヴをやっていた頃は、フィッシュマンのピックアップを付けて演奏していたし、今はエレキギターとアコギの2本使いになっている。なので、非常に感慨深い気持ちになりました。
実際に使い始めたのはつい最近で、まだ“これだ!”という使い方は見つかっていないのですが、アンプを通さず生音で弾いても楽しめるところがまず気に入りました。アコギほど大きな音が出るわけでもなく、エレキほどペラペラでもないので、部屋で弾いていて心地良い音量というか。これ1本だけで成り立つところが嬉しいですね。アコギのサウンドとエレキギターのサウンドの切り替えもシームレスで、バランスによってはこれまで聴いたことのないサウンドになるので、すごく面白いことができそうな気がします。

──実際にライヴやレコーディングでも使えそうですか?

折坂 これからいろいろと試してみたいです。使いようによってはこれ1本でもライヴができるのは魅力的ですよね。アコギでジャカジャカ弾きたい時もあるし、ボリューム奏法などエレキギターならではの音を出したい時もあって。きっと送りを踏み替えるだけでどちらのサウンドも出せる。楽器をたくさん持ち込めない、小規模の弾き語りライヴなどをやる時にいつか試してみたいですね。

──具体的にどんな演奏法をイメージしていますか?

折坂 今思いついたのは、例えばループマシンを使ってボリューム奏法でドローンサウンドを作った上に、アコギでコードを重ねていくとか。やはりボリューム奏法やエフェクターを使ってアンビエントなサウンドを作る場合、アコギよりもエレキのほうがやりやすいじゃないですか。アコスタがあれば、楽器を持ち替えることなくアコギとエレキの音色を一瞬で切り替えられるのは便利ですよね。 他にも使い方次第でいろんなことができるんじゃないかな。私のような、弾き語りスタイルでライヴをやる人にとっては、アコギ以外のサウンドも一瞬で出せるし新たな可能性がたくさん詰まっていると思います。

> 後編に続く(近日公開)

Acoustasonic Player Telecaster


折坂悠太
鳥取県生まれ、千葉県出身のシンガーソングライター。
平成元年生まれの折坂ならではの極私的な感性で時代を切り取りリリースされた前作『平成』は、2018年を代表する作品として、CDショップ大賞を受賞するなど、高い評価を受ける。2019年には上野樹里主演、フジテレビ系月曜9時枠ドラマ『監察医 朝顔』主題歌に「朝顔」が抜擢され、2020年同ドラマのシーズン2の主題歌続投も行い、今年3月にはミニアルバム『朝顔』をリリースした。また、佐藤快磨監督、仲野太賀主演の映画『泣く子はいねぇが』では自身初の映画主題歌・劇伴音楽も担当するほか、サントリー天然水、サントリー角ウイスキーのTV CMソングを担当するなど活躍の幅を広げている。2021年10月6日に3年ぶりとなるアルバム『心理』をリリース。2022年10月17日(月)仙台 Rensaを皮切りに全国ツアー〈折坂悠太ツアー2022 オープン・バーン〉を開催。
https://orisakayuta.jp

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