Cover Artist | 山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)-前編-
自分さえ納得できる形で出せば間違いないものになるという自信はあった
個性が強すぎるあまり、時に反発を買いながらも信念を貫き通してきた4人組ロックバンド、THE ORAL CIGARETTES。その活動は着実にバンドの人気とライヴの動員を伸ばし続けてきたが、4作目のアルバムとなる「Kisses and Kills」は、彼らが新たな局面を迎えようとしていることを印象づける意欲作となっている。日本のロックシーンの王道で戦っていこうという自信を感じさせる一方で、新たなバンド像を打ち出そうとしているようだ。作詞・作曲を手掛けるバンドのフロントマン、山中拓也(Vo,Gt)に話を聞いた。
― 「Kisses and Kills」はオリコン週間アルバムチャートで第1位を獲得しました。
山中拓也(以下:山中) 僕ら自身は、そこまで“よっしゃー!”という感覚はそれほどなくて、順調にここまで上がってこられたんだから、引き続き頑張っていこうねっていうテンションではあります。でも、今までアルバムを作る時は、ファンの人たちが求めているものと自分たちがやりたいことを上手い具合にバランスを取っていたんですけど、今回は自分たちがやりたいことをやったので、もしかしたら自己満になっちゃうかもしれないって不安も多少あって。だから、それでしっかりと結果を残せて、ファンの人たちも“いいね”って言ってくれたのはすごく嬉しかったです。リード曲である「容姿端麗な嘘」のMVも、今までにない速さで回っているんです。ファンもしっかり、僕らについてきてくれてるんだなって思います。
― 今回、自分たちがやりたいことをやろうと思えたきっかけって何かあったんですか?
山中 “やりたいことをやってもいいよ”って背中を押してくれるファンの感じが見えたのもあるし、去年1年、クリエイターが周りにいる状況を自分から作ったのも大きいかもしれないです。ファッションブランドをやっているデザイナーとか、ヒューマンビートボックスの日本チャンピオンとか、ダンサーとか、書道家とか、アートデザイナーとか、いろいろなジャンルのクリエイターとつながったんですよ。そこで曲を作る1人の人間として、恥ずかしい思いをしたくないっていうのはもちろん、彼らに負けたくないというプライドも芽生えてきて、次に作るアルバムではもっと自分を出して、“自分ってこうなんです”ってアピールしたいってことを、その時からずっと考えてました。
― 2016年頃から、ぐんぐんと伸びていったバンドの飛躍も自信になったんじゃないですか?
山中 その勢いに乗ったと言うよりも、僕らの曲って公には出しづらい歌詞を書いているせいか、以前はラジオで流しづらいところがあって、デビュー当初は“メジャーシーンに上がれない”みたいなことも言われてたんですけど、時代もずいぶん変わってきて。例えば映画も「進撃の巨人」とか、それこそ僕らが主題歌(「BLACK MEMORY」)を担当させてもらった「亜人」とか、グロテスクでダークな世界観を多くの人が好むようになってきて、僕らがずっと押し通してきたことと上手くマッチングしたのが2016年からの流れなのかな。そういうバンドって他にあまりいないから、それが逆に強みに変わってきたところはあると思います。
― 今回、曲作りは容易かったんですか? それとも大変でしたか?
山中 すごく難産だったんですけど、すごく簡単だったんですよね(笑)。1カ月半ぐらい曲ができなくて、作ってはカッコ良くないからボツっていうのを繰り返しているうちに、何がカッコいいのかわからなくなったんですよ。それで一度、アルバムを作るのを諦めたんです。ダサいものを出すぐらいだったら出さないほうがいいと思って、パソコンの電源もオフって、“やーめた。寝よう”って布団に入った瞬間にバーッと降りてきて。すげぇ、ヤバいヤバいヤバいって布団に入ったまま30〜40分頭の中で整理したら、10曲ぐらいできていたから慌ててパソコンに向かって(笑)。それから3日くらいほぼ徹夜で、10〜11曲を作り上げたんです。
― 1カ月半ぐらい苦労していたことが実は無駄ではなかったんですね。
山中 準備期間だったんでしょうね。新しいことをしたいという気持ちがすごく強かったから、それに取り掛かりながら、どうしたらいいかわからないって1カ月半繰り返しているうちに頭の中で整理されていって、それが一晩で一気に降りてきたのかな。
― 新しいことという意味では、何が一番やりたかったんですか?
山中 シンセサイザーをがっつり入れたかったんです。それと、ずっと好きだったブラックミュージックのテイストを加えたいっていうのもありました。ただ、それをそのままやっても何も面白くないから、そのサウンドを日本人にしか作れないメロディーでやった時に何が生まれるんだろう?ってところを追求しながら新しいところを目指していきました。曲で言ったら「Ladies and Gentlemen」とか「What you want」ですね。
― 1曲目の「もういいかい?」も今までにないタイプの曲なのでは?
山中 そうですね。今回、作っていた曲が挑戦の要素が多かったので、それぞれに個性が強いものになって、けっこうバラけたんですよ。それをまとめてくれる入り口が必要だなと考えて、3分ないぐらいの尺でストレートに構成も難しいことせずに、歌詞も何で僕らがこういうアルバムを作ったのかとか、今まで僕らが辿ってきた道のりとか、ファンへの感謝とかを込めて、その1曲を導入としてぶち込んであげたらアルバムとしてのまとまりが出るんじゃないかと思って作りました。
― 「もういいかい?」は曲のみならず歌詞もストレートで。今回、歌詞の書き方も変わったところがあるんじゃないでしょうか?
山中 歌詞の書き方は、去年の6月にリリースしたシングル「トナリアウ/ONE’S AGAIN」から変わってきたと思います。以前は、ダークな世界観とか妄想とかを歌詞に落とし込んで、その中に言いたいことを皮肉っぽく入れていたんですけど、それが少しストレートになりましたね。自分としっかり向き合って、今、自分が成長するために必要だと思うことをそのまま歌詞にしたり、感謝の気持ちをそのまま落とし込んだり、昔はそれが照れ臭くてできなかったんですけど、今はそこに向き合うことが大切だと思ったんです。
― 自分に向き合う大切さを知ったのは、何かきっかけがあったんですか?
山中 見られる目が増えたことが大きかったと思います。それまでは自分に少し甘くても、もしかしたらごまかせるんじゃないかなっていうちょっとした甘え心が時々あったんですけど、日本武道館、大阪城ホールでやらせてもらうことになった時、2万人が集まったら単純に4万個の目があるわけじゃないですか。その全員をごまかすことはできない。甘いことをしていたらバレるってことを、フェスのメインステージだったりトリを張らせてもらう中で痛感したことがあって。そんなことじゃダメだと思って、メンバー4人、かなりストイックに自分を追い込み始めたのが「ONE’S AGAIN」を書いている時でしたね。
― 「ONE’S AGAIN」の歌詞は、まさに今おっしゃった心情が綴られていますが、バンドの規模がどんどん大きくなっている状況を考えると、今回、アルバムを作る時にプレッシャーもあったんじゃないでしょうか?
山中 自分さえ納得できる形で出せば、間違いないものになるという自信はありました。だから、プレッシャーというよりは、自分が納得できるところまではしっかり持っていこうというテンションだったと思います。ただ、自分が納得するハードルは、今まではファンというところだけだったんですけど、今回はファンに加え、周りにいるクリエイターの友だちとか、1周回ってメンバーをビビらせたかったんです。そういう気持ちが一番強かった。そこでもう1回、“拓也がヴォーカルで良かった。曲を作る人間で良かった”って言ってもらいたいと改めて思ったので、そこのプレッシャーというか、ハードルはかなり高かったと思うし、曲を送ってメンバーからすげえ反応があった時は嬉しかったです。
› 後編に続く
American Deluxe Telecaster
山中「真剣にバンドをやっていこうと腹を括るきっかけになったギターです。フラッと入った楽器屋で一目見た瞬間に“買おう!”と思いました。実際、持ってみたら手に馴染む感覚があって、一発鳴らした時の音が自分が求めていた音とかなりマッチしていたんです。バンドをやっていない時期で、音楽欲を失っていたにもかかわらず、見ただけでギターを弾きたいと思ったのは新鮮な感覚でした。」
PROFILE
THE ORAL CIGARETTES
2010年、奈良にて結成。メンバーは、山中拓也(Vo,Gt)、鈴木重伸(Gt)、あきらかにあきら(Ba,Cho)、中西雅哉(Dr)。人間の闇の部分に目を背けずに音と言葉を巧みに操る唯一無二のロックバンド。メンバーのキャラクターが映えるライヴパフォーマンスを武器に全国の野外フェスに軒並み出演。リリースする作品は常に記録を更新し、4枚目のアルバム「Kisses and Kills」はオリコン初登場1位を記録。2017年6月には初の日本武道館公演、2018年2月には地元関西にて大阪城ホール公演を開催し両日とも即日完売で成功を収める。BKW!!(番狂わせ)の精神でロックシーンに旋風を巻き起こしている。
› Website:http://theoralcigarettes.com
New Relese
Kisses and Kills
【初回盤】¥3,780(tax in)【通常盤】¥3,024(tax in)
A-Sketch
2018/06/13 Release