
SESSIONS in TOKYO | Horace Bray
フェンダー新シリーズ「American Ultra Luxe Vintage」のキャンペーンムービーにも登場したロサンゼルス在住のギタリスト、Horace Bray(ホレス・ブレイ)が来日。Fender Flagship Tokyoで行われたFenderNewsの人気企画「SESSIONS in TOKYO」の公開収録では、極上のトーンと技巧、そして音に込めた哲学を語り尽くした。
大事なのは、テクニックと同時に“音一つひとつと感情的につながること”
──初めて手にしたフェンダーのギターは、どんなモデルだったんですか?
Horace Bray(以下:Horace) たしか2016年に買ったクリーム色のStratocasterです。それが自分にとって初の“本物”のフェンダーでした。当時はジャズ用のギターしか持っていなかったのですが、ファンクを弾く必要が出てきて友人から譲ってもらったんです。イングヴェイ・マルムスティーンのモデルにそっくりで、そのギターが僕をStratocasterやTelecasterの世界に引き込むきっかけになったんですよね。今はもう手放してしまったのだけど。
──では今回、新しく発売されたAmerican Ultra Luxe Vintageシリーズについて教えてください。いま弾いていただいたのはAmerican Ultra Luxe Vintage ’60s Stratocaster HSSですね。
Horace そうです。僕はオールシングルコイルのStratocasterが大好きなんですが、汎用性という意味ではブリッジにハムバッカーを搭載したHSS仕様も気に入っています。これはとにかく幅広いサウンドが出せて、どんなシチュエーションにも対応できるんです。

──例えば?
Horace 基本はスタンダードな5ウェイスイッチなんですが、ボリュームノブにS-1スイッチという特別な仕組みがあります。このスイッチを押すと、ブリッジのハムバッカーがシングルコイルに切り替わるんです。ただのコイルタップと違って音が痩せず、フェンダーらしいきらびやかなサウンドがそのまま出せるんですよね。ハムバッカーはパワフルで厚みのある音がします。一方で、シングルコイルに切り替えると、きらびやかで透明感のある、まさにフェンダーらしいトーンになりますね。
──普段はどちらをよく使いますか?
Horace 僕の音楽では、ほとんどの場合フロントのシングルコイルを使っています。でも、ポップスなどのレコーディングではブリッジのハムバッカーを使うことも多いです。だからこそ、このギターの汎用性がとても気に入っているんです。それから、ステンレススチール製のフレットも重要なポイント。とにかく頑丈で、もしかしたら僕のほうが先に寿命が来るかもしれない(笑)。ずっと同じ状態を保ってくれる安心感があります。ステンレスじゃない場合、7〜10年ごとにフレットを打ち替える必要があります。僕のギターも3〜4年弾いたらすでに摩耗が見えてきました。でも、ステンレス製のギターは何年経っても新品みたいなんです。それくらい耐久性がありますね。
──他に気に入っている部分はありますか?
Horace ロッキングチューナーも気に入っています。普通のチューナーだと弦交換に2分くらいかかりますが、ロッキングチューナーなら30秒で済みます。ライヴ中に弦が切れても、すぐに張り替えられるのが大きな利点ですね。もちろん、ニトロセルロースラッカーを使ったレリック風の塗装も気に入っています。
──ボディの背面にはコンター加工が施されていますね。
Horace そうなんです。お腹に当たる部分のカットは通常のストラトと同じですが、特に大きいのはネックジョイント部分のカットですね。これによってハイポジションがとても弾きやすくなっています。高音までスムーズに指が届くので、演奏中のストレスがまったくありません。
──ネックや指板の仕様についてはいかがですか?
Horace 僕はCシェイプとDシェイプの中間くらいの厚みが好きなのですが、このモデルはモダンDシェイプで、まさに理想的です。ヴィンテージのストラトは7.25R(ラジアス)でかなり丸みがありますが、僕には少し弾きにくくて。10インチ〜14インチのコンパウンドラジアスになっているこのネックは、フラット気味で本当に弾きやすいんです。


──続いて、Telecaster(American Ultra Luxe Vintage ’60s Telecaster Custom)についても教えてください。
Horace このモデルも背面にもコンター加工が施されていて、とても弾きやすい。通常のTelecasterは角張ったブロック状のボディなんですが、これはハイポジションの演奏にもスムーズに対応できるんです。

──TelecasterのS-1スイッチはどのように機能するのでしょう?
Horace フロントとリアの二つのピックアップをS-1スイッチで切り替えると、一つの大きなハムバッカーのように動作する仕組みになっています。どのポジションにいても、そのスイッチを押すだけで一気に太いサウンドに変わるんです。つまり、ノーマルなTelecasterらしい明るいトーンから、力強いハムバッカーサウンドまで自在に行き来できる。とても実用的な機能ですね。ディストーションを強くかける場面では特に役立ちます。普通のTelecasterでは難しい音作りも、この機能のおかげで幅広く対応できるんです。とても個性的でパワフルなサウンドになりますね。

──10月10日にリリースされたニューアルバムについてもお聞かせください。
Horace タイトルは『A Ten Year Cycle』。自分が好きだった音楽に再び立ち返る、そんなテーマを込めています。即興演奏をベースにしていますが、単なるジャムではなく、きちんと曲の始まりと終わりがあり、その間に物語の流れがある。そこに各メンバーの即興が加わって、楽曲が有機的に膨らんでいく内容です。
──とても楽しみです。ここで、参加者の方たちからの質問を紹介します。まず一つ。ギター初心者にはどんな練習を勧めますか?
Horace とにかく“ゆっくり練習すること”です。速いフレーズを練習する時でも、全体をただ遅くするのではなく、指の動きは正確で速いままに、テンポだけを落として弾くんです。そうすると正しいフォームと運指が自然と身につきます。
──そうやって練習すれば、Horaceさんのように弾けるようになりますか?
Horace もちろんです。でも大事なのは、テクニックと同時に“音一つひとつと感情的につながること”。その関係性こそが、自分のサウンドを作る一番大切な要素だと思います。
──一人で演奏するのはすごく緊張するのではないでしょうか。 緊張しない方法があれば教えてください。
Horace 緊張する時もあれば、しない時もあります。でも、こう考えるようにしています。自分が客席に座って誰かの演奏を観ている時、失敗してほしいと思う人なんていないですよね。みんな“上手くいってほしい”“頑張れ”と思いながら見ているはずなんです。でも自分がステージに立つと、つい“お客さんは自分の失敗を見たがっている”と感じてしまう。実際はそうではなくて、観客も演奏者も同じチームの一員なんです。そのことを思い出すと、自然と緊張が和らぎます。
──ハイブリッドピッキングのコツがあれば教えてください。
Horace 僕がハイブリッドピッキングを始めたのは、怪我がきっかけでした。左手を痛めてしまって、あまり使えなくなった時期に、右手のピッキングを徹底的に練習する必要があったんです。そこで自然とハイブリッドピッキングに取り組むようになりました。
──最後の質問です。ご自身ではどこの国の伝統的な音楽から影響を受けていると思いますか? そして、演奏中にはどんな景色を思い浮かべていますか?
Horace とてもいい質問ですね。最近は西アフリカの音楽から大きな影響を受けています。ギターのアプローチがとてもユニークで、そこからたくさんインスパイアされました。そして、演奏する時には必ず景色や空気の感覚を思い描くようにしているんです。例えば今日の最後に演奏した「Ventura」という曲では、長いドライブをして目的地に向かう途中の風景をイメージしていました。霧の中を走り抜けていくような感覚ですね。

Horace Bray
現代ジャズとアメリカーナを融合させた独自のサウンドで注目される、ロサンゼルスを拠点に活動するギタリスト/作曲家。即興性、抒情性、そしてストーリーテリングを音楽に取り入れている。北テキサス大学を卒業した彼は、グラミー賞にノミネートされた”One O’Clock Lab Band”において、15年ぶりに学部生としてギターチェアを務めた人物となった。2015年にリリースされたデビュー作 ”Dreamstate”は、独創的な作曲とニュアンス豊かなギタープレイが高く評価され、新たな才能の登場を強く印象づけた。その後は、バンドリーダーとして、またコラボレーターとして国際的にツアーやレコーディングを行っている。自身のプロジェクトに加え、マギー・ロジャース、ベンソン・ブーン、ジョーディン・スパークス、インディア・アリーなどのアーティストとも共演。ジャンルの枠を超える即興演奏家としてのアイデンティティと、第一線のセッションミュージシャンとしての多才さを兼ね備えている。また、その活動はプロデュースやクロスジャンルのコラボレーションにも広がり、ソングライティングからローファイ・プロジェクト「Felty」に至るまで、多方面で創造性を発揮し、幅広いストリーミングで成功を収めた。
https://www.instagram.com/horacebray/

