Signature Model Interview | 加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ)-前編-

ミュージシャン人生の中の目標の一つが達成できたという喜びは大きいです

日本国内のみならず、世界を股に掛けた活躍を続けている東京スカパラダイスオーケストラ。そのギタリストである加藤隆志と言えば、“流木”の愛称で知られる65年製のStratocaster®をメイン機として、長年使用してきたことでも知られるが、その“流木”をスペックのみならず、レリック加工によってボディの傷まで再現したCustom Shop製シグネイチャーモデル「Kyle McMillin Masterbuilt Takashi Kato 1965 Stratocaster® Ultimate Relic® “RYUBOKU”」が完成。インタビュー前編では、開発エピソードやこだわりを中心に話を聞いた。

傷の一つ一つに思い出があるんです

──2022年9月に発表したシグネイチャーモデル「Takashi Kato Stratocaster」に続いて、今回、いわゆる“流木”を再現したシグネイチャーモデル、「Kyle McMillin Masterbuilt Takashi Kato 1965 Stratocaster Ultimate Relic “RYUBOKU”」(以下:Ryuboku)を作ることになった経緯を教えてください。

加藤隆志(以下:加藤) 実は、企画としてはこちらが先だったんですよ。2016年か2017年にクリス・フレミングさんというアメリカのマスタービルダーの方に、“流木”をプロファイルしていただいたことがフェンダーさんと僕のお付き合いが始まったきっかけだったんです。その後、コロナ禍があったり、カスタムショップが人気のブランドになって、世界中からオファーが殺到したりということもあって、けっこう時間が経ってしまったのですが、フェンダーの今の日本のチームが新しくなったタイミングで、プロファイルしたものを作品にできないかという話を進めていきました。ただ、ヘヴィレリックになることも、スペックも65年製のモデルに忠実なものをカスタムショップで作ると、高価なものになるとわかっていたので、メイドインジャパンでもう1本、自分でプロデュースできないかという話から、去年「Takashi Kato Stratocaster」を作ったんです。それはレリック加工なしで、傷ができる前の状態の“流木”を再現したものだったんですけど、そこから現在に至るまでに傷が増えていった歴史を、今回発表したものに託しました。だから、二つのプロジェクトが同時に進行していたんです。

──なるほど。そういうことだったのですね。

加藤 お話をいただいた時から、メイドインジャパンとカスタムショップのどちらの良さも紹介できる、すごく魅力のあるプロジェクトだと思っていたので、ようやくカスタムショップのほうが出揃って、ちょっと肩の荷が下りたというか。その良さを多くの人に知ってもらうという意味ではこれからですが、自分の愛機を元にシグネイチャーモデルを作ることは夢の一つでもあったので、ミュージシャン人生の中の目標の一つが達成できたという喜びは大きいです。

──今回、Ryubokuを作る上でこだわったところというと?

加藤 見ていただいたら明らかですよね(笑)。カイル・マクミリンというアメリカでも最高峰と言われているマスタービルダーの方に手掛けていただいたのですが、ヘヴィレリックの技術は今やここまでになっている。実は、ヘヴィレリックの上の“アルティメットレリック”と言うそうです。ヘヴィなレリックが施されたという意味では、ロリー・ギャラガーやジョン・メイヤーのモデルと並ぶくらいの作品だと思うので、まずはそこまで手が掛かっているギターというところがセールスポイントになると思います。

──ところで、加藤さんが97年に“流木”を手に入れた時は、傷はなかったんですよね?

加藤 なかったです。見た目はメイドインジャパンの僕のモデルに近いです。店頭にある時は、ほぼキレイな状態でした。ただ、ボディの色は元々のLake Placid Blueが経年劣化で深みが増して、Paradise Blue(「Takashi Kato Stratocaster」に用いたカラー)になっていましたけど。

──ボディの傷は歴戦のライヴの勲章ということを前提に質問させていただきます。どういう使い方をしたらここまで傷がつくんでしょうか(笑)?

加藤 本当ですよね(笑)。でも、僕がスカパラの正式メンバーになった2000年から海外ツアーも含め、23年間のハードなステージングの証でもあるんです。傷をつけようと思ってやっていたわけではないんですけど、“流木”は一生手放さないと思っていたから、逆に、どうなってもいいやってちょっと思っていました(笑)。スカパラに正式加入した時は30代になったばかりだったので、とにかく必死にライヴ活動に取り組んでいたんです。ギターがどうなるかなんて意識はなかったですね。プレイスタイルも当時はもっとパンキッシュで、若さとかエネルギーとかがスカパラの音楽にも溢れていて、ステージ上ではメンバー同士でもバチバチだったんですよ。ビッグバンドの中で、いかにギターの存在をアピールしていくかっていう思いがやっぱり傷になって表れてきたのかな。写真を見返すと、少しずつ傷が増えていっている。その傷の一つ一つに思い出があるんですよ。


Ryubokuはバランスが整っていて、ワイドに鳴らせるサウンド

──Ryubokuのレリック加工には、ギタリストとしてステージで戦ってきた、さまざまな思いも込められているんですね。

加藤 そうですね。2015年頃までは海外遠征も“流木”一本だけ持って行ってましたからね。ソフトケースに入れて、ずっと肌身離さず、もちろん自分で持ち運びして。寝台バスでツアーを廻るんですけど、その中にも持っていって、寝泊まりも一緒にするみたいな(笑)。国内もそうでした。トランポ(機材車)に預けないで、ギターだけは自分で持ってツアーを廻っていたんです。〈グラストンベリー・フェスティバル〉に初めて出て、レディオヘッドの裏で数百人しかいないお客さんの前で演奏したこととか、全米最大の〈コーチェラ・フェスティバル〉に出た時とか、もう全部、思い出が詰まっている感じはあります。

──レリック加工に関しては、ビルダーと加藤さんの間で何回か行き来があったのですか?

加藤 日本のチームを介して何度かやり取りしました。プロトタイプの一号機が送られてきてからも、それと自分の“流木”を並べた写真を送って、さらにディテールを詰めてもらったので、より近いものになったと思います。もはや見分けがつかないくらいです。実際、スカパラのメンバーは気づきませんでしたから(笑)。僕自身の思い出はさておき、作品として、よくぞここまで作ってくれたと思います。

──塗装が剥げて、剥き出しになった木目まで揃えていることにびっくりです。

加藤 こういう木目の木材しか使えないじゃんってことですよね。もう抱きしめたい(笑)。

──その他、こだわったところはありますか?

加藤 65年製のネックって、すごく細い握りになっているんです。太いネックが好きな人もいると思うんですけど、僕はナロウネック派なので、このネックじゃなきゃっていうところはありました。同じ65年製でもネックは一本一本、違うらしいです。だから、65年製の仕様ではなく僕の“流木”を再現したものになっているんですけど、データ上のやり取りだけではディテールを詰め切れないとなった時、僕の“流木”をアメリカに送るわけにはいかないので、同じ握りのネックを日本で作って、それを送ってもらったんです。

──オリジナルの“流木”と弾き比べてみていかがでしたか?

加藤 現在の音楽の中で求められているサウンドという意味では、Ryubokuのほうが合っていると思います。ヴィンテージギターは突出していい部分があるんだけど、言うことを聞かないところは、もう全然言うことを聞いてくれない。そこがヴィンテージギターの魅力でもあるんだけど、逆にカスタムショップで作ってもらった今回のRyubokuはバランスが整っていて、ワイドに鳴らせるサウンドだと思います。カスタムショップのマニアの人は、ヴィンテージギターと比べてどうだっていう話になりがちだと思うんですけど、決して比べるものではないというのが僕が行き着いた結論です。ライヴにおいては“流木”よりもRyubokuのほうがサウンドは作りやすいと思います。

──商品としては汎用性がある、と。

加藤 あると思います。ヴィンテージのギターでずっと活躍されてきて、ある時からカスタップショップに持ち替えるギタリストの方って少なくないですよね。その気持ちはすごくわかります。以前は、65年製のオリジナルしか弾いてこなかったからわからなかったんですよ。ワシントン条約の関係で、2000年代の半ばにハカランダを海外に持って行くことができなくなって、それでフェンダーさんにAmerican Professional Stratocasterをお借りしたらイメージが変わったんです。今作られているギターってめちゃめちゃ機能的で、サウンドも作りやすい。これはいいかもって。そこから“流木”のプロファイルの話になったんですけど、そこでカスタムショップに対する偏見が消えたというか、食わず嫌いだったんだなと思いましたね。

> 後編に続く(近日公開)


加藤隆志
1971年鳥取県生まれ。日本だけでなく世界各国で活動する、大所帯スカバンド、東京スカパラダイスオーケストラのギタリスト。2000年に同バンドへ正式加入。メインギターはフェンダーの1965 Stratocaster (Lake Placid Blue)を愛用。
スカパラは、国内に留まることなく世界31ヵ国での公演を果たし、最大級の音楽フェスにも多数出演。その中でも2013年のコーチェラ(アメリカ)では、日本人アーティストとして初のメインステージに立つ快挙を成し遂げている。2019年10月にはメキシコ最大の音楽アワード『ラス・ルナス・デル・アウディトリオ』にて、オルタナティブ部門でベストパフォーマンス賞を受賞。2024年デビュー35周年を迎えた今もなお、バンドのテーマである“NO BORDER”を掲げ、音楽シーンの最前線を走り続けながらトーキョースカの楽園を広げ続けている。
https://www.tokyoska.net/

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