Cover Artist | スキマスイッチ -後編-
“こんな音楽を作りたい”という根本は20年間変わっていない
日本を代表するメロディメーカーとしてこれまで数多の名曲を世に放ち、2023年にメジャーデビュー20周年を迎えてもなお聴き手の琴線に触れる作品を丁寧に作り続けているスキマスイッチが、FenderNewsのCover Artistに初登場! インタビュー後編では、20周年という大きな節目を迎えての心境、今後の活動ビジョンを中心にたっぷりと話してもらった。
ポップスという意味では大衆音楽だけど、量産できないものを丁寧に作っていくことは大事にしています
──今年でデビュー20周年ということで、おめでとうございます! 7月に20周年記念の3枚組ベストアルバム『POPMAN’S WORLD -Second-』を発売し、この作品を引っ提げての全国ホールツアーが終わったところですね。
大橋卓弥(以下:大橋) 一度、2003年から2013年のオールタイムベスト『POPMAN’S WORLD ~All Time Best 2003-2013~』を出したんです。それから10年経ち、その10年分のベストアルバムということで作ったのですが、単純にそれだけ詰め込んでも面白くないなと。あとは最初のベストアルバムを持ってくださっている方もいると思って、面白い企画ができたらいいなって考えて。“大橋盤”“常田盤”みたいにして、リリースされているスキマスイッチの全楽曲からそれぞれがセレクトしたオールタイムベストのディスクを2枚付けて3枚組にしました。それも結構楽しんでもらえているようです。しかも、それぞれの盤に収録する楽曲はドラフト会議制で曲を取り合いながら選んで、会議の模様もYouTubeでアップしています。“大橋盤”“常田盤”らしく、ちゃんとお互いのカラーが出ています。僕は、無意識に自分のヴォーカルがよく録れているものや面白く録れたものを選んで、シンタ君はもうちょっとサウンド面に寄っている感じがしますね。
──常田さんはどうですか?
常田真太郎(以下:常田) 10年目もそうでしたが、その前にもベストアルバムを出させてもらっていて、大きな意味で今回で3回目のベストアルバムなんです。まず、ベストアルバムを出せるということに大きな喜びがあります。この時代にCDっていうのも嬉しいですし、20年目に企画盤(大橋盤”“常田盤”)も含めて3枚組を出せた嬉しさもあります。ライヴもそうでしたけど、例えば夏フェスで“スキマスイッチ初めての方?”って聞いたらヘコむぐらい手が挙がるんですけど(笑)。出会いっていう意味では、今スキマスイッチを知って、遡って聴けるベストアルバムをまた作れてよかったなという気持ちがありますね。今まであまり聴いていなかった方もたくさんいらっしゃるので。一方で、従来のファンの皆さんにも企画盤の評判が良くてやってよかったですし、“スキマスイッチはきっと何かやってくれるだろうな”って皆さん思っていたらしいので。“こう来るとは!”という方が結構いらっしゃるみたいです。
──20年やってこられた秘訣は何だと思いますか?
大橋 CDがなかなか売れない時代になってきましたが、それを置いておいたとしても、やっぱりバラつきがあるんですよね。今回の曲はすごく受け入れてもらえたなぁとか。タイアップが付いていてその映画が好きだったからとか、いろいろなきっかけもあるとは思うんですけど。スキマスイッチを始めた時に思った“こんな音楽を作りたい”という根本が、20年間変わっていないことなんじゃないですかね。時代に合わせてスキマスイッチらしくないことをやっていたら、“うわぁ、スキマスイッチ変わっちゃったな”とか、そう思われることもあるんじゃないかなと思います。だから根っこの部分で、“自分たちがこれをやりたいんだ”って強く思い続けてやってきたから、みんなもついて来てくれたのかなと思います。
──根っこの部分で一番大事にしているものは何ですか?
大橋 二人で、一曲一曲と真剣に向き合って丁寧にモノを作るってことだと思います。当たり前ですけど、“これでいいかな”ってなっちゃいがちな時こそ、そうじゃないなって。いろいろな人の手に渡っていくものだから丁寧に作ろうよっていう感覚ですかね。それが人間味だったり、温度感みたいなものを作っている気がするので。ポップスという意味では大衆音楽だけど、量産できないようなものを丁寧に作っていくことは大事にしています。要は、工場のベルトコンベアで作るようなものじゃない、手作りで人間の温度感があるものを作り続けるということをこだわってやっていますね。
常田 何となくのイメージで乱暴に分けると、最初の10年は音源に支えられた気がしていて、次の10年はライヴに支えられたなっていう思いがあって、どちらもあったから20年目を迎えられたなと思います。特にライヴに関して自分たちの中で決めていたのは、優劣をつけないということです。“スキマスイッチってやっぱホールだよね”っていう人もいれば、“いやいやライヴハウスがいいよね”っていう人もいます。だから、ライヴに対して全方位で行きたいという気持ちが強い気がするんです。あとは、CDをずっと聴いてきてライヴは一度も行っていないという方もいれば、ライヴは毎回行っていますという方もいます。根幹は卓弥と一緒ですけど、両方に真摯に向き合って来られたと思っています。あとはスタッフもそうですし、環境にもすごく恵まれているなと思います。それがないと絶対に20年も保たないと思うので、そこも不可欠な部分なのかなと思います。
──20周年の締めは、11月25日の大阪城ホールと12月22日の日本武道館ですね。〈スキマスイッチ 20th ANNIVERSARY “POPMAN’S WORLD 2023 premium”〉は前回のホールツアーとは違う感じになるのでしょうか?
大橋 前回のホールツアーをベースに、それをさらにブラッシュアップします。オーケストラを入れたり、ホーン隊を豪華にしたり、アリーナなので映像で何か仕掛けを作ってもいいのかなとか…いろいろと考えています。あと今回、スキマスイッチのライブでは初めての、お客さん参加型の光の演出も取り入れたりしますよ。
──お二人がそれぞれ人生で初めて書いたテーマ曲を演奏してほしいです(笑)。
大橋 たしかにそうですね(笑)。もしくは30周年の時ですね、チャンスは。
常田 それぞれ母校の人たちに出てきてもらって一緒にやるみたいな(笑)。
楽器ほどのユニバーサルデザインはないと思うんです
──来年以降の活動のビジョンは?
大橋 丁寧な楽曲作りは続けていきたいですし、ツアーに限らずライヴもやりたいと思います。やりたいことはいっぱいあって、頭の中に構想はあるんですけどね。実現できていないものを一つずつやっていくうちに、25周年、30周年が来てくれたらありがたいなって思います。
──今は映画を早送りで見たり、ギターソロを飛ばして聴いたりするような、鑑賞する側も作る側も時短の時代になっている中で、ゆっくり時間をかけて丁寧にもの作りをすることは逆に大切になると思います。
大橋 そうですね。でも感覚としては今も昔も変わらない気がしていて、当時もCDショップの視聴機に入れてもらって、アルバムを買ってもらうためには“一曲目は何がいいかな?”とか考えていました。それこそ今だったら、1分ぐらいですべて完結するような音楽が求められる。それはメディアによって変わってくるじゃないですか? 僕らも考えていたことではあると思うんですよね。1分くらいでサビに行きたいとか。それが極端に短くなっているだけで、もしかしたら同じことをやっているのかなと思うんです。でも、自分たちが作ってきたものよりあまりにも短いので、そこにちょっと驚いちゃうんですよね。
──今だと頭15秒で勝負ですからね。プログレだったら鍵盤が最初のコードを鳴らしたぐらいです。
大橋 確かに(笑)。僕らの「奏(かなで)」は15秒じゃAメロが始まらないですね。
──逆にそういう曲を残し続けてほしいですけどね。
大橋 そうですね。時代が回ってまた戻ってくる気もするんですけどね。
常田 出せるならCDも出したいですね。こだわってきた部分ではあるので。一曲目から曲順で聴いてもらいたいなっていうのはずっと持っている気持ちです。
──最後に楽器ビギナーにメッセージやアドバイスを。
大橋 練習して上達するものは全部そうですけど、最初が大変なんですよね。ある程度までいかないと楽しさもわからないので、まずはそこまで辿り着いてほしいなという気持ちです。とにかくその楽器に興味を持つ。それこそ今は何でもネットで調べられる時代ですけど、実際に触って気づくことがすごく大事。僕も昔はお金がなくていいギターを買えなかったけど、今思うと、いい音がするギターを買って練習したほうが絶対に続くと思いますね。一度やると決めて、ある程度のものを覚悟して買って、ある程度のところまでやってみる。そうすると絶対に楽しい瞬間が出て、それは一人でも楽しいんですけど、誰かとセッションなんかし出したらとにかく楽しいんですよ。挫折せずに、そこに到達してほしいなって気持ちがすごくありますね。果てしなく難しいものと思い込みすぎず、ある程度まずはやってみてほしいなって思います。そこから派生して自分で曲を作るとなると、もっともっと面白い世界が待っているので、なるべくいろいろな人とセッションもして、音楽で会話してもらえるようになったらいいですね。
常田 楽器は小さい頃からやっている人がやるものというイメージがあるかもしれないけれど、僕も17歳から楽器を始めたので。楽器ほどのユニバーサルデザインはないと思うんです。世界中の人が、性別、年齢関係なく楽しめるもの。それは人類の文化の結晶みたいなものです。確かに練習は面倒かもしれないけど、とにかく演奏できている自分を想像すれば、ちょっとした挫折も乗り越えられる気がします。単純な理由でいいんです。カッコいいと言われたいとか、モテたいとか。それで弾けたことによって、すごく楽しい未来が待っているので。そのうち、僕らがそういう方と一緒に音を出すかもしれないし、そういう方と出会えたら嬉しいですよね。楽器を始めたばかりの自分に言ってあげたいです。“そのうち聴いてきた人たちと一緒にセッションするようになるぞ”って。それは実際に始めた人だからこそだと思いますね。
──常田さんも、クラスメイトがピアノをやっていなかったら全然違う人生だったかもしれないですよね。
常田 クラスメイトと柔道部の先輩、彼らがいなければここには絶対にいなかったですね。それまでは“音楽なんて面倒くさい”と思っていたので(笑)。
──そう考えると楽器って魔法ですよね。
常田 はい。楽器が僕の人生を変えてくれました。
常田:Vintera II 60s Stratocaster | 大橋:Highway Series Dreadnought
>> 前編はこちら
スキマスイッチ
99年、大橋卓弥が自分の曲のアレンジを常田真太郎に依頼したのがきっかけとなり、スキマスイッチ結成。2001年、新宿・渋谷を拠点にライヴ活動を開始。2002年8月、AUGUSTA CAMP 2002千葉マリンスタジアムのサブステージに出演。観客30,000人の前でのパフォーマンスが好評を博し、以来、口コミが広がり着実にライヴの動員を増やしてゆく。2003年7月、1stシングル「view」でオーガスタレコード第一弾新人としてメジャーデビュー。2013年8月、デビュー10周年を記念した初のオールタイムベストアルバム『POPMAN’S WORLD~All Time Best 2003-2013~』をリリース。2023年7月5日にデビュー20周年ベスト『POPMAN’S WORLD -Second-』を、9月6日にテレビ番組『しまじろうのわお!』のために書き下ろした「コトバリズム」を配信リリース。11月25日(土)大阪城ホール、12月22日(金)日本武道館にて〈スキマスイッチ 20th ANNIVERSARY “POPMAN’S WORLD 2023 premium”〉を開催。
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