Signature Model Interview | 鈴木茂 -後編-

ストラトには“オールマイティ”という言葉が一番合う

日本を代表するギタリストの一人、鈴木茂。1970年にはっぴいえんどのギタリストとしてデビューし、そのプレイとサウンドで人気を得る。1974年には、サンタナ、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、タワー・オブ・パワー、リトル・フィートのメンバーなどを迎え、サンフランシスコ/ロサンゼルスでレコーディングした初のソロアルバム『BAND WAGON』を発表。これは今も色褪せない、日本のロック史に輝きつづける名盤だ。それ以降彼は、他のアーティスト作品への参加も含めて、日本の音楽シーンに欠かすことのできない大きな存在となった。 その鈴木茂の新たなシグネイチャーモデル、Made in Japan Limited Shigeru Suzuki Stratocaster®がリリースされる。それを記念したこのインタビュー、後編ではそのニューモデルについて、またストラトの魅力などについても伺った。

レプリカではなく、鈴木茂の理想を体現したモデル

──2020年にフェンダーカスタムショップから茂さんのシグネイチャーモデルが出ていますが、これは基本的にはフィエスタレッドのオリジナルのストラトを再現したものですよね?

鈴木 そうですね。カスタムショップのビルダー(ジェイソン・スミス)さんが日本に来て、僕のストラトを全部バラして、寸法も測って、重さも測って作ったものです。僕からは、同じ木材で、同じぐらいの重さにしてくださいとお伝えして。ピックアップを少しファットなものにしたので、高音が落ちないようにボリュームポットは500kΩ(オリジナルは250kΩ)にしました。コンデンサーはバンブル・ビーですね。今はライブではほとんどこれを使っています。ビンテージは怖いから持ち歩かないようにして(笑)。

──あのストラトに何かあったらファンも泣いてしまいますから(笑)。

鈴木 そうなんですよ(笑)。オリジナルのフィエスタレッドは独特で、低域が少ないと言いましたけど、高域は太いんです。中域以上に音が集まっているというのかな。そういうところはオリジナルのほうが弾きやすいんですよね。だけど、トータルで言うとカスタムショップのも凄くいい音がしてるんです。だから、レコーディングも今はカスタムショップのでやってます。逆に、家でデモを録る時にはビンテージで(笑)。ただ、自分の作品のレコーディングならビンテージを使うかもしれませんね。

──さて今回、Made in Japanのシグネイチャーモデルが出るわけですが、基本的にはカスタムショップ製シグネイチャーモデルを踏襲しつつ、日本の精巧な技術を用い、低めの価格設定で完成させたモデルと思っていいでしょうか?

鈴木 カスタムショップとは違って、ビルダーさんと何度もお会いして打ち合わせができるので、今回は色や見た目だけではなく、音も僕の理想のものにしてもらったんです。さっきから言っている低域がちょっと少ないというところなんかも改善してもらって、こういう音が欲しいんだっていうのを形にしてもらいました。

──なるほど、レプリカではなく、茂さんの理想を体現したモデルになっているわけですね。

鈴木 そうなんですよ。

──見た目の部分で言うと、アンダーコートにデザートサンドという、少しベージュがかった色を使っていて、それがオリジナルとまったく同じらしいですね。だから、上のフィエスタレッドが剥げてくると、下からデザートサンドが出てきて、茂さんのオリジナルと同じような風合いになってきますね。しかも、ラッカー塗装が非常に薄いから、ビンテージ感がすごくあります。

鈴木 フェンダーって、色の数がすごくたくさんありますよね。正直言うとね、 それを全色欲しいの(笑)。ダフネブルーとかもいいじゃないですか。そういう他の色も欲しいというお客さんの声が広がると、フェンダーさんも違う色のを出してくれるかもしれないから、ぜひお願いします(笑)。

──でもファンの方は、いややっぱりフィエスタレッドが一番って言いそうですけどね(笑)。

鈴木 今回のこの色は、何回も何回も色合わせをしたんですよ。カスタムショップのよりも、僕のオリジナルの初期の時の色に近いと思います。まさにこんな感じだったんですよ。少しオレンジが入っていて、明るくて、鮮やかで。“フィエスタレッド”(Fiesta Red)って、カレンダーで祭日を表す赤丸とかの意味なんじゃないかな。僕はそう思っているんだけど、とにかく明るい感じがして、このギターを持つと重い気持ちにならないんですよね(笑)。

「砂の女」が自分の中では一番ストラトの音を上手く使えた

──コンデンサーはブラック・ビューティーが採用されていますね。

鈴木 バンブル・ビーと同じく、スプラグ製のオイルペーパーコンデンサーです。一流オーディオ機器にも使われる希少なもので、バンブル・ビーと遜色ないですね。僕がいろいろ試した結果、コンデンサーはオイル・ペーパーが一番いいんです。マイカもいいんだけど、それだとちょっと大きくなっちゃうんですよ。

──ピックアップの巻き数は通常より約20%多くなっていて、つまり音が太くなっていて、その分、高音が落ちないようにボリュームポットは500kΩのものが採用されているんですね。

鈴木 そのとおりですね。フェンダーのピックアップは、通常は抵抗値が5kΩ台後半なんですけど、今回は12kΩまでの何種類も作ってもらって試しました。12kΩまで行くとさすがに太すぎてフェンダーっぽくなくなっちゃったので(笑)、結局9kΩぐらいにしましたね。

──シングルコイルとしては、9kΩでもかなり太いですね。ネックはオリジナルと同じプロファイルでしょうか?

鈴木 そうです、そこはカスタムショップのも今回のもまったく同じです。

──使用する材も良いものにこだわっていて、しかも重さもオリジナルと同じぐらいになるようにすべて選別したそうですね。

鈴木 ギターって、重いと弾くのが嫌になっちゃうんですよ(笑)。だからフェンダーさんにも無理言って木材を選んでいただいて、僕のオリジナルと同じような重さになっています。

──今後はカスタムショップのと今回のモデルと、どっちを使うか迷いそうですね(笑)。

鈴木 僕はスライドの時にオープンチューニングにするので、一つはスライド用、一つはレギュラーチューニング用にして使い分けようかなと思っています。とりあえず、新しいMade in Japanのほうをレギュラーチューニングにしてやってみようかなと。

──今回のモデルは茂さんのシグネイチャーですけど、素晴らしいストラトの ニューモデルが出来上がった、という印象でもありますね。もちろんそこには、鈴木さんのこだわりも詰まっていて。

鈴木 そうですね。何十年も音楽をやってきて、こういう音がいいなっていうのが自分なりにハッキリしてきて、その上で作ったギターなので。ぜひ一度手に取って弾いていただけたら、良さが分かっていただけると思います。楽器屋さんへ行って、まずは音を出してもらいたいですね。

──ストラトを鳴らしたら茂さんの右に出る人はいないぐらいだと思うのですが、ご自分の曲の中で、ストラトの魅力という観点からすると、どの曲が一番だと思いますか?

鈴木 「砂の女」かな。あれが自分の中では、一番ストラトの音を上手く使えたかなと思います。

──やはり! そのお答えが聞けて嬉しいです(笑)。ちなみに、茂さんが参加した他のアーティストの作品だと何になるでしょうか?

鈴木 うーん、難しいなあ。ユーミン(荒井由実)の「卒業写真」が入ってるアルバム(『COBALT HOUR』1975年)かな。あれはオリジナルのフィエスタレッドで全部やっていますから、僕のあのストラトの音がよく分かると思います。

──最後に、茂さんにとってのストラトの最大の魅力とはどういうところでしょうか?

鈴木 最初のほうの話に少し戻るかもしれないけども、“オールマイティ”という言葉が一番合いますね。きれいな音から派手な音、ワイルドな音まで、様々な音が出せます。繊細なリズムカッティングもできるし、コードを弾きながら歌うのも楽だし、なおかつソロを弾く時には、エフェクターとかで少し工夫すれば十分にいける。その幅広さがストラトの一番の魅力ですよね。

Limited Shigeru Suzuki Stratocaster

>> 前編はこちら


鈴⽊茂
51年、東京都⽣まれ。68年にスカイを結成しプロデビュー。69年、細野晴⾂に誘われ、松本隆、⼤滝詠⼀とヴァレンタイン・ブルーを結成。翌年、バンド名を”はっぴいえんど”と改名し、アルバム『はっぴいえんど』でデビュー。アルバム『⾵街ろまん』、『HAPPYEND』を残し、72年末に解散。74年、単⾝L.A.に渡りソロアルバム『BAND WAGON』を完成させる。帰国後ティン・パン・アレーのメンバーとして数多くのセッション活動を重ね、ソロとしても7枚のアルバムを発表するかたわら、スタジオワーク、ライヴサポート、アレンジャー、プロデューサーとしても活躍。2000年、ティン・パン・アレーのメンバーだった細野、林⽴夫とともにTin Panを結成し、アルバム『Tin Pan』をリリース。2019年に活動50周年を迎え、現在も伝説的ギタリストとして幅広い世代からリスペクトされている。
http://suzuki-shigeru.jp

Related posts