
Special Interview | リッチー・コッツェン
超絶テクニックとソウルフルな歌声を武器に、MR. BIGやザ・ワイナリー・ドッグスなどで世界中のファンを魅了してきたギタリスト/シンガー、リッチー・コッツェン。2024年9月にはソロアルバム『Nomad』を発表し、今年はソロアーティストとしては実に8年ぶりとなる待望の来日公演を実現した。そのタイミングで行われた今回のインタビューでは、日本製のフェンダーとの関係、シグネイチャーモデル「Richie Kotzen Tele」、「Richie Kotzen Strat SSS」へのこだわり、そして“相棒”と呼ぶギターとの関係についてじっくり語ってもらった。
自分の表現で人生を築くこと。それはテクニック以上に価値のあることだ
──あなたのシグネイチャーモデルについてお聞きします。まず、Richie Kotzen Teleでこだわったポイントを教えてください。
リッチー Richie Kotzen TeleはカスタムショップモデルのTelecasterをベースに作ったんだ。このギターは仕上げがとても美しかったから“フィニッシュは絶対に変えないでくれ”と頼んで、しかもコンフォートカットをぜひ入れてほしいと希望を伝えた。弾き手の体にしっくりと馴染む、Stratocasterのようにボディに丸みを持たせて弾きやすくする加工をどうしても施したかったんだ。今ではよく見かける仕様だけど、当時は新鮮だったね。
あと、僕のTelecasterのうち1本は、ミドルポジションのピックアップ配線がシリーズ(直列)、もう1本はパラレル(並列)になっていて、どちらも気に入っていた。だから1本で切り替えできるようロータリースイッチを仕込んでもらったよ。おかげでミドルポジションで追加のサウンドバリエーションが得られるようになったんだ。
ちなみにピックアップは、ネック側にクラシックなサウンド、ブリッジ側にはDiMarzio®に依頼して作ってもらったThe Chopper T™ DP384を採用。少しアグレッシヴなトーンで自分らしさが出せる。見た目も音も気に入っているし、ネック裏もナチュラルな仕上げで手触りが最高だ。ただ、最初に届いた試作のネックは細く感じたので、もっと太めでしっかり握れるものにしてもらっている。フレットは“できるだけ大きく”とお願いしたよ。そんなふうにして“完璧なギター”と言える1本に仕上がったよ。

──それと比べてRichie Kotzen Strat SSSのほうは変更点が少ないように見えますが、実際のところは?
リッチー たしかにテレキャスほど大きな変更はしてないけど、それでも自分にとって重要なカスタムはしっかり入っているよ。まず、メイプルネックにジャンボフレット、ラディアスや重量感も自分好みに調整してもらった。見た目以上に、音や弾き心地に大きく影響する部分だね。加えて、ゴールドパーツやDiMarzio製ピックアップなど、ハードウェアも自分のスタイルに合うように選んでいる。フィニッシュにもこだわりがあって、20代の頃から使っているフレイムトップとメアリーケイフィニッシュの組み合わせは、自分の定番スタイル。木材の選定によるサステインの違いも含めて、音作りに大きく関わってくる。あと、トレモロアームは固定式にしてあって、アーミングしても音程が狂いにくく、ピッキングのニュアンスも安定する。これも自分にとっては外せない仕様なんだ。

──なるほど。Richie Kotzen TeleとRichie Kotzen Strat SSSのサウンドの特徴は?
リッチー まず、Teleはとてもユニークな1本だ。伝統的なTelecasterらしいトゥワング(パキッとしたサウンド)も出せるけど、木材の構成やピックアップの工夫によって、もっとヘヴィな方向にも踏み込める。要するに、普通のTelecasterでは少し難しいようなハードロックのトーンにも対応できるし、ジャズ、フュージョン、ハードロック、カントリー、ブルース…どんなジャンルにもフィットする“幅広い筆”のような1本だと思っている。
一方で、Stratocasterはよりトラディショナルな方向性。だから使う時は、セッティングやプレイスタイルも少し変えているよ。意外に思うかもしれないけど、僕はソロでミドルピックアップをよく使うんだ。あのポジションから得られる音はとても叙情的で、時には人の声のように感じることもある。特にトレモロアームで音に揺らぎを加えることで、言葉では表現できないようなニュアンスも生まれる。こうした表現はTelecasterではなかなか得られない部分だね。Richie Kotzen TeleとRichie Kotzen Strat SSSのどちらも“できること”が重なる部分はある。けれど、そこから生まれる音や表現の語彙は微妙に異なる。その違いが、ギタリストとしての表現力を広げてくれるんだ。

──あなたのシグネイチャーモデルは日本製からスタートしました。それにはどんな経緯があったのでしょうか?
リッチー 94年当時、僕はゲフィン・レコードと契約を結んでいて、アルバム『Mother Head’s Family Reunion』は日本ではMCAからリリースされた。MCA Japanのチームがすごく熱心に動いてくれて、プロモーションのために僕を日本に呼んでくれたんだ。その作品ではStratocasterとTelecasterの両方を使っていたんだけど、日本でとても良い反応をもらい、それがフェンダーとの関係を本格化させるきっかけにもなった。契約自体はアメリカだけど、最初のシグネイチャーモデルが生まれたのは日本。あのアルバムがなければ、今の流れにはなっていなかったんじゃないかな。
今振り返っても、日本発というのはすごく意味のあることだった。日本製フェンダーの職人魂と品質は、本当に素晴らしいよ。今では“世界の新たなゴールドスタンダード”とも言われているらしいけど、僕もそう感じている。スタッフはみな、“どうすればもっと良くできるか?”と常に向上心を持ってギターを作り続けている。それが日本製フェンダーの強みだね。
──これまでのキャリアの中で、“ギターをやっていて本当に良かった”と思える瞬間を挙げるとしたら?
リッチー 2006年に日本でザ・ローリング・ストーンズの前座を務めたのは、間違いなく僕の人生のハイライトの一つだね。でも、何よりも誇りに思っているのは“自分の音楽を自分の声で歌って、音楽で生きていく”という、若い頃に掲げた目標を実現できたことだ。もちろん、MR. BIGやザ・ワイナリー・ドッグス、スタンリー・クラーク、最近ではエイドリアン・スミスとのプロジェクトなど、素晴らしい出会いや経験にも恵まれてきたよ。けれど、何より大切なのは自分の表現で人生を築けていること。それはテクニック以上に価値のあることだと感じているんだ。もしかしたら、商業的な成功を追う道もあったかもしれない。でも僕は自分のやり方で、自分の音楽を届けたいという信念を貫いてきた。その選択に後悔はないよ。
──ギターはあなたにいろいろな景色を見せてくれた、いわば“相棒”のような存在ですね?
リッチー まさに相棒だよ。妻は最高のパートナーだけど、それと並ぶくらい、ギターも僕の人生をずっと一緒に旅してきたバディだ。
──では、“どうすればギターが自分のバディになるのか?”という問いにはどう答えますか?
リッチー それはね、自然な“出会い”なんだと思う。人と人との縁と同じで、“あ、これだ”って瞬間が必ずある。僕は5歳でピアノを習わされたけど、まったくしっくりこなかった。でも、庭に置かれていたギターを初めて見た時に心が弾んだんだよ。“これだ!”って。もうピアノには見向きもしなかったけど(笑)、ギターには惹きつけられた。それが僕の始まりだった。だから、無理に好きになろうとしなくていい。本当にフィットする楽器には、自然と出会える。大事なのは、自分の感覚に素直になることだよ!

Richie Kotzen Strat SSS | Richie Kotzen Tele
リッチー・コッツェン
1970年、アメリカ・ペンシルバニア州生まれ。ギタリスト、シンガー、ソングライター、マルチインストゥルメンタリスト。1992年、ポイズンに加入。脱退後はソロとしてキャリアを積み、99年からはポール・ギルバート脱退後のMR.BIGに参加。2013年、ビリー・シーン、マイク・ポートノイ(ドリーム・シアター)とザ・ワイナリー・ドッグスを結成。さらに2021年、アイアン・メイデンのギタリスト/ソングライター、エイドリアン・スミスとの共同プロジェクト“スミス/コッツェン”を始動。2024年にはソロとして23枚目のアルバムとなる『NOMAD』をリリース。2025年には8年ぶりとなる来日公演を東京・大阪にて開催した。
https://www.sonymusic.co.jp/artist/RichieKotzen/